提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


夢のある農業の実現は、 地元の未使用資源と地元になかった南国フルーツの組み合わせ

2017年01月10日

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椛島一晴さん(福岡県柳川市 農業生産法人(有)杏里ファーム)


 「柳川の川下り」で有名な観光地でもある柳川市は、福岡県南部、筑後平野の南西部にあり、有明海に面した干拓地が多くを占める水田地帯。基盤整備された田んぼが続く中、ヤシの木に温室、そして「マンゴー」の、のぼりが現れた。経営者の椛島(かばしま)一晴さんが「柳川に南国をつくる」というコンセプトで整備した直売所兼温室カフェである。


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 :マンゴーの直売所は南国ムードいっぱいの木々が目印 /  :直売所の外観


自分でできる農業の模索
 「30代で就農する前は、建設業をやっていました。だから、何でも自分で作るんです。この直売所もほとんど自分でつくっています。でも、農業はトロピカルフルーツからスタートしたわけではなく、稲ワラの収集販売からなんです」


 柳川市は古くから、イ草の生産、加工が盛んで、椛島家もイ草を250a栽培し、畳表の加工を行っていた。椛島さんは平成3年、30歳の時に両親が体調を崩したことを契機に、それまで自営していた建設業をやめて就農した。「正直なところ、自分は農業をやりたくなくて建設業をはじめた。農業はセリ値に左右されて経営が安定しない。作業自体とても重労働なのに報われない。両親が体を壊すのも、もっともだと思いました」

 建設業から参入した自分でもできることをと、平成6年から稲ワラの収集販売に着手する。水稲収穫後の稲ワラを集め、直径約1mのロール状にして肥育牛の飼料として販売するのだ。筑後地域では、ワラのほとんどは焼却されている。それは麦、大豆との組み合わせで水田がほぼ200%の土地利用になっているからだ。ワラを田に鋤き込むのは、次の作業に影響があるということで敬遠される。焼却灰さえ利用されない、筋金入りの未使用資源であった。だからこそ量は豊富にあり、畜産農家からの需要もあると見込んだ椛島さんは、1年目から自己資金でトラクターやロールベーラなどの機械を購入した。


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トラクターやロールべーラーなども自己資金で整備し、園芸産地に売り込みをかけた


 しかし初年度は赤字。ワラの品質についての知識がなく、泥かみや乾燥不足などで値段が悪かった。2年目はそれらを克服し、前年同様に買い取ってもらおうとしたが、取引先の商社が稲ワラ部門から撤退してしまった。「200坪くらいの倉庫を借りて稲ワラをいっぱいつめて、さあ販売しようというところで売り先をなくしてしまったのです」


自身で販路を開拓
 自ら販路開拓をはじめ、ようやく軌道に乗ってきた平成12年、口蹄疫が発生する。輸入ワラの検疫が強化され、畜産農家からの国産ワラの需要が一気に高まった。すると稲ワラの収集販売に取り組む農家が増え、収集する圃場の確保と価格の競争が激しくなった。この時生き残ることができたのは、それまで培ってきた地元の農家との信頼関係があったからだ。

 柳川は水稲・麦の二毛作地帯。限られた期間に機械と労働力を有効に利用したい。そこで、おもに収集している3地区で、地区ごとに数品種を収集することにより、8月中旬から11月上旬まで安定した稲ワラ収集が可能になった。現在、ワラを収集する圃場は本社から10km以内の範囲に集まっている。効率的に収集できているのは、稲ワラを供給してくれる地元農家と信頼関係を築いた結果、各地区の集落営農組織(水田面積50ha前後)を通じて、取りまとめを依頼できるようになったからだという。


夢のある農業は、経済をまわすことから
 「新規参入の自分は、土地利用型よりも高収益型」と考え、稲ワラと組み合わせられる品目を模索した。沖縄でトロピカルフルーツに出会い、「柳川に南国を作って、みんなを楽しませたい」とひらめく。まずは育てやすいドラゴンフルーツからはじめた。


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 :ドラゴンフルーツの果実
 :ジェラートやアイスキャンデーは委託加工も受けている


 しかし、これを売り切ることができなかった。1カ月に2回収穫期がくる。味にもあまり特長はない。レッドドラゴンは、色を上手に使って商品化したらおもしろいかもしれないと、ジェラート(アイスクリーム)製造に着手した。
 すると、お客さんから「マンゴーはないんですか?」という声が多く上がった。そこでマンゴーも作ったが、ジェラートにして出すだけでは、採算が合わない。農協に出荷してみたが、市場での競争力がなく値が付かない。ならば自分で売ろうと直売所をはじめた。ジェラート工場もつくり、直売所で販売した。宣伝は立て看板を多数つくり、高速の出入口や近隣の観光地から誘導をかけて集客した。

 妻の栄子さん(取締役)は勤めていた会社を退職し、ジェラートづくりを学んだ。製造・販売の知識や技術を一から習得し、自家果実の風味や甘さを最大限に生かせるよう、果肉量や糖分・水分などの調合について試作を繰り返しながら、現在の製品を確立したという。ジェラートのコンセプトは「口福(こうふく)」。果実栽培にはできる限り農薬を使用せず、アイスクリームも香料・着色料は使用していない。そのため果実そのものの味わいが感じられ、おいしいと評判になった。


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から :マンゴーなどトロピカルフルーツは温室で栽培 / 自社素材で作るジェラートは、10種類を下らない


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 :女性の発想で牽引してきたジェラート工場
 :大ヒット商品、カバ印のアイスキャンデー


 平成24年に「椛島氷菓」を商標登録し、ブランドを確立。取引先の要望から生まれた「カバ印のアイスキャンデー」は、看板商品となった。今ではアイスクリームはもとより、アイスキャンデーの委託加工の注文も多い。最低500本の小ロットから数千個の大きなロットまで製造できる点も喜ばれている。
 椛島さんはこれまで、施設の建設に国や県の補助金は使ってない。フルーツ用のハウスを建てるとき、南筑後普及指導センターの紹介でスーパーL資金を利用したのみである。「6次産業化プランナーさんのアドバイスは受けていますが、現在検討中の新しい工場も、最終的には自己資金で建設することになるでしょう。自分のお金の方が使いやすいですよ」と椛島さんは言う。


ブーゲンビリアなどの花きも栽培し、直売所をにぎわいの場に
 杏里ファームの直売所には、フルーツやアイスクリームを求めて、平日でもひっきりなしにお客さんが訪れている。広々とした広場のガーデンテーブルでくつろいでいる家族連れも多い。「柳川の南国」は、テレビにもひんぱんに取りあげられ、百貨店の催事にも多数声がかかるようになった。訪れた人に、より南国気分を味わい楽しんでもらいたいと、温室内にたくさんのブーゲンビリアを植え、真夏以外のシーズンにはカフェを併設して人々を迎える。
 昨年は年間の来場者が約2万人となり、もはや市の観光名所のひとつとなっている。近隣市町の約20カ所の高齢者福祉施設も、レクリエーション先として利用している。


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 :直売所のある敷地内は広々としており、訪れる家族連れの憩いのスポットとなっている
 :温室内にはブーゲンビリアもあり、訪れる人々を楽しませる


 雛祭りの時期は、柳川のつるし雛である「さげもん」を飾り、5月には鯉のぼり祭り、夏のひまわり園、秋のコスモス園と続いて、農機具モーターショー、クリスマスライブと、直売所を中心とした催しは続いていく。

「今は、第2回の『柳川モーターショー』の準備中。いろいろなメーカーのトラクターや働くクルマが集合し、飲食店など、近隣から20店舗以上のブースも並びます。メインは子どもたちの試乗。展示会じゃないから、カタログやパンフレットの配布や営業活動は厳禁なんですよ」と椛島さんは笑う。「これまでの農業のイメージを変え、子どもの頃からその可能性を感じてもらいたい」と語った。(森千鶴子 27年8月27日取材 協力:福岡県南筑後普及指導センター)
●月刊「技術と普及」平成27年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


(有)杏里ファーム ホームページ
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