提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


地域とのつながりを大切にしながら規模拡大と6次産業化に取り組む

2017年06月30日

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金子春雄さん (青森県上北郡七戸町 有限会社金子ファーム ふれあい牧場ハッピーファーム)


 東北新幹線七戸十和田駅から車で約10分。国道4号線の七戸バイパスそばに、敷地面積75haの「ふれあい牧場ハッピーファーム」がある。牧場内には手づくりジェラート店NAMIKIと、ランチを提供するレストランNARABIがあり、菜の花畑やひまわり畑、動物とふれあえるコーナーなども整備。年間20万人以上が足を運ぶ人気スポットとなっている。


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左 :「手づくりジェラート店NAMIKI」の店名は、このけやき並木にちなんで付けられたもの
右 :牧場内に設置された牛のベンチ


規模拡大を支える確かな肥育技術
 ハッピーファームを経営するのは、肉用牛の肥育を主体とした事業を展開する(有)金子ファーム代表取締役の金子春雄さん。

 六ヶ所村の畑作農家に生まれた金子春雄さんは、農業高校の畜産科を卒業後、農協勤務を経て、昭和46年に肉用牛の肥育を始めた。しかし、昭和49年、第一次オイルショックの影響で牛の価格が暴落。3頭から200頭にまで増やした牛を全頭処分し、一時は運輸会社で働いた。昭和50年には国の「むつ小川原開発」により六ヶ所村からの立ち退きを余儀なくされ、畜産業が盛んな七戸町へ移転した。

 試練を乗り越え肥育を再開してから、飼養頭数は増加の一途をたどる。「取引先から『金子さんの牛がほしい』と言ってもらえるように、情報をいろいろ集めて、相手が求めているものは何かを常に考えながらやってきました」と金子さん。確かな肥育技術が規模拡大を支え、平成6年には有限会社金子ファームを設立した。


 金子ファームの経営の中心は、ホルスタイン種去勢牛の肥育。抗生物質を一切使わずに育てた牛は「健育牛(けんいくぎゅう)」のブランド名で販売している。平成20年には全国枝肉共進会ホルスタイン種去勢の部で農林水産大臣賞を受賞。味、品質、安全性ともに、高く評価されている。
 ホルスタイン種に加え、交雑種も肥育。また、4〜5年前から黒毛和種にも取り組み始め、東京食肉市場で毎年開催される全国肉用牛枝肉共励会で、平成26年は名誉賞に次ぐ最優秀賞、平成27年は優秀賞に輝き、その快挙は周囲を驚かせた。


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左 :自家農場で収穫したデントコーンを食べて、牛たちは健康に育つ
右 :黒毛和種とホルスタイン種の交雑種


 子牛3頭から始めた肥育事業は、創業から45年の間に直営14農場、預託13農場で1万1000頭以上の牛を飼養するまでに拡大し、従業員は80名以上、売上高は約59億円。青森県一の大規模経営を確立している。また、資源循環型畜産の実践が評価され、平成23年の第60回全国農業コンクールで名誉賞を受賞。同年の農林水産祭で日本農林漁業振興会会長賞(畜産部門)の栄誉に輝いた。


肥育一筋から、6次産業化へ
 先進の畜産経営を展開する中で、食品加工や販売、観光分野に進出することになった。きっかけは、平成13年に長男が後継者として就農したことだった。加工品販売に意欲を持ち、自社生産の交雑種の肉を用いたビーフジャーキーやレトルトカレーを委託製造し、平成17年から販売を開始した。
 平成18年には、明治時代につくられた競走馬生産牧場「盛田牧場」の跡地を買い取り、ハッピーファームを整備。「大規模畜産経営を続けていくためには、地域の人の理解が必要不可欠。畜産の現場を見てもらいたいという思いは、以前からありました」。肥育一筋から6次産業化への取り組みを本格化した経緯を、金子さんはこう説明する。長男に続き、平成20年に次男も家業を継ぎ、2人の息子とともに事業を推進していけるようになったことも、後押しとなった。


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左 :しゃぶしゃぶ用もも肉を使ったビーフジャーキーは柔らかさが自慢の一品
右 :交雑種を使ったビーフカレー


 敷地内ではミニチュアホースや白馬、綿羊などを飼育するとともに、景観作物を作付けた。自社製堆肥を使って無農薬栽培した菜の花の加工品として、ハチミツや菜種油、にんにくオイルなどを委託加工し、新たに商品化。これらオリジナル商品は、牧場内や「道の駅しちのへ」で販売しているほか、自社サイトなどネットショップでも販売している。

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左 :ハッピーファームでは動物とのふれあいも楽しめる
右 :美しい菜の花畑。加工品もつくられ、「菜の花の循環」を実現


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左 :堆肥を活用した健康な土で菜の花を栽培。その種から搾油した「牧場のなたね油」
右 :花が咲く時期に合わせてミツバチを放し、集められた貴重な蜜を商品化


 さらには「おいしいものを提供したら、もっと楽しんでもらえるのでは」と考え、敷地内にあった機械倉庫を改装して、平成22年8月に手づくりジェラート店NAMIKIを開店。「やるからには、日本一、世界一おいしいものを出そう」と、乳用牛としてジャージー牛を仕入れ、衛生面を考慮してパイプラインミルカーを導入した。ジェラート製造機は本場のイタリア製。フレッシュな牛乳を使い、できたてのジェラートを出すことにこだわる。製造・販売は、長男の妻が担当。ジャージーミルク、チーズなどの定番商品に加え、自家栽培のブルーベリーやカシス、カボチャ、トマト、地元農家から届く野菜や果物などを使用した季節限定のフレーバーも並び、時期を問わず人が訪れる。ジェラート店のオープンを機に、ハッピーファームの来場者は急増した。
 6次産業化事業を活用し、NAMIKIの並びに「レストランNARABI」を開店させたのは平成25年。黒毛和種の「NAMIKI和牛」、交雑種の「NAMIKI牛」を使ったランチを提供し、人気を呼んでいる。


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左 :牧場の景観と調和した「手づくりジェラート店NAMIKI」
右 :ジェラートは定番商品と季節限定商品を合わせ、常時12種類を用意。自社サイトのオンラインストアからも購入できる


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左 :「レストランNARABI」では、牧場で育てた牛肉を使用したランチを提供。席数は20席
右 :薄切りにしたNAMIKI牛のサーロインを薄切りにして、ごはんの上にのせた「NARABIごはん」


地域との共存を図りながら新たな構想の実現に向かって
 ハッピーファームは町内の保育園や幼稚園、小中学校の遠足や社会化見学、総合学習にも利用されている。金子さんは「子どもたちに『牛さんのおかげで、ジェラートやお肉が食べられるんだよ』と説明すると、初めて気づいたような顔をします。ここに来て、見たり、聞いたり、においを感じたりすることは、畜産や金子ファームのことを知ってもらうチャンスだと思っています」と話す。今後もこうした機会を大事にし、積極的に対応していく考えだ。また、さらなるにぎわいを生む展開も考えているという。


 ハッピーファームの敷地内には、明治45年に建設され、現存する最古の厩舎といわれる南部曲家育成厩舎など、国の登録有形文化財に指定されている歴史的建造物が8つあり、その整備や管理も金子ファームが自費で行っている。「この牧場は、たまたま自分たちが管理しているだけで、七戸の共通財産です。地域の皆さんのために利用できればいいと思っています」。地域との共存を図りながら、畜産業への理解を深めてもらう場に。金子さんの構想は広がる。
(ライター 橋本佑子 平成28年2月5日取材 協力:青森県上北地域県民局地域農林水産部 農業普及振興室)
●月刊「技術と普及」平成28年5月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


(有)金子ファーム ホームページ
青森県上北郡七戸町鶴児平41
TEL 0176-62-6393