提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


なめこのブランド化を基盤に ニンジンで6次産業化を実現

2015年09月30日

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鈴木清さん、孝子さん(福島県郡山市 有限会社鈴木農園)


 あざやかなオレンジ色。飲んだ瞬間に広がる自然の甘さ。野菜が苦手な子どもからも好評を得ている鈴木農園の「ニンジンジュース」だ。実は、鈴木農園の基盤は、なめこ。なめこのブランド化を成功させ、全国にシェアを拡大。その基盤を基にニンジンやエダマメなどの野菜を生産し、6次産業化を始めた。
 しかし、時を同じくして東日本大震災が農園を襲った。さらに原発事故の影響で風評被害にも苦しむ。鈴木農園の6次産業化の船出は、困難を極めた。


なめこのブランド化で規模拡大
 福島県郡山市は、中通り中部に位置し、県内一の人口を有し、中核市に指定されている。郡山駅から車で20分ほどの小高い地に鈴木農園がある。昭和50年から始めたひらたけ瓶栽培が原点だ。地域にきのこ農家はなかったが、全国的なきのこブームも手伝って経営は軌道に乗り、昭和62年、有限会社を設立した。

 同時期に、四季問わず周年で栽培できるなめこの空調栽培に着手。ひらたけに比べ、原料あたりの収量が2倍になることも魅力で、平成4年には、なめこ栽培に転換。翌年に「たべごろなめこ」、その翌年に「万能なめこ」、さらに平成7年には「ジャンボなめこ」の生産をスタート。味を重視したブランド化に成功し、なめこ農家としては異例のシェアを実現させた。


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 :鈴木農園の基盤となるなめこ
 :なめこの生産現場


 常に安定した経営を行ってきたように見えるが、「まるでジェットコースターのよう」と、孝子さんは振り返る。なめこ栽培に転換したのも、ミスが発覚し、ひらたけが全滅してしまったから。なめこでの失敗も経験している。しかし、周囲の協力や経営努力により、ピンチをすべてチャンスに変えてきた。


野菜栽培をスタート
 野菜を始めたのは、7、8年前。当時、なめこを作っていた友人から「なめこ栽培で出た廃菌を使って野菜を育ててみたら」とアドバイスを受けたことがきっかけだった。一念発起し、それまでは野菜農家に譲っていた廃菌を使ってアスパラガスを生産。思うような収量が見込めないと分かると、エダマメに転換した。高カロテンで甘みの強い郡山ブランド野菜「御前(ごぜん)人参」の栽培も始めた。


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 :こだわりが詰まったニンジン畑
 :子どもからお年寄りまで人気のニンジン加工商品


 「栽培の知識がない中で始めるから失敗も多い」と清さんは笑うが、普及指導員のアドバイスで乗り切ってきたという。「わからないことをフォローしてくださるので助かっています。つい数日前も聞いたばかり」と苦笑いする孝子さんが、昨年からカラーピーマンを始めたと教えてくれた。
 即断・即決の清さんを支える孝子さんは、県の指導農業士としても活躍。地域農業の活性化の一翼を担っている。


困難な船出に直面した6次産業化
 エダマメ、ニンジンが軌道に乗ったところで、6次産業化をスタート。ニンジンの加工業者を探し、ドレッシングやジャムなど商品のサンプルを完成させた。その矢先、未曽有の災害が東日本一帯を襲う。試食会に向けて準備をしていた時だった。「これからというときにすべてダメになって、商品はすべてサンプルとして配るしかなかった」。
 福島県は原発事故にも直面する。農園では直ちに放射性物質検査を実施。作物からはセシウムなどの放射性物質が検出されなかったが、ほとんどの取引先からは「フクシマ」と言うだけで取り合ってもらえない。受け入れを拒否され、廃棄する日々が続いた。取引ができても大幅な価格の下落は避けられなかった。


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 :エダマメ等を生産しているハウス
 :パッケージには「おひさまの香り」と書かれているエダマメ


ピンチをチャンスに変えた
 しかし、ピンチをチャンスに変えるのが鈴木農園である。ニンジンの味を理解してくれる加工業者を探し出し、「ニンジンジュース」の商品化を実現。そのおいしさから口コミで人気が広がり、少しずつ出荷を増やしていった。
 会社独自に民間検査機関で放射性物質検査した結果を公表。安全性をアピールし、風評被害の払しょくに努めた。なめこも少しずつ取引を再開。それでも、現在の生産量は、全盛期の半分まで落ち込んでいる。だからこそ、鈴木農園にとって6次産業化は今後経営を安定させるためのカギとなっている。

 これまで4haだったニンジンの作付面積を今年(平成26年)から10haに拡大した。平成24年からは、出荷期間の拡大と収量増をめざし、新たにパイプハウスを導入したが、ニンジンジュースの需要増加で生産が追い付かない状況だ。「できるうちにできることをやっておく。好調な時こそ、設備投資や新たなことにチャレンジしていきたい」と清さん。


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 :スタッフの笑顔が農園を支える
 :加工品の原料となる郡山ブランド「御前人参」


「味」への強いこだわり
 苦しい時も好調の時も、鈴木農園がこだわり続けているのは、「味」だ。おいしさを追求するために、設備投資を惜しまない。
 エダマメは、減化学肥料栽培による特別栽培。鮮度が命の収穫では、新鮮さを維持するため段ボールにパッケージングするのではなく、発砲スチロールを使う。冷蔵車を用意し、収穫後すぐに冷蔵で保管する徹底ぶりだ。その努力もあり、「おひさまの香り」と銘打ったエダマメは、芳醇な香りと甘みが口の中に広がる。「機械化するためにはどれだけの規模で栽培する必要があるか、逆算方式で考える。お客さんの喜ぶ顔が見たいから味にはこだわりたい」。


地域とのつながりを大切にする
 「地域を盛り上げていきたい」という思いから近年では、地域の遊休農地を活用している。農園では、重機やダンプカーも所有。山に戻ったような荒地でも、1日で種まきまで終えてしまうフットワークの軽さだ。正社員、パートなど70人を雇用し、地域の活性化につなげている。
 6次産業化も「地域で」という思いが強い。「地域に加工場を作って、地域で郡山のおいしい『御前人参』の加工品を売っていけたら」と願う。


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 :品質にこだわる
 :ニンジン畑で後継者の清美さん(左から3番目)


 また、安定した収入をめざし、現在では、太陽光発電に取り組んでいる。
 清さんのピンチをチャンスに変えるアイデアは尽きることがない。「今回、風評被害で大きなダメージを受けたことで、新たな分野にも挑戦しようと考えた。まだ発展途上だが、収入の安定のためにチャレンジしていきたい」。

 厳しい状況下でも希望の光はある。震災当時、県外にいた2人の息子が「大変な時こそ農園にいないと意味がない」と戻ってきた。長男の清美さんは、ブログやSNSで農園をPRしている。「両親やスタッフが築いてきた鈴木農園、近隣農家さんからお借りしている何代にもわたって作られてきた畑。そういったつながりを大切にし、親から子、子から孫と代々ご家庭で愛してもらえる食材を育て届けていきたい」と抱負を語った。(杉本実季 平成26年7月4日取材 協力:福島県中農林事務所農業振興普及部、福島県農林水産部農業振興課)
●月刊「技術と普及」平成26年9月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


(有)鈴木農園 ホームページ
福島県郡山市田村町大供字向173
TEL:024-955-4457