提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


東日本大震災を乗り越えて(3) 海の家風の食堂「よってたんせぇ」で、お母さんの味を提供。海産物を使った加工品も人気

2014年01月20日

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笹谷(ささや)ヒロ子さん(岩手県大槌町 マリンマザーズきりきり代表)


 秋の好日、海の家を思わせる深緑色のデッキにのぼりがはためいている。海辺ではなく、がれきが撤去された大槌町の中心部に建つ仮設店舗の食堂である。昼時、多くの人が食事に訪れるという。食堂の名前は「よってたんせぇ」。地元の言葉で「よってください」の意味だ。大槌町に来るボランティアの人たちに食事を提供するだけでなく、みんなが気楽に立ち寄れる、憩いの場所となっている。


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「よってたんせぇ」の全景()とメニュー(


 「よってたんせぇ」を運営するのは、マリンマザーズきりきりのみなさんだ。マリンマザーズきりきりは、平成12年頃から大槌町内の加工センターで不定期に海産物の加工を行っていた、漁家の女性グループである。

 「私たちは漁家なので、ホヤやホタテ、メカブ、ワカメなどの規格外のものを使って、加工品を作ってきました」と、代表の笹谷ヒロ子さん。そんな加工品のひとつが、10年作り続けた「ばぁーらー漬け」である。わかめの茎・人参・ごぼうなどを特製のタレに漬け込んだもので、人気の加工品のひとつだ(「ばぁーらー」とは、方言で「びっくり」という意味)。


201311yokogao_iwate3_0260.jpg 東日本大震災による大槌町の被害は大きく、復興のボランティアに来た人たちが食事をする場所もなかった。マリンマザーズきりきりのメンバーも、家を失い働く場を失った。

 そんな中、「食事をできる場所がほしい」という声に応え、岩手県の事業を利用して厨房と加工所、食堂を建てた。開業は、震災5カ月後の平成23年8月19日。食堂オープンが広まると、住民やボランティアの人たちがどんどんやって来るようになった。
右 :「よってたんせぇ」の店の前。津波被害のため、まわりに建物はない


 「加工の経験はあるけれども、食堂の運営は初めてで、しろうとだからメニューは簡単なものばかり」と笹谷さんは言う。当初はワカメなど海の幸を入れたラーメンとカレーだけだったが、メニューも増やし、ご飯ものや定食等も提供している。また、鮭のシーズン・冬季限定で、南部鉄器で調理した鮭入りの「吉里吉里鮭子焼きそば」がメニューに加わる。


 「よってたんせぇ」のメンバーは6名。事業の条件に従って、フルタイムで働く若者1名を新たに雇い、元からのメンバーは交代(パートタイム)で働いている。休みは月曜のみ。お客さんの注文に応じて食事を作りながら、加工も手がけている。「加工センターが流されて、もうだめだと思った。6名のうち3名は、今も仮設住宅で暮らしている。でも、働く場所を再び得て、たくさんの人が来ておいしい、と食べてくれて、ほんとうに励まされている」と笹谷さんは話す。


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開店当初からのメニューのラーメン()と加工品のラインナップ(


 もうひとり、笹谷さんたちを事務局として支えているのが、町内出身で保育士として働く芳賀カンナさんだ。「事務は引き受けるから加工をがんばって!」と、平成22年1月から経営にかかわる事務を一手に引き受けてくれている。カンナさんは祖母が全国漁協女性部会長を務めた人であり、笹谷さんたちの良き理解者だ。「若い人は、私たちにはないアイデアを出してくれるの。「よってたんせぇ」を海の家のイメージにしたのは、カンナさんの弟さんのアイデアですよ」と、笹谷さん。


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左 :マリンマザーズきりきりのみなさん。右の二人は大船渡農業改良普及センターの普及員
右 :店内のようす


 課題は、仮設のため営業の期限があり、先の見通しが立たないこと。施設を自分たちで建てるのか、場所をどうするのか。資金は、後継者は、と考えることがたくさんある。それでも、「おいしいよ」と食べに来る人たちに励まされ、「よってたんせぇ」は、大槌町の希望の星として今日も輝いている。(水越園子 平成25年10月4日取材 協力:岩手県大船渡農業改良普及センター)


よってたんせぇ(マリンマザーズきりきり)
岩手県大槌町吉里吉里2-2-16
TEL 0193-44-2838
FAX 0193-44-3223