提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


観光地「湯布院」を生かした多角的な事業展開

2014年02月21日

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安藤茂信さん、正子さん(大分県由布市 ゆふいんフローラハウス) 


 日本一の湯量を誇る大分県。その中でも由布院温泉は、由布岳の恵みを受けた豊富な湯量で知られ、数多くの観光客の心と体を癒している。
 この地で40年前、一人の主婦が胡蝶蘭の栽培を始めたのが「ゆふいんフローラハウス」誕生のきっかけだ。以来、民宿の経営、体験教室の開催、オリジナル商品の販売など、アイデアマンならぬ「アイデアウーマン」の発想で多角的に展開。今では観光ルートに組み込まれ、連日多くの観光客でにぎわっている。


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フローラハウスからは湯布院のシンボル「由布岳」がくっきりと見える


趣味の胡蝶蘭栽培がビジネスに成長
 「このままずっと家でじっとしているだけで良いのだろうか」。今から40年前。玖珠町に住んでいた安藤正子さんは、主婦業をする中で、思いを巡らせていた。実家の農業が嫌で、茂信さんと結婚して数年余。「農業と離れた生活をしていて、改めて農業をしたいと思うようになった」。

201402yokogao_yufuin_4.jpg 茂信さんと相談し、一度住みたいと思っていた湯布院町(現在の由布市)に移住。知人からの紹介で水田40aを購入し、茶畑の改良は、知り合いの専門家の指導を受けながら正子さんがお茶栽培を始めた。品種は「ヤブキタ」と「やまなみ」。無農薬で栽培して『安心・安全』をアピール、一番摘みの茶葉だけを1kg単位で販売した。口コミ効果などで顧客がついた。

 趣味の一つとして正子さんがシンビジウムと胡蝶蘭を始めたのもこのころ。最初は、知人友人に販売していたが、美しく花びらをつける胡蝶蘭の出来ばえが評判を呼び、業者が買い付けにくるようになり、作付けを増やした。栽培に必要な温度を温泉熱でまかなえたことも、胡蝶蘭づくりが拡大するきっかけとなった。
右 :正子さんの作る胡蝶蘭の注文者にはリピーターも多い


温泉熱で有利栽培
201402yokogao_yufuin_13.jpg お茶栽培を始めて10年後、お茶栽培・販売と併行して、洋ランの本格栽培に踏み出した。技術的な成長に加えて需要も高まり、標高、温泉熱が利用できる地の利も後押しとなった。1980年、約160㎡のアクリルハウスを建設。温泉源を所有し、温室を常に25℃前後に保つように徹底し品質の管理に努めた。通常、由布院温泉の源泉は80℃以上が多い。80℃を超えると湯の花成分がパイプに固着し、定期的にパイプの交換が必要になるが、フローラハウスが所有する源泉は温度が若干低いため、パイプが詰まることもない。「まさに胡蝶蘭を作るための温泉だった」と茂信さんは振り返る。技術的に困ったときには、県の農業試験場の別府花卉指導センターと県の普及所に相談している。
左 :胡蝶蘭の温室は温泉熱で常に約25℃に保たれている


観光客をターゲットに多角化
 湯布院に移り住んで以来、正子さんは地元の公民館活動にも積極的に参加した。同じ主婦との交流や勉強会などを通じて加工品の販売方法などを学び、実践に移した。「今でいう直売所で販売するといった取り組みを、地元の人たちと考えた。値段設定や販路の拡大を通して、売ることの難しさを知った」。
 湯布院を訪れた観光客が体験できる場を作ろうと、押し花づくり教室を開いたのも正子さんのアイデア。多くの人が訪れ、テレビや雑誌などのメディアにも大きく取り上げられた。訪れた客からの「宿泊したい」「お茶を飲んでゆっくりしたい」という要望を受け、1999年、民宿を始めた。そのころ、茂信さんが定年退職し、経営に参加。より強固な体制を築くことができた。


人気の温泉宿を開業
 由布院駅から車で5分。眼前には由布岳が広がる圧巻の景色の中に「ゆふいんフローラハウス」がある。バナナやパパイヤなどを栽培する温室を抜けると、機織りの体験やオリジナル商品を販売する工房があり、さらに宿泊棟がある。客室は全5室。リピーターが多く、長期滞在が多いのも特徴だ。茂信さんが朝一番で作る温泉卵や朝摘みした野菜を使った朝食が常連客の心を掴む。由布岳を眺めながら湯浴みできる源泉かけ流しの家族風呂も人気だ。


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 :温室の入り口には看板を設置し、おもてなしの気持ちを演出
 :日々の疲れを癒す源泉かけ流しの温泉


 スタッフ6人で、宿泊、販売、胡蝶蘭の栽培などの役割を分担。茂信さんは販売を担当。長女の美智子さんはハーブを利用したアロママッサージを、美智子さんの夫、聡二さんはベビーリーフを生産し、町内のホテルや旅館の顧客を獲得している。正子さんは主に胡蝶蘭の栽培に勤しんでいる。「原点は胡蝶蘭づくり。だから寝る間を惜しんででも胡蝶蘭を作りたい」(正子さん)。


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 :温室では観光客が見学する傍らで栽培も
 :写真右から安藤正信さん、正子さん、宿泊全般等を担当する清水聡二さん


顧客から得るアイデアを生かす
 大まかな役割分担をしつつも正子さんは、宿泊客や観光客との交流も忘れない。時には、会話から次へのアイデアが生まれることもある。機織り体験もその一つ。
 「元々機織りが好きで趣味程度に織っていたのですが、有名な機織り作家の方に出会って意気投合したんです」。すぐに機織り作家に織りの研修をしてもらった。


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 :宿泊客や観光客と安藤さん夫妻の交流の場として利用されている
 :女性に人気の機織り。機織り体験も開催


 現在は、水無しで作る「柚子練り」の商品化を計画中。これも客との縁が結んだ商品だ。砂糖の分量や煮だし時間など試行錯誤を繰り返し、作り始めて3年目。朝食ではすでに人気メニューだが、満を持して商品化する。
 また、朝食に出しているハーブの栽培も数年前から始めた。土にこだわってできたハーブは好評で、宿泊客だけでなくJR九州の特急『ゆふいんの森』号や地元の旅館などにも卸している。


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 :試行錯誤を重ねて完成したドレッシング
 :地元の旅館にも卸しているハーブ


地域の「居場所」を目指す
 「湯布院」という地の利がある一方で、観光地ならではの問題点もある。「観光客が求めるニーズ」と「栽培する」という本業とのバランスだ。「観光で来られる方は、美しく花をつける様子を見たいでしょうし、『案内してほしい』とおっしゃる方もいる。しかし、農作業をしなくてはいけないし、常に花が咲いている状態ではない」。一生懸命、温室を整備しても植物園のようにはいかない。そんなときに思うのは「農家である」という原点。「農家であるということを理解してもらい、花を咲かせるための作業のひとつとして、種を植えているところも見てもらえれば」と観光客に説明する。


201402yokogao_yufuin_10.jpg 温室での栽培、押し花、機織り体験。幅広く展開する裏側には、正子さんの思いがある。「地域の人たちを含めて幸せな老いを迎えることが夢。そのために年を重ねてからもできる仕事をしている」。温室の中の通り道は、車いすが通れるほどの幅に設定。いずれは地域のお年寄りが集い、無理なく仕事できる居場所を目指す。
右 :オリジナルの商品も観光客に好評


 「儲けようとは考えていません。みんなで楽しく平等に生きていきたいというのが願い」。毎日、ハウスの中に地域の人たちが集まり、和気あいあいとした雰囲気の中でハーブを摘む。そんな幸せな時を夢見て正子さんの挑戦は続いている。(杉本 実季 平成24年10月26日取材)
●月刊「技術と普及」平成25年1月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


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