提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


エノキも人材育成も愛情こめて ハートフルな企業が目指す6次化とは

2017年09月25日

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清水信夫さん (長野県長野市 株式会社柿の木農場 株式会社柿の木冷温フーズ)(写真右)


 昭和53年の創業以来、エノキダケ栽培一筋の柿の木農場は、スーパー向けのパック商品を主力に営業してきた。しかし、業界全体の生産技術が向上したため、エノキが通年市場に出回り価格が下落。商品の差別化も難しく、あらたな販路を模索していた。
 そんな折、ある展示会で「冷凍きのこ」の存在を知り、その直後、「冷凍きのこがほしい。作るなら買いたい」という運命的なオファーを受ける。
 そこから、手探り状態で冷凍技術の構築、施設の建設、それに伴う衛生面の整備、資金調達など新たな挑戦が始まった。そして、加工部門として、柿の木冷温フーズを設立。グループとして本格的に6次化に取り組んでいる。


深刻な価格の下落
201709_yokogao_kakinoki_2.jpg 柿の木農場・柿の木冷温フーズがある長野市篠ノ井地区は、千曲川と犀川に挟まれた肥沃な地。リンゴの特産地であり、エノキダケ栽培発祥の地・松代や川中島古戦場にもほど近い。
 長野県は長年、エノキの生産量全国1位を誇ってきたが、近年どの生産者も先行きの見えない値下がりに頭を悩ませていた。
 人工栽培が盛んになり始めた当初は、1箱(6kg)1万円を超えていたエノキだが、現在では年平均で約1200円。需要の少ない夏場では約900円にまで下がるという。生産コストは同じでも価格だけが約8分の1になる計算だ。生産技術の向上によって、1年を通して市場にエノキがあふれた結果である。
右 :1万1000m2の敷地に、仕込み場、接種室、培養・生育室、事務棟などが立ち並ぶ


冬の黒字で夏の赤を埋める
 エノキは収穫までに50日ほどを要する。約1カ月半前に出荷量を予測し、さらに欠品にならぬよう多めに作っているため、どうしても日々売れ残りが出る。柿の木農場では毎日6~7tの収穫があるので、残りをそのままにはしておけない。瓶詰の材料として、たとえ二束三文でも出荷するしかないのだ。本来の価値を見出せない消極的な販売方法である。
 スーパー向けの商品が高単価なら採算も合うが、下がり続ける価格ではそうもいかない。「需要の増える冬場で何とか黒字を出し、夏場の赤を埋めているのが、多くのエノキ生産者の実情」と清水さんは語る。


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左 :収穫してすぐに加工するため、香りやうまみ、歯ごたえが損なわれない
右 :湿度や温度管理が行き届いた培養室で育つエノキ


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左 :ひとつひとつていねいに手作業で収穫される
右 :目視の厳しいチェックから、高品質のエノキが生まれる


冷凍きのことの出会い、そしてオファー
201709_yokogao_kakinoki_14.jpg そんな中、清水さんはある展示会で冷凍きのこと出会う。その時は「元が安いのに、冷凍のコストをかけて採算が合うのか。誰が買うんだろうか」と疑問に思ったが、何となく気になった。それからほどなくして、ある企業から「冷凍きのこを探している。お宅に作る気があるのなら買う」とオファーを受けることになったのだ。
 そこで、冷凍機を扱う業者に協力を仰ぎ、試行錯誤しながら冷凍エノキのサンプルを作成。そして、契約までこぎつけ、平成25年に柿の木農場内に加工施設を建築するに至った。
 初めは気づかなかった冷凍きのこの需要だが、商談を重ねるうち、商社のニーズに合致していることに気づく。
右 :自社キャラクター「エノッキーくん」


①安定した品質
 収穫したエノキを敷地内で急速冷凍加工するため新鮮。また、衛生管理を徹底しているため、安心安全の品質。
②欠品の心配がない
 冬場はきのこの相場が上がり品薄になるが、冷凍品ではその心配がない。
③安定価格
 値決めされているので相場に左右される心配がない。
 ほかにも、カット、ほぐし作業済みのため仕込みの手間が省け調理時間の短縮ができる。冷凍することで細胞壁が壊れ、うまみが格段に増すというメリットもある。


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左 :徹底した衛生管理の中行われる、カット作業
右 :さまざまなパッケージで出荷される


加工部門として冷温フーズを設立
 そして、2年後の平成27年の春。作業効率や出荷量、衛生面のさらなる充実のため、A-FIVE(農林漁業成長産業化支援機構)を活用し、加工専門の「株式会社柿の木冷温フーズ」を設立。正社員6名、パート2名で営業を開始した。販売については代理店に委託。
 そして、柿の木冷温フーズでは、エノキだけでなく、長野県ならではの多種類のきのこをニーズに応じて冷凍出荷している(エノキ以外は他生産者より仕入れ)。
 「エノキは味に癖がなくどんな料理にでも合う。とくに冷凍エノキは鮮度も長持ちする。和洋中のレシピ開発にもぜひ利用していただきたい。そして、今後も市場ニーズの変化に敏感に対応し、新しい商品の開発にも取り組んでいきたい」と清水さんは意欲的に語ってくれた。


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左 :自信と愛情をもって冷凍きのこを製造する社員の皆さん
右 :冷凍エノキのパッケージ


障がいのある人にも雇用のチャンスを
201709_yokogao_kakinoki_11.jpg 柿の木農場では28年前、養護学校の実習生を迎えたのをきっかけに、現在まで数多くの障がい者を雇用してきた。第一期生となるその男性は、47歳になった今も現役で働いている。
 また、一人ひとりの能力を育み社会で活躍できる人材を生み出すため、作業場やグループホームも運営している。
右 :障がい者雇用優良企業認定書など


 長野県では近年、販売競争の激化により、きのこを生産する小規模農家の経営が圧迫されている。そこで、柿の木農場は、栽培技術の問題で不採算に陥っていた会社を、雇用はそのままに吸収。新たな雇用については障がい者とともに働くA型事業化(※)も視野に、広く地域に貢献する職場として再生している。
 また、福利厚生の一環として、ID(知的障がいを持つ人の)バスケットボールチームを編成。練習を重ね、チャンピオンシップ長野大会で優勝を果たし、2名の従業員が県の代表として選出された。その活躍は仕事にも反映され、それまで以上にやる気と責任をもって業務に取り組むようになったという。
 「時間をかけて訓練することで、働く力をつける障がい者は決して少なくない。訓練の場や仕事の選択肢を増やし、地域の中で当たり前の生活ができるようになってほしい」と、取締役会長の柿島滋さんは語る。


雇用形態にはA型とB型がある。A型は事業所が直接雇用契約を結び、国の定める最低賃金を支払う。B型は雇用契約は結ばず、事業所が工賃を支払う


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左 :事務所に飾られた優勝トロフィー
右 :熱心に練習を重ね、栄光をつかんだ仲間たち


 エノキの栽培には人の手、人の目が欠かせない。ていねいに手間ひまかけて大切に育て上げる。その姿勢は柿の木農場の障がい者の就労支援にも通じている。
 エノキも人も愛情たっぷりに育てるハートフルな企業。その6次化への挑戦は始まったばかりである。
(ライター 松島恵利子 平成28年5月12日取材 協力:長野県長野農業改良普及センター)
●月刊「技術と普及」平成28年8月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


株式会社 柿の木農場 ホームページ
長野県長野市篠ノ井会1054-1
TEL 026―293―5190