提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


自己完結の6次化でなく 乳製品の委託加工で地域農業に活路を拓く

2015年05月12日

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横尾 文三さん (佐賀県佐賀市 有限会社ヨコオ牧場)


 「牛ば飼うというより、牛に飼われて、はや半世紀。牛の健康ば気づかいながら真面目に搾った乳が、大手メーカーさんの原材料にしかならないことにオイは我慢できず、25年前に小さな乳製品の加工プラントばはじめた」ヨコオ牧場のパンフレットは、横尾文三社長のこんなメッセージからはじまる。酪農と乳製品加工販売との複合経営を先駆的に展開してきた横尾文三さんは「6次産業化を志す人こそ、技の持ち寄りでコラボレーションを」と語る。


計算できる農業をしたくてはじめた酪農
 「酪農をしようと思ったのは、もっと計算できる農業をと考えたから」。横尾文三さんの父親は、米麦 1.7haと露地野菜50aの複合経営で農業を営んでいたが、経営は厳しく、あとを継ぐべく就農した横尾さんが酪農専業経営への転換を決意した。昭和47年に総合施設資金を借りて30頭牛舎(約100坪)を新築した。当時は乳価がよかったこともあって設備投資をしたが、大学病院の建設により、周辺が宅地化。牧場から出る糞尿の匂いに苦情が出るようになった。まわりに迷惑はかけられないが、百姓で身を立てる覚悟はかわらない。市街化の中でも存続できる牧場につくりかえれば生きていけると、経営の転換を図った。


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 :暗い、汚いという酪農のイメージを払拭するために、有限会社にして建てた事務所、作業所は山小屋風だった
 :牛たちは、佐賀県脊振山麓標高600mの高地にある広大な牧草地で過ごしている。涼しいところを好む牛には快適な環境で、25年度の乳量は年間1万kg/頭に達し、佐賀県一となった


 めざしたのは、ヨーロッパや北海道の牧歌的な牧場。畜産は暗い、汚いというイメージを払拭すべく、糞尿を堆肥化する設備をととのえ、山小屋風の事務所を構えた。低温殺菌牛乳や、アイスクリームを製造する乳製品加工工場(約200坪)を建設して乳製品の製造、販売を開始した。
 さらに消費者との交流を図るため、乳製品やステーキ等を提供する直営レストランも新築した。教育ファーム事業にも手をあげて、福岡市内の子どもたちの農業体験も多数受け入れてきた。


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 :ノンホモ牛乳、ノンホモミルクコーヒー。自然の味わいを保ち、栄養価を下げないために低温殺菌(63℃で30分)を採用。乳脂肪を均一化していないノンホモ(ノンホモジナイズ)牛乳なので、しぼりたての乳脂肪のフレッシュでまろやかな味わい
 :牛舎は牛をつながないフリーバーン(開放牛舎)。牛たちは自由に牛舎の中を行動し、餌の時間と量を牛自身が判断する。自然に近い環境の中で、健康な牛を育てている


牛乳はおそろしい?
 最も苦労したのは衛生管理である。横尾さんの牛乳は、本物のおいしさにこだわったノンホモジナイズ、低温殺菌。当時「低温殺菌をやった人は、数年ですべてやめる」とまで言われていた。


 「人の健康に関わることだから、衛生管理は半端じゃない。いいかげんな工場ではできないのです。事故は絶対にあってはいけない。牛乳はおそろしいと感じました。保健所に何度衛生管理マニュアルを提出したことか...」と横尾さんは当時をふりかえる。

 乳製品の加工指導は、北海道は酪農学園大学の研究者に4カ月間指導を受けた。自家牛乳のアイスクリームは、人工着色料や香料を使わず、抹茶、きなこ、イチゴなどの副材料も地産地消にこだわった。


 平成8年には、アイスクリーム等を販売する「ミルンショップ」を開設し、翌年には、よりよい環境を求めて牧場を移転。佐賀県脊振町の標高600mの公共育成牧場を借りて現在の牛舎を新設した。夏場でも平坦部より気温が低いので乳量低下が抑えられ、安定的な生乳生産ができる。乳量は年間1万kg/頭に達し、平成25年度のJAさがグループ牛群高能力賞では、見事1位に輝いている。加工場も同じく脊振町広滝地区の、縫製工場跡を借りて移転した。


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 :アイスクリーム等を販売する「ミルンショップ」外観
 :できたてのアイスクリームは、甘すぎず、乳臭さがなく、あっさりとしてクリーミー


酪農家にしかできないものづくり
 低温殺菌牛乳をベースに、平成10年からは、アイスクリームだけではなくヨーグルトやチーズの製造もはじめた。イタリアンタイプの本格ナチュラルチーズは、熟成室で長期醗酵させるものもある。牧場が背振山麓に移り、大人数の農業体験は受け入れられなくなったものの、横尾さんは指導農業士として、佐賀県農業者大学校の研修生を受け入れ、現在はチーズ職人を志す若者の指導中だ。


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 :自社培養の乳酸菌を使った手作りヨーグルトは液状と固形の2種類を作っている。人工的な乳化剤、安定剤は使用しておらず、さっぱりとして飲みやすい
 :チーズ室。搾りたての美味しい生乳を使うことで、フレッシュタイプのチーズはまろやかに、熟成タイプのチーズは日にちが進むほど旨味が増す。伝統的なヨーロッパのチーズ製法を取り入れている


 さらに、牧場、加工場の移転、整備をきっかけに、直売所や牧場、農業生産者から委託をうけて、アイスクリームの委託加工を引き受けるようになった。平成15年にはレストラン事業を終了し、加工業により注力していく。

 今ではすっかり看板商品となった道の駅大和そよかぜ館(佐賀市)の干し柿ソフト、干し柿アイスは、行楽シーズンには1日に1000個売れるほどの人気だ。


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ひとつひとつ手作りし、手詰めして、ラベル貼りされるアイスクリーム


 「衛生管理や加工許可取得の難しさ、そして投資を考えると、乳製品の加工は、自己完結でやるよりも委託したほうがいい場合もある。加工、販売を考える農家へは、以下のふたつを心がけてほしい」と語る。


①売り先を見つけてから開発する
 販路を見込んでから開発すること。営業力が必要になる。ヨコオ牧場では、自社での直売、(店舗、ネット販売)のほか、近隣の直売所道の駅やJAの直売所で売り上げを伸ばしている。商品ラベルやアイスクリームと合わせる副材料は、発注者にすべて用意してもらう。商品の販売権は持たず、加工製造のみ。できた商品は全量引き取りとしている。そうすることで、加工を他人任せにせず、経費を取り戻そうと営業する意欲もわくと考えるからだ。ただモノを作るだけでは失敗する。

②利益の出るところに売る
 こだわりの材料を用い、手作業でつくる製品は量も限られる。適正規模を見極め、コストに見合うところに卸すこと。過去には、とにかくたくさん売ろうと高速道路のサービスエリアに納品したこともあったが、1日500個売れても手数料が高く、商売にならなかった。量販店にも卸していない。手数料は20%を超えないようにしている。


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 :干し柿ソフトの発注者である道の駅大和そよかぜ館とは長年のつきあい。専用の冷蔵ケースがあり、牧場の直売店同様の商品が買える
 :道の駅大和そよかぜ館オリジナルの大ヒット商品、干し柿アイス。大和町名尾の伝統的な特産品である干し柿を使用。同館には干し柿ソフトもある


農産物のPRや産地づくりのために
 干し柿アイスのほかにも、焼き海苔アイス、キュウリアイスなど、ユニークなアイスクリームを多数手がけてきた横尾さん。一見、それおいしいの? と思ってしまうような商品も、水分量を調節し、リキュールやユズなどの風味のある素材を加えたり、試作に試作を重ね、素材の味を活かしたおいしい商品に仕上げている。


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 :佐賀県有明海漁連の海苔直販所「まえうみ」のオープンに合わせて開発した焼き海苔アイス。海苔を焙煎することで、抹茶のような鮮やかな緑色に。海苔臭さも払拭された
 :自社栽培したキンカンを使った(株)モリカツ(佐賀市大和町)のきんかんアイス


 佐賀県多久市の在来種である女山大根を使ったアイス「乙女のこころ」の開発では、とにかくダイコンの風味が強く開発に苦労したが、「横尾さんのおかげで話題性ができたので、アイスクリームだけではなく女山大根が売れるようになった」と評価を受け、加工品が産地のPRにも貢献するという手応えをつかんだ。


 2013年12月からは、佐城農業改良普及センターとともに、佐賀の香酸柑橘、「ゲンコウ」を使った商品作りに取り組んでいる。皮に含まれる成分に育毛剤の原料としての薬効が認められ、美容効果も期待できることから、県と製薬会社での共同研究もはじまっている。この柑橘の生産者と横尾さんを普及センターが引き合わせ、機能性食品の共同開発プロジェクトを立ち上げた。

 「自己完結する6次産業化ではなく、6次化を考えている農家同士の連携こそ大切。その仲立ちをするのも我々の役割」と佐城農業改良普及センターの森田所長。


 横尾さんは、今後も、こだわりの農家とのコラボレーションを積極的にやっていきたいと語る。「いいものを一生懸命つくって、個人のブランドや地域ブランドが世に出るきっかけづくりをしていきたい。そこに行かないと食べられない、ここにしか売っていない。というものづくりの手伝いができれば。それが私の得意技ですからね」。(森千鶴子 平成25年12月6日取材 協力:佐賀県佐城農業改良普及センター)
●月刊「技術と普及」平成26年3月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


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