提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


訪問客数は年間30万人。多角化と自然エネルギーで切り開く先進の牧場経営

2014年01月31日

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高宮 晴彦さん(岩手県岩手郡葛巻町 (一社)葛巻町畜産開発公社)


 標高1000m級の山々に囲まれた葛巻町は、酪農と林業が基幹産業。特に酪農については、明治25年にホルスタインを導入してから、今年で120年の歴史を持つ。人口8000人弱のこの町に、年間30万人以上が足を運ぶ場所がある。第3セクターの葛巻町畜産開発公社が運営する「くずまき高原牧場」だ。県都盛岡市からは国道4号線を北上、国道281号線へ進むと、車で1時間余りでたどり着く。


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広大な敷地を有するくずまき高原牧場。傾斜地では羊や牛が草を食んでいる


 昭和51年の設立以来、くずまき高原牧場では、さまざまな先進的な取り組みを行い、6次産業化を図ってきた。従業員数は80名以上で、町にとっては大きな雇用の場でもある。平成23年度の総収入は約10億円。赤字に苦しむ第3セクターが多い中、その経営は全国から注目され、平成20年2月には第37回日本農業賞大賞を受賞するなど、数々の賞が贈られている。

 公社発足時から勤務し、平成19年9月から5代目の専務理事を務める高宮晴彦さん(56歳)にお話をうかがった。


民間企業の手法を取り入れ強固な経営基盤をつくる
 くずまき高原牧場が生まれた背景には、この町に鉄道も高速道路も温泉もなく、企業誘致にもリゾート開発にも不利な環境だったことが、大きく関係している。一次産業を主軸にしなければ将来はないと考えた町は、1100haの牧草地を造成し、第3セクターの公社を設立した。

 牧場経営や人材育成のノウハウを得るために協力を求めたのは、明治以来の歴史をもつ小岩井農場。農場を運営する小岩井農牧からは、11年にわたり初代、2代と専務理事が派遣された。この2人を迎えたことが、その後の公社の経営姿勢に大きな影響を与えたと、高宮さんはいう。


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 :肥育事業は昭和57年から開始。現在は黒毛和種100頭、羊(サフォーク)を58頭飼養。精肉販売やレストランの食材として供給している
 :健康なホルスタインから搾った生乳を使った牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム、チーズ、県内産の原料を使った完全無添加のパンは、牧場内で購入できるほか、宅配もしている


 「初代は現場に詳しく、牧場の基本をつくりました。コスト管理には特に厳しかったです。外部から招いた人でなければ、こうはいかなかったでしょう。そして2代目は、事業を発展させることに努めました。たとえ事業の柱の一つが落ち込んだとしても、経営全体を脅かさないような体制づくりをしなければならないと、この時に学びました」。


預託放牧事業を収入の柱に加工・体験施設・宿泊・イベント等を展開
 くずまき高原牧場の売上の多くを占めているのは、周年育成事業。町内や関東方面の酪農家から仔牛を2年預かり、妊娠牛で返す事業である。現在飼養する2000頭のうち、1600頭は県外の酪農家から預かった牛だ。「葛巻で育った牛の乳は良質で、足腰も丈夫になる」と、口コミで評判が広がった結果だという。

 本業の「牛飼い」が好調に伸びたことから、これを基盤に事業を多角化。平成7年には宿泊施設『くずまき交流館プラトー』が完成し、設立以来20年間、関係者以外立ち入り禁止だった牧場が、一般にも開放された。以後、乳製品加工施設や焼肉ハウス、パン工房、体験学習施設、コテージなどを次々と建設し、今では観光客、農業体験の児童・生徒、全国からの視察団が足を運ぶ。


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 :宿泊施設「くずまき交流館プラトー」は全7室。牧場で生産される牛乳や牛肉、ラム肉などが味わえるレストランもある
 :育成牛の世話や牛の乳搾り体験など、牧場体験学習のメニューは豊富


 また、イベントにも力を入れている。毎年6月の第2土・日曜に開催される『くずまき高原牧場まつり』は、今年で16回目。いまや2日間で3万人以上が集まるほどの賑わいぶりだ。平成14年からは、毎年9月の第4土・日曜に盛岡で『くずまき高原牧場IN中津川』を開催している。


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 :毎年6月第2土・日曜開催の「くずまき高原牧場まつり」は3万人以上の人出。くずまき高原牛モモ丸焼き、石窯ピザが大人気。多彩なゲストによるステージショーも好評
 :毎年9月開催の「くずまき高原牧場 IN 中津川」は、盛岡の街なかで牧場が体感できるイベント。乳製品や特産品販売、動物とのふれあいコーナー、ステージショーなど内容は盛りだくさん


 「私たちの事業は、消費者と交流し、理解をいただかなければ成り立ちません。なかでも地元である県内の方に支えていただく部分は大きいです」と、出張してまでもイベントを仕掛ける理由を高宮さんは説明する。盛岡まで荷物や動物たちを運ぶのも、現地での設営も、すべて自分たちの手で行う。外注すると莫大な経費がかかるからだ。「こうしたこと一つとっても分かるように、人を雇用し、製品を作り、消費者に喜ばれるのは、容易なことではありません。6次産業化と言葉では簡単に言うけれど、それを実現するのはたいへんなことなのです」と語る高宮さんの言葉には、実感がこもっている。


地域完全循環型食料生産基地をめざす
 葛巻町は近年、クリーンエネルギーの町としても関心を集めている。標高1000mを超える高原地帯には15基の風車が立ち、3000世帯に満たない町が、1万6900世帯分もの電気を供給できるようになった。木質バイオマス施設や畜産バイオガスシステム施設、太陽光発電施設が導入されているくずまき高原牧場にも、新エネルギー関連の視察が相次いでいる。原発事故以降、その件数はさらに増えているという。

 しかし、経営面では原発問題による打撃は大きかった。「牧場ですから伝染病は想定していますが、放射能による風評被害なんて考えてもいなかった」と高宮さん。やっと回復の兆しが見えてきたと、ほっとした表情を見せる。


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 :牧場内には「ゼロエネルギー住宅」も展示。体験宿泊もできる
 :4代目の専務理事、鈴木重男さん(現町長)の時代に描いた将来構想は、着々と実現に向かっている


 くずまき高原牧場がめざすのは、エネルギーまでまかなう地域完全循環型食料生産基地。4代目の専務理事で現町長の鈴木重男さんが在籍当時に描いた「くずまき高原牧場の将来構想」のイメージ図を見ると、施設整備については、その多くをすでに実現している。

 「次に考えなければならないのは、最新型のエコ牛舎の建設。また、国産の風車を牧場内に立てることも計画しています。牧場経営を一歩でも前進させ、次の時代につなげていくことが、自分の役目です」と高宮さん。その挑戦に終わりはない。(橋本 佑子 平成24年9月20日取材)
●月刊「技術と普及」平成24年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


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