提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


子どもへの愛を形にしたフルーツトマト「星のしずく」で農家の新たな可能性を求めて

2017年05月08日

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原田弘子さん (徳島県阿波市 原田トマト)


 原田弘子さんは、ハウス11棟でご主人とトマトを育て、青果の出荷と加工品としてピューレやコンポートなどを直販と通信販売で届けている。日本野菜ソムリエ協会認定の調味料ジュニアマイスターでもある。圃場のパートが1名、週1回程度の事務のパート1名、時々娘夫婦が手伝いに来るが、主要作業は原田夫妻が行っている。個人農家でありながら6次産業化事業の対象に認定され、4000軒を越す顧客を持つ。


子どもや孫が安心して食べられるトマトを作りたい
 徳島県北部、吉野川の北岸に広がる阿波市土成地区は古くから交通の要衝で、肥沃な農地が広がっている。地域では葉タバコのほかにハッサク、ブドウなどの果樹が生産されていたが、葉タバコの生産調整とともに、レタスやアムスメロンなどの生産に切り替わった。原田さんもアムスメロンを作っていたが、何か新しいものを作りたいという思いがあった。


 ある日、知人からトマトをもらって食べた。あまりのおいしさに驚き、自分も作ってみたいとご主人に伝えた。突然の話に反対されたが、「子どもや孫に安心して食べられるトマトを!」という思いから、無理を言って実験的にハウス2棟でトマトを作ってみた。友人たちにも配ったところ大好評。「こんなおいしいトマトは初めて! と言ってくれて」。
 その後、口コミで評判があっという間に広がり、気がつけば250軒のお客さんから注文が来るようになった。送り先が300軒を越えると発送作業だけで忙殺されたため、コンピュータによる管理をはじめた。「まさかこんなに多くの方に支持されるとは」と原田さんは笑う。


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おいしいトマトを加工品にしたい
 当初は青果トマトを販売していたが、加工品を作れないかと考えるようになった。イチゴ農家の女性が、イチゴジャムを作りパン屋さんに卸しているという話を耳にして、ますます夢がふくらんだが、日々の生活や義父の介護もあって時間的余裕がなかった。自家用にトマトソースやピューレなどは作ってはいたが、「とにかく今はおいしいトマトを作り、いつか夢を実現させよう!」と自分を励ました。

 やがて生活に余裕が生まれたとき、「今しかない」と一晩考え抜き、翌朝友人たちに打ち明けた。「応援するから」と言われ、すぐに行動に移した。トマトの販売先である東京・渋谷のイタリアンレストランに出かけて相談すると、シェフは何も言わずパスタを作ってくれた。「おいしいパスタ! どうやって作るのか教えて!」とたずねると、シェフは「何も手を加えていませんよ。トマト自体がおいしいのだから」という言葉が返ってきた。それを聞いた原田さんは「いろいろな加工品を作ってみんなに食べてもらおう」と思ったという。今から10年前のことだ。
 自前の加工所だけは建てたいと思い、ご主人に申し出ると「うまくいかなかったら、わしの昼寝部屋にでもするか」。自己資金で加工所を整備した。

 トマトは季節によって味が違う。そのままピューレにすれば、いつでも季節のトマトの味を楽しんでもらえる。生のトマト「星のしずく」と、これを使ったピューレを「ルナロッサ」と名づけた。抗菌化作用のあるリコピンの多い皮をまるごと煮込み、うま味と甘味を濃縮した「ルナロッサ」は販売と同時に大好評。その後、パスタソースの「阿波のアラビアータ」、ドレッシングの「エトワール」、デザートの「星のしずくトマトゼリー」など、次々と新商品を開発していった。平成21年度優良ふるさと食品中央コンクールで「農林水産省総合食料局長賞」を受賞した。また、第1回阿波の逸品選品会で「特選阿波の逸品」に選定されるなど、数々の栄誉を受けている。


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左 :リコピンを多く含む皮も丸ごと煮込む
右 :マスコットの「ルナちゃん」は人気者


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左 :トマトを丸ごとゼリーに包んだ極上デザート「星のしずく・トマトゼリー」
右 :旨味、甘みを凝縮したトマトピューレ「ルナロッサ」


いいものをまじめに作っていれば、必ず認められる
 生産や加工品作りはお手のものの原田さんだが、販売はまったくの素人だった。「コンポートを作ったとき、いいワインを使ったので高くなり、ちっとも売れなかった。ちょうど百貨店から、『何かいい商品はないですか?』と言われて、コンポートを送ったら『これはいい』と採用されました。私は作るのは好きだけれど売る方は全然ダメ。フェアでも『いらっしゃいませ』がなかなか出てきません」。だが、百貨店担当者から、「いいものをまじめに作っていれば、必ず認められる」と言われた言葉は、今も大事に胸にとめているという。


201704_yokogao_harada_5.jpg 当初、原田さんは6次産業化のことはまったく知らなかったという。「1%のものを100%にするのが加工であって、少しのトマトで多くの利益を上げるべきだ」と言われたが、「それは大企業に任せたらいい」と考えていた。とにかく生産者にしか作れないものを作りたいという思いがあった。


 生産・加工・販売に忙しく働いていたある日、当時の農林水産大臣が「これからは6次産業化を進めないといけない」と語っているのを聞いて、「そういうものがあるのか」と初めて知ったという。「個人農家だから6次産業化の認定を受けるのは無理だろうと思っていたら、県庁や普及センターの方から、がんばって申請しましょうと励まされ、教わりながら書類を作りました」。吉野川農業支援センターでは、エコファーマー認定や、とくしま安2GAP認証の支援、6次産業化に関しても、県単事業を活用した商品開発の支援を積極的に行っている。
右 :充実した内容のホームページからの通信販売も楽しい


80歳を超えてもお弁当作りをしたい
 平成24年2月に6次産業化認定され、中古だった冷凍・冷蔵庫、空調設備などを整備し、生産性が向上した。同時に、プランナーから事業拡大と販路拡大の計画を教わったことで、目の前が明るく開けたという。「私たち個人農家が6次産業化に認定されることは、がんばればがんばっただけ支援を受けられ、思い描いている夢が実現するということ。皆さんもぜひ挑戦してほしいです」と原田さん。


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左 :インターンシップで作業を学ぶ大学生と
右 :収穫から選別、発送作業まで原田さんがこなす


 彼女のこれからの夢は、トマト以外にもいろいろな野菜や米を作り、高齢者にお弁当を届けたいということ。「テレビで、80歳くらいのおばあちゃんたちが食堂をやっているのを見て、私も新鮮な野菜とお米のお弁当を作りたいと思ったのです」。6次産業化によって、原田さんの夢は大きく羽根を広げ、大空に羽ばたきだそうとしている。
(ライター 上野卓彦 28年1月21日取材 取材協力:徳島県東部農林水産局 吉野川農業支援センター)
●月刊「技術と普及」平成28年4月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


原田トマト ホームページ
徳島県阿波市土成町郡101
TEL 088-695-3189