提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


地域住民や消費者との交流を大切に『農場から食卓までをプロデュース』

2015年09月10日

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北見満智子さん (神奈川県横浜市 有限会社ハム工房まいおか 総務部長) 


都市農業地域・神奈川ならではの6次産業化
 有限会社ハム工房まいおか(以下ハム工房)は、横浜市営地下鉄の舞岡駅前にある。東京・横浜のベットタウンとして栄えるJR戸塚駅から、東に2kmしか離れておらず、農畜産物の直売に適した立地だ。また、横浜市から指定を受けた農業振興地域「舞岡ふるさと村」の中央に位置するため、緑豊かな農村風景も守られており、観光地としての要素もあわせ持つ。

 ハム工房は、年間30tの自家産豚肉の製造加工販売を行っている。直営店ではハム、ソーセージ、精肉、惣菜、弁当など商品は多岐にわたる。
 代表は満智子さんの夫・北見信幸さんで、母体となる北見畜産有限会社、有限会社ハム工房まいおか、北信農園、舞岡いちご農園、栽培・収穫・体験ファームの5つの経営部門による複合経営だ。家族経営協定で結ばれた北見家の5人が核となり、養豚、水田130a、畑30a、果樹20a(ナシ・イチジク・ミカン)、施設いちご10aを経営。生産物は市場やJA直売店に卸されるほか、学校や老人ホームの給食としても利用されている。


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 :地域に愛される店を目指す「ハム工房まいおか」
 :ソーセージ製品各種。ハム工房まいおかのおいしさのラインナップ


 北見家は横浜市内で唯一、肉豚生産から加工販売までを行う経営体であり、地産地消のリーダー的存在として一目置かれている。そんな北見さんに、6次産業化の法人として発展し続けるヒントをうかがった。


北見家・経営の歩み
 北見家は舞岡町で代々続く農家で、信幸さんは21代目に当たる。昭和36年に養豚業を豚1頭から始め種豚の生産農家となり、昭和45年に渡米し養豚研修を受け帰国。昭和48年に結婚し、満智子さんに経理を一任。その後、着実に事業を拡大し、千葉県にも2つの農場を開設。母豚1080頭、年間肉豚出荷2万頭の生産体制が整い、順調に業績を伸ばしていった。

 しかし、平成に入り豚の取引価格が低迷し、経営の見直しを強いられた。農協直営マーケットで単価の下がった豚を加工に回し、自宅前、市民朝市などさまざまな場所での食肉販売に本格的に取り組む。市内一円での移動販売を経て、平成7年に満智子さんを店長とする(有)ハム工房まいおかをオープン。さらに平成18年にはリニューアルし、店内の厨房を増設した。自家農場で生産された農作物を取り入れた総菜や弁当、イチゴジャムなどの販売をスタートし、現在に至る。


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 :店頭にタケノコをディスプレイして旬をアピール
 :安全とおいしさを求めて、多くの買い物客が訪れる


「農」をベースとした「食」を担う
 北見家には、「生産から食卓までのすべてをプロデュースする」という経営理念がある。 たとえば食農教育では、地域の小学校へ出向き、ウィンナー作りの指導や、田植えや稲刈り体験を実施する。それも、一度きりの体験では単なるイベントで終わってしまうと考え、子どもたちが進学しても、継続的に体験に参加できる仕組みを作り上げている。また、親世代にも食の重要性を学んで欲しいとの願いから、大人向けの体験教室も実施する。


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 :成人対象にウインナーづくり教室を開催。参加者の中には名人もいる
 :北見社長の指導による田植え体験


 さらに、満智子さんは、ふるさとの生活技術指導士(神奈川県知事認定)として、「舞岡ふるさと村・虹の家」で、豚肉をテーマにした料理教室も開催している。「食農教育は紹介だけではダメ。食に対する意識の変化が重要である」をモットーに、子どもや地域の人たちにとって良いと考えるあらゆる可能性に挑戦している。


舞岡ふるさと村を活性化し、地域の方々に喜んでほしい
 「舞岡いちご園」では、子どもからお年寄りまで幅広く楽しんでもらうため、高設ベンチ式栽培を採用。通路は車いすの方にも優しいバリアフリーで、シーズン中は900人ほどの来場者がある。老舗和菓子店とのコラボ商品「いちご大福」はさわやかなおいしさが大人気で、600個があっという間に完売する。さらに、竹の子祭りやポン菓子の店頭実演、田んぼに大きな鯉のぼりを泳がせ、プロの演奏家を招いてのコンサートなど、さまざまなイベントも開催し、観光事業に貢献している。


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 :たわわに実ったいちご園の紅ほっぺ。粒の大きさが自慢
 :毎年開催するイチゴフェア。いちご大福の販売には行列ができる


 ハム工房では商品を販売するだけではなく、お客様へ豚肉の部位別調理例の提案をしたり、レシピを渡したり、試食したお客様の声を速やかに製造に反映させたりと、対面販売ならではの消費者との交流を大切にしている。
 養豚業の最大の課題である糞尿処理は、横浜市がいち早く下水道の使用を可能としたため解決。コンポストによる完全堆肥化で、有機堆肥は近隣の専業農家や自家農園、体験農園に供給するほか、15kgで500円という良心的な値段で直売し、地元住民から人気を集めている。


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 :豚舎は衛生的なオールステンレスで床暖房
 :「ハム工房まいおか」のポークウインナーは無塩漬で製造


 ブランド豚「はまぽーく」の生産では、横浜市内の学校給食や食品事業所から発生する食物残渣を飼料にし、食品リサイクル等の環境保全活動に積極的に取り組んでいる。


女性の力を活用し地域雇用に貢献
 満智子さんは、「農作物等の販売は、調理経験豊富な女性の力が大切である」と考え、従業員については女性を中心に地元雇用に努めている。

 そんな経営者の気持ちに応えるように、スタッフも大変積極的だ。自発的に「飾り巻き寿司技能」1級資格を取得し、敬老会や幼稚園の卒園式の注文弁当などで、その腕前を発揮している。限られた販売スペースを最高に輝く場所にすべく、商品開発のために一人一人が日々知恵を出し合っている。


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 :舞岡産のお米でつくる「飾り寿司」は子どもたちにも大人気
 :ハム製品を詰め合わせた母の日ギフトセット


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 :さわやかな香りとほんのりとした甘さが大人気のイチゴごはん
 :お客さんの特別注文で調製したオードブル


 直売の魅力は何と言ってもお客様との距離の近さ。「おいしいね」「北見さんのところで加工しているから安心して買える」との声が何よりうれしいと、満智子さんは語る。だからこそ、新規のお客様にはていねいに商品の説明をし、また足を運んでもらえるように努力を惜しまない。そうすることで顧客が増え、新たなお客様を連れて来てくれる。時に作り手の苦労も話し、またお客様の話も聞く。大規模店にはない触れ合いが、ここにはある。

 また、果実などを販売する際には、食べ方のアドバイスやうんちくを記した小さなリーフレットを入れる。「すべての商品に物語がある」「少しでもおいしく食べてもらいたい」。その思いが、手間を惜しまない満智子さんのパワーの源だ。


 「課題はさまざまありますが、社会保険労士を雇い入れるなどして従業員育成には力を注いでいます。会社の経営理念を守り、やる気のある従業員を育てるのはトップの仕事ですし、従業員は会社の利益を左右する重要な存在ですから。また、新商品の開発と食の安全性には常に高い意識で取り組んでいます。これからも、地域の人に末永く愛され続けるよう、普及指導センターの力も借りながらがんばっていきたいです」(松島恵利子 平成26年6月2日取材 協力:神奈川県農業技術センター横浜川崎地区事務所)
●月刊「技術と普及」平成26年8月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


有限会社 ハム工房まいおか 
神奈川県横浜市戸塚区舞岡町777
TEL:045-822-5789
FAX:045-822-9931