提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


直売所「こっこ家」でスイーツを販売。健康な鶏肉と卵生産の両輪で時代の要請に応える商品づくり

2017年11月10日

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南 和利さん (鹿児島県奄美市 株式会社みなみくんの卵)(右から2番目)


 人口6万5000人の鹿児島県奄美大島は、奄美群島の中で最大の面積を持ちながら山林が85.4%を占め、農家1戸あたりの耕地面積は96.4aと群島内で最も小さい。農業はサトウキビを中心に、畜産、野菜、亜熱帯性の果樹等がある。農業経営においては、輸送コストの問題や台風対策など離島ならではの課題があり、地産地消を前提とした生産をいかにして確立するかがカギとなっている。
 当地で昭和41年から養鶏を営む南さんは、創業者の父利郎さん夫妻、代表の和利さん夫妻と姉の栄りか子さんの5名の親族と、従業員16名の経営体である。養鶏業を柱に、郷土料理に特化した鶏肉の生産、スイーツの加工から直売所経営までを行っている。


鶏卵・鶏肉同時生産の決め手は「鶏飯」
201710_yokogao_minamikun_16.jpg 「小さい頃から、集卵や選別、サトウキビの植え付けなど家の仕事を手伝っていたので、やっぱり島で農業をやろうかと...」代表取締役の南和利さんは、平成13年にUターンし、父親に養鶏を学びながら働きはじめた。父の利郎さんは昭和41年、18歳で採卵鶏400羽で経営を開始した。採卵だけでなく、親鶏の直売所を開設するなど、新しい事業に果敢にチャレンジしてきた。
右 :養鶏場と南家のサトウキビ畑を背に、創業者の南利郎さん


 和利さんの就農をきっかけに、利郎さんは規模拡大をすすめた。全自動インラインを導入し、鶏舎も新設。現在は3万7000羽である。平成21年には(株)みなみくんの卵として法人化した。

 養鶏業の規模拡大に伴い、卵を産まなくなった廃鶏の販売が課題となった。
 「昔は各集落に精肉店があった」と利郎さんが言うように、奄美大島は豚肉、鶏肉をよく食べる。中でも古くから奄美に伝わる郷土料理「鶏飯(けいはん)」は、今では当地の飲食店でも看板メニューとなっている。炊いた鶏肉のほぐし身、錦糸卵とネギなどの薬味をご飯にのせ、一羽丸ごとの鶏を5~6時間かけて煮出したコクのあるスープをかけて食べるおもてなしの料理だ。昭和43年、当時の皇太子殿下(今上天皇)がこれを食し、おいしいとおかわりをされたことから島内は鶏飯ブームとなり、家庭用だけでなく、飲食店からも鶏飯用の鶏肉の注文が増えた。


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左 :奄美の郷土料理、鶏飯 / 右 :南家特製の鶏飯スープは冷凍で販売


 鶏飯のコクのあるスープには、昔から親鶏を使うと決まっている。長時間煮出しても煮崩れせず、よい出汁が出るからだ。質の良い鶏飯用の親鶏が生産できれば、鶏卵と合わせて経営の2本柱になると考えた利郎さんは、早速生産体制をつくりはじめた。
 昭和49年に現在の食鳥処理衛生管理者の資格を取得し、食鳥処理場を建設。認定小規模食鳥処理場許可を得て、食肉販売を開始した。島内の小売店や飲食店に卸すだけではなく、昭和50年には、島の中心部である名瀬市内に「南養鶏場直売センター」を開設し、 家庭で鶏飯を作るための鶏肉を販売した。

 
独自の生産ローテーションを確立
 鶏の品種も試行錯誤の連続だった。採卵専用種では肉付きの良い親鶏はできず、肉用専用種は産卵量が減る。何年もかけて最適な品種を探し続け、ようやく卵と肉の同時生産に適した系統間雑種にたどり着いた。


 「単純に卵を産まなくなった廃鶏ではだめで、むしろ卵をよく産んで脂が乗っている時に精肉にする。おいしい卵を作ろうとするより、いい出汁が取れる健康な鶏肉を作れば、健康でおいしい卵も生産できる」と和利さん。母親の敏子さんは、鶏飯専門店の女将と協力しておいしい鶏飯スープの試作を重ねた。
 その結果、飼料給餌量を増やして12カ月採卵した鶏の肉質がよく、コクのあるスープがとれるとわかり、18カ月だった採卵期間を短縮した。これを受けて、鶏卵、鶏肉の周年出荷の計画を立て、ひなの導入回数も見直して、独自の生産ローテーションを確立した。


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左 :自慢の鶏肉は、鶏飯スープがおいしく煮出すことのできるよう大ぶりに切って売っている。パックも大、中、小と取り揃えている
右 :かごしまブランドの「かごしま黒豚」「鹿児島黒牛」に続く第3の黒、「黒さつま鶏」も生産


 味へのこだわりは、添加飼料の開発にもつながった。「昔の鶏のようなコク深い味を出すには、昔の鶏が食べていた薬草や海藻、糖蜜、魚の頭部などを給与したらよいのではないか」との発想から、オリジナルの飼料を基本飼料に3%混ぜて与えている。消費者からは「卵は弾力があり、甘みが強い」「臭みがなく、いい出汁が出る」と好評だ。


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左 :ギフトパックもあるブランド卵「みなみくんの卵」。島外から入る価格の安い卵に比べて、品質がいいと売れ行きでも負けない
右 :店内ポップより。この通り、黄身をつまむことができる


鶏肉からスイーツ、野菜までそろう「こっこ家」をオープン
 鶏肉とともに卵の味と品質も知られるようになり、平成10年からは「みなみくんの卵」ブランドで販売するようになった。そうして利郎さんが和利さんに経営を移譲し、和利さんを中心に新たに起こした事業が、鶏肉、卵、スイーツを直売する「こっこ家」の経営である。


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「こっこ家」の外観(左)と 店内のケーキのショーケース。手書きのポップでお菓子を紹介(右)


 オープンに向けて地元の女性たちを雇用し、自家製の卵をふんだんに使ったスイーツの商品開発に着手した。商品開発、店舗づくり、接客にはどうしても必要と、姉の栄りか子さんを呼び寄せ、店長になってもらった。

 シュークリーム、ロールケーキ、プリンの3品目からはじめた商品づくりだったが、プロはひとりもいない。スタッフはオーブンメーカーが主催する製造講習会を受講し、九州各地の養鶏農家が営むスイーツ店を徹底的に視察した。「パティシエのお菓子とは違う、卵を知りつくしている養鶏農家らしい、素朴でおいしいスイーツをつくる」ことを掲げてスタート。「弟の男の目線と、私たち女性とでは、味の感覚も食べたいものも違うからこそ、幅広いお客様に向けた商品づくりができているのでは」と、りか子さんは言う。


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左 :島の内外を問わずお土産に喜ばれているという焼菓子。黒糖マドレーヌや、すもも、マンゴーなど、島の特産品を活かしたマフィン、おいしいと評判のシュー皮を使ったラスクもある
右 :こっこ家のオープン当初から販売しているシュークリーム。自慢の卵をふんだんに使ったカスタードクリームは、注文が入ってから詰めて渡す。濃厚ながらも後味はさっぱりしている


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左 :地元の特産である黒糖焼酎を使ったカステラ
中 :卵の形の容器に入ったプリンも人気商品
右 :養鶏場の鶏糞を使って野菜をつくっている農家の野菜も販売している。肉、野菜、お菓子、地元産の塩や砂糖の調味料までそろう


 オープンは平成23年。以来増え続けるスイーツなど加工品にはタンカン、黒糖など、地元素材を豊富に使っている。子どもたちにも安心して食べさせられる食材を使ったお菓子は、季節ごとに品ぞろえも変わり、リピーターをひきつけて離さない。
 たくさんのスイーツの向こう側には冷蔵ケースがあり、おいしそうな鶏肉に、母の作った鶏飯スープも並んでいる。鶏糞を提供している農家の野菜もある。カフェスペースには絵本を置き、広々とした敷地内には遊具も並ぶ。「ファミリーでゆっくり楽しんでもらいたい」と和利さん。

 「昔ながらの食文化も含めた良い食があり、安心して子育てができ、若い人も働く場所がある。そんな島づくりにも貢献したい」というのが、南さん家族の願いでもある。
(ライター 森千鶴子 平成28年7月4日取材 協力:鹿児島県大島支庁農林水産部農政普及課)
●月刊「技術と普及」平成28年10月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


(株)みなみくんの卵
鹿児島県奄美市笠利町大字屋仁901−2
TEL 0997-63-2574

○みなみくんの卵 こっこ家
住所:鹿児島県大島郡龍郷町中勝2878-1
TEL:0997-62-5511
営業:11:00~18:30(不定休)