提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


「知多牛」を多くの人に知ってもらいたい 生産者グループが焼き肉レストランを経営

2014年09月04日

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榊原一智さん(愛知県半田市 株式会社黒牛の里)


 愛知県半田市の「黒牛の里」は、乳肉複合経営の酪農家グループが経営する焼き肉レストランだ。知多牛を提供する拠点として1998年に開業し、新鮮さと味のよさで地元の半田市をはじめ全国から利用者が訪れる。昨年株式会社に改編した同社は、畜産業の6次産業化の一つのモデルだ。


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 :国道沿いに建つウッディーな外観の「黒牛の里」の店舗。照明が点灯する夜間は、幻想的な雰囲気に変わる
 :知多牛生産者の賞状と楯が店内に飾られている


地元の人が誇りに思う産地を目指す
 知多半島は海運が発達し、醸造業で知られる土地である。飼料調達等の条件もよく、古くから酪農が盛んだ。1970年代から、酪農経営を強化するために、生まれた子牛を肥育し、肉牛として出荷する乳肉複合経営が行われるようになり、知多半島の酪農の特色となっている。1戸当たりの平均飼養頭数は、乳牛130頭、肉牛260頭と全国有数の規模である。


201408yokogao_aichi_7.jpg  「知多牛」とは、知多半島で1年以上肥育された肉牛で、「あいち知多牛・誉」(黒毛和種)、「響」(交雑種=F1牛)のブランドが登録されている。特に乳用のホルスタイン種に黒毛和牛を交配した交雑種が中心だ。「交雑種でも食味は、他産地のブランド牛にひけをとらない」と知多牛の生産者で株式会社黒牛の里代表の榊原一智(53)さんはいう。牛肉の脂肪酸組成の分析(日本食肉消費総合センター)では、旨み成分である「モノ不飽和脂肪酸」や「オレイン酸」の割合は、和牛より高い。交雑種は両種の特長を受け継いで肉質が良く、和牛に比べ生育が早く、病気にも強い。


 主要出荷先は大阪南港市場の約3000頭、名古屋中央卸売市場と半田食肉センターの2900頭、その他を合わせ、年間約6100頭が出荷されている。

201408yokogao_aichi_9.jpg 知多のほかに、中京圏には松阪、飛騨といった有名な肉牛産地がある。後発の知多牛は、両産地と比べると全国的知名度ではこれからだ。

 「贈答用など最上級の牛肉では、たしかに消費者の銘柄志向が強い。しかし知多牛は、大消費地の大阪市場での評価も高い。また知多牛生産者には若年齢層が多く、長期的な展望が持てる」と榊原さん。
 知多牛の市場価値に加えて産地がもっている「のびしろ」の大きさが、既存産地と異なる強みだ。

 「松阪牛は国際的にも評価されていて、市民が身近にいる牛を誇りにしている。知多の人にも地元に酪農家がいて牛がいることを誇りに思ってもらえるようにしたい」と考えた榊原さんたち生産者は、地元での直売を足がかりに自ら動いて理解と消費を広げる努力をしてきた。


需要を捉え直売から店舗経営へ
 「黒牛の里」の第一歩は、1994年11月に開催された半田市農業まつりだった。会場で知多牛を販売し、あわせて実施したアンケートで回答者の90%が直売希望という結果が出た。その需要に応えようと、翌年5月に生産者組織「半田市酪農組合青年部」を設立。県の地方振興事業で移動販売車を購入し、10月から市内4カ所で毎週金曜日の定期販売を開始した。


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 :JR半田駅の「酪農発祥乃地」の記念碑。半田市の酪農は、明治14年に地元の実業家・中埜又左ヱ門が自家飲用のために飼育したのがはじまり
 :かつては移動販売車で定期的に販売していた 


 定期販売を続けるうちに固定客もつき、「この日に欲しい」「お客さんが来るから家に届けて欲しい」という注文が相次ぎ、注文販売に転換。さらには「食べさせてくれる店をやって欲しい」という声も上がるようになった。直売を通して、知多牛がどんな時に、どのように食べられているか。地元の人たちは、知多牛に何を求めるかが、次第に明確になっていった。

 その後、生産者の有志4名で農事組合法人「黒牛の里」を設立し、1年後の1998年7月に美味知多牛溶岩焼き「黒牛の里」をオープンする。


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 :開放的な造りで日射しが注ぎ明るい店内
 :榊原さん(中央)と「黒牛の里」のスタッフのみなさん


 顧客ニーズに応える上で、食味に優れたF1牛の訴求力は大きい。しかし生産者は飲食業の素人ばかり。事業の立ち上げと生産を並行して行う難しさもあったが、動いているうちに支援や協力が得られた。業態転換の推進力になったのは、「知多牛のおいしさを広げたい」との強い意志と、「知多牛はおいしい」という消費者の反応のよさだ。


201408yokogao_aichi_5.jpg 「メンバーがみな若かったし、地産地消のはしりで時期もよかった」と榊原さんはいう。開業後にBSE、口蹄疫等での牛肉離れもあったが、ホームページを開設して対策や情報を開示。生産管理がしっかりしていて履歴がわかること、食肉市場で5等級、4等級の上質な知多牛のみを提供していることを理解してもらい、お客の流れは戻ってきたという。


 安心安全、おいしさを追求する「黒牛の里」の牛肉は、法人のメンバーが生産したものだけではない。知多牛生産地全体での知名度の向上を目指しているので、食肉市場に出荷されたメンバー以外の4等級以上の良質なものも買い付けているという。店内には、その日に提供される牛肉の生産者、生産番号が掲示されている(右上)


「生産者の店」を貫く
 外食産業は競争が激化し、安さとボリュームを売りにした焼き肉チェーン店も目立つ。「目指す方向性が違うから、低価格を競争するのは意味がない」と榊原さんはいう。取締役で新規プロジェクト担当の市野喜啓さん(46)も「おいしさ、鮮度が集客の生命線で、ここなら間違いないと思ってもらえることに尽きる」と生産者の店のこだわりを強調。「お祝い事や集まりでよく利用してもらっている。おいしいものを家族や友人と一緒に楽しみたい、というのが動機では」と続ける。初来店した人が次に知り合いを連れてくるというように、口コミで利用が広がりリピーターも多い。


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 :桜島の溶岩プレートを使った焼板
 :ランチメニューのひとつ


 素材のよさを活かす工夫の1つが、桜島の溶岩プレートの採用だ。遠赤外線効果があって、溶岩の孔が適度に脂を吸収する。後の処理や洗浄に手間はかかるが、煙も少なく、知多牛のおいしさを引き出すのにも最適だという。

 また知多牛とともに提供される野菜やご飯は、地元知多産だ。さらに、知多牛の飼料についても、地元産の稲のサイレージを利用したいと構想している。
 酪農分野でも、チーズ、バター、ヨーグルトの試作を進めている。「風土に合った製法を確立し、知多独自の味わいをつくりたい」と榊原さんはいう。


 本店のほかに、名鉄知多半田駅前にしゃぶしゃぶとすき焼きの店を営業しており、今後は洋食の店と内臓料理をメインにした店の2店の出店を計画中だ。めざしているのは、いろいろな料理法で知多牛のすべてを味わってもらうことだ。

 「知多を牛肉の食文化の発信地とし、知多牛を千年続く地場産業にしたい」という壮大な構想が「黒牛の里」にある。6次産業化の取り組みは畜産業の外縁を広げ、地域活性化へとつながっている。(君成田智子 平成25年4月12日取材 協力:愛知県知多農林水産事務所農業改良普及課)
●月刊「技術と普及」平成25年6月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


(株)黒牛の里 ホームページ
愛知県半田市岩滑西町4-109-1
電話 0569-23-8672