提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


東日本大震災を乗り越えて(2) 加工所を再建。海と山の食材を活かした加工品づくりで夢を実現

2013年12月18日

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村上豊子さん(岩手県陸前高田市 広田半島営農組合 工房 めぐ海(み) 代表)


 陸前高田市のかつての中心部から、車で高台に上がっていく。太平洋につきでた広田半島を走る道路からは、穏やかな海が見下ろせる。道から折れてなお進むと、新しい白い建物がみえてきた。広田半島営農組合の拠点となっている「工房 めぐ海」である。営農組合の野菜加工部長であり工房の責任者である村上豊子さんが、加工の手を休めて迎えてくれた。


地元の宝が詰まった「めぐ海焼き」 
 加工場では自慢のお焼き(めぐ海焼き)作りの最中で、お焼きから湯気が上がり、香りがただよう。「私たちのお焼きは、皮が米粉だから、とても柔らかいの。長野県発祥のお焼きとは食感が違うでしょう」。具は茎ワカメとホタテ、ワカメとイサダ(※)、小倉あん、白あんとカボチャ(7~10月。11~6月はリンゴ)の5種類。どれも自分たちで採れる(獲れる)食材を使っている。皮の米粉も、営農組合で作った米が原料だ。


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 :「工房 めぐ海」の外観 /  :自慢のめぐ海焼きは5種類


 「今日は60個を5回に分けて、300個作る」というお焼きは、成形し南部鉄器の鉄板で焼いた後に蒸す。保存料や防腐剤等は使わないため、できあがってまだ熱い状態で急速冷凍し、注文に応じて発送している。めぐ海の加工品は、お焼きのほかに、がんつき(蒸しパン)、米粉まんじゅう、弁当(予約制)、お餅(お祝い事用、予約)、みそ(冬場限定)等がある。


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めぐ海の加工品。米粉まんじゅう()とがんつき(


 自分たちには珍しくもない材料で作ったものだから、お金を出して買ってもらえるとは思わなかった。それでも、「他にはないものを、来てくれた人に食べてもらえればと考えて始めたので、とてもうれしい」と村上さん。宅配のほかに、市内4カ所、大船渡市の1カ所で販売され、またイベントの際に頼まれて作ることもある。メンバーは村上さんのほかに9名。シフト制でほぼ毎日稼働しており、現在、定休日は第3日曜日だけ。6~7月は特に忙しく、1日10時間働くこともある。めぐ海焼きは、地域の新たな特産品として、人気の一品だ。女性起業のがんばりは、地域の元気の源でもある。


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 :手分けしてお焼きを作っていく  /  :南部鉄器の鉄板で焼き色をつける


 イサダはオキアミの一種。この地域は質の良い海産物に恵まれているが、ほとんどが塩蔵のため、非塩蔵で使えるイサダは貴重な食材だ。栄養価も高く、機能性食品としても注目を集めている。


加工所流出から再建へ
 震災で流された加工所は、活動を始めたばかりだった。菓子などを作る場がほしくて5年がかりの交渉の末、味噌加工を継続することを条件に、JAのみそ加工所を無償で提供してもらった。それに、「一緒に地域興しをしてくれませんか」と、ひとりひとりに声をかけて集まった13人だった。大切な仲間の一人は震災で死亡し、家を流された者が4人。どうしたらいいのか、もうだめではないかと途方に暮れたのは当然だった。しかし周囲から励まされ、「もう一回やってみよう」と思えるようになったと村上さんは話す。


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 :焼き上がったお焼きを蒸し器に移す /  :めぐ海焼きは1個150円で販売


 震災復興事業を利用して、震災から1年3カ月後の平成24年6月3日に、現在の場所に事務所兼加工場兼工房である、「工房 めぐ海」をオープンした。広田町に何か残したいという思いが形になった。「加工場のメンバーは良い仲間。役割分担して、意見を出しあって」。商品開発のアイデアも出し合う。困難を一緒に乗り越えてきたメンバーの結束は固い。


201311yokogao_iwate1_0050.jpg 大船渡農業改良普及センターの及川上席農業普及員は、「ここに至るまで、いくつもの壁があった。やませ等の気候条件、食品表示や許可等の法律、そして津波の被害。思いを形にしていくのは本当にむつかしいこと。それを、学びながら走りながら、乗り越えて解決してきた」と、村上さんの努力を称える。
右 :村上豊子さんと及川しげ子上席農業普及員(大船渡農業改良普及センター)


夢をかたちにする
 かつて農業委員だったとき、村上さんは「ニンジンクラブ」を立ち上げた。放棄地を借りてニンジンやジャガイモを作り、給食センターや保育園に納めていた。そのとき子供たちの食の細さが気になった。一方で、自分で種をまいて収穫した野菜を喜んで食べ、のびのび遊んでいた子供たちの姿が浮かぶ。だから、この活動を再開して子供たちに農業体験を、と考える。


 工房の再開から1年4カ月。ようやく夢がかたちになってきた。「ここを人が集まる場所にしたい。トウモロコシの釜上げ、のようなイベントができたらいいな」と次の夢を語る。「自分から言い出したことだから、逃げるわけにはいきません。壁にぶつかったら解決していけばいいのだから」と村上さんは前を向く。(水越園子 平成25年10月3日取材 協力:岩手県大船渡農業改良普及センター)


工房めぐ海(広田半島営農組合 野菜・加工部)
岩手県陸前高田市広田町字山田46-6
TEL&FAX 0192-56-4430