提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


生のイチゴを食べてもらいたくて。イチゴ農家の主婦たちが作ったケーキ

2016年09月01日

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吉野ひろみ理事長(右)、政岡妙さん(高知県高岡郡 農事組合法人苺倶楽部)


 高知と言えば豊かな海の幸に恵まれた土地という印象があるが、実は森林の割合が84%という典型的な山国である。良い漁場が広がる海と海辺まで迫る山渓、そして清流が平野を潤すここ土佐町では、イチゴをはじめ水稲、ショウガなどが作られている。

 農事組合法人「苺倶楽部」は、朝摘みの新鮮なイチゴを「なんとか生で食べてほしい」と、農家の主婦8人が、平成9年(1997)にケーキショップ「風工房」をオープンした。平成11(1999)年に法人化、現在は5人の女性組合員が運営し、県内のみならず県外からも購入客が訪れる人気店である。


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 :「風工房」外観
 :ショーケースの中には、イチゴのケーキをはじめとしたスイーツが並ぶ


きっかけは新しい地元の土産物作りから
 今から20年あまり前、町に宿泊施設が建設されることになり、役場が地元産の食材を使った土産物を求めていた。それ以前からイチゴジャムやゼリーを直売所などで販売していたイチゴ農家のグループの主婦8人が、ジャムとゼリーを出してみたが、なかなか売れなかった。「やはりイチゴは生で食べるのがいちばん」という専門家のアドバイスをもとに、「ケーキを作ってみるのはどうか」と意見が一致した。「そういうことができたらいいねっていう、気軽な気持ちだったんです」と政岡妙さんは当時を振り返る。吉野ひろみ理事長も、「ケーキ作りは簡単なものなんだと思っていたかもしれません」と笑う。


 このイチゴのケーキ作り案に役場が興味を示した。店の建設費と設備費は、国と県の補助金と役場の負担金によってまかなわれ、役場の負担金分を毎年使用料として納めることとなった。店自体が公共の建築物であり、利益を目的にしてはならないことから、農事組合法人「苺倶楽部」を設立した。

 店の運営資金は、8人の組合員がお互いに連帯保証人となって借り入れた。平成11年6月に法人化する際の出資金は、それまでのグループ活動で得た利益分を充てた。そして、8人の主婦達はフードコーディネーターから1年間、ケーキ作りのノウハウを学ぶことに。「できたらいいね」と思っていた事業が、「やらなければいけない」ことに変わった。「焦りましたよ」と政岡さん。「店にケーキを焼くオーブンが設置されたのがお店オープンの1カ月前で、うまく機械が使いこなせなくて」。


順風満帆のスタート! オープン初日に30万円を売り上げる
 平成9年12月15日、イチゴの日にイチゴケーキショップ「風工房」は開店した。オープンと同時に多くの客が詰めかけ、前日から仕込みをしたショーケースの商品は、瞬く間に完売。加工場で作って店頭に運び、ショーケースに収める前に次々と売れていく有様で、初日だけで30万円を売り上げた。「売る商品がなくなったので閉店しました。開店から半年間は、夜中の1~2時に帰宅して、翌日には家の農作業もそこそこに、また店に来てケーキ作りという状態。今なら労働基準法違反」と政岡さんは笑う。最も繁忙なクリスマスには、100個のクリスマスケーキを作るのに、朝の4時までかかった。「ふたを開けてみればすごく忙しくて大変でしたけど、繁盛することはうれしかったですね」と吉野理事長は振り返る。


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 結成当時8人だった組合員のうち3人は高齢により引退し、現在は5人の女性たちによって運営されている。ケーキショップと2階のカフェで働くのは、正社員5人とパート社員1人、アルバイト3人の9名で全員女性だ。取材日は土曜日だったが、ひっきりなしに車で訪れるお客さんがケーキを買い、2階のカフェでは海を眺めながらお茶とケーキを楽しんでいた。「高知市内から来るお客さんも多いです。ただ、高速道路が須崎までの頃はこのあたりを訪れる人も多かったのですが、四万十町まで延長されたことで、客足が少し減りました」と政岡さんは分析する。


売り上げ増が今後の課題
 売上金額を見ると、平成20年に8600万円あったものが、23年頃から徐々に下降し、26年度には6000万円になっている。「高速道路だけの問題ではないと思います。やはり、新しい戦略を考えないと」と、会議などで話し合っている。

 また、平成23年に中土佐町で久礼新港への大規模交流施設建設が計画され、経営の多角化を検討したが、東日本大震災によって話が立ち消えになったという経緯がある。「私たちには、地元産の食材だけを使ったレストランを作りたいという思いがあります。実現すれば若い人を雇用できるし、高齢の農家さんの作物を買い上げることができる。新鮮な魚もありますから、おいしい料理をお出しできると思っているんですよ」。この大規模施設の計画は現在も継続して検討されているという。「だから、まだまだ明るい未来はあります!」と吉野理事長は目を輝かせる。


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 :加工所作業
 :ケーキに使われるイチゴは、その日の朝に収穫したもの


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 :訪れる人が絶えない店内
 :カフェスペースからは久礼湾が一望できる


これからの展望。女性だけでがんばりたい
 苺倶楽部の法人化から18年。しかし、高知県全体では「全国に比較して6次産業化は遅れ気味」と、高知県須崎農業振興センター農業改良普及課の德弘亜加音普及指導員は言う。「県内はもちろん、県外からもこの風工房さんの活動を視察に来られます。そのときは、政岡さんたちに6次産業化について話してもらいますし、各地で開かれるセミナーの講師にもなってもらっています。彼女たちの活動が町全体を活性化していくことは、この18年の実績で証明されていますから」と、6次産業化推進の先駆者に期待している。


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 :レジカウンターの上は吹き抜けで開放的
 :「苺倶楽部」のみなさん


 吉野理事長以下5人の組合員は、「法人を次世代にどのように継承していくかが今いちばんの問題」と語る。雇用している社員の平均年齢は27歳と若いが、あくまで働き手としての雇用だ。法人を経営していくための人材を集めることが、これからの大きな課題だという。
「18年間女性だけでやってきたので、やはり男性が経営陣に加わるのはどうかと思います。苺倶楽部は、農家の女性が生きがいを見つけるところなんです。吉野理事長はまだ若いので、これからがんばってもらわないと!」政岡さんの檄が飛んだ。女性だけで進める6次産業化の展開に期待したい。
(上野卓彦  平成27年5月16日取材 協力:高知県須崎農業振興センター農業改良普及課、高知県農業振興部地域農業推進課)
●月刊「技術と普及」平成27年8月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


農事組合法人 苺倶楽部 ホームページ
高知県高岡郡中土佐町久礼6782-1
電話 0889-52-3395 
 

ケーキショップ風工房
●営業時間
  販売 午前10:00~午後6:00
  喫茶 午前10:00~午後5:00
(オーダーストップは午後4:30)
●定休日 毎週木曜日 
(祭日と重なった時は営業、ただし代休あり。年末年始休あり)
●全国発送取り扱い(一部商品のみ)