提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


トマトを軸に、農産物の生産から加工・販売を展開 -加工品着手は農場を市民農園に「一部開放」が契機

2013年11月22日

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谷口威裕(たけひろ)さん(北海道旭川市 (株) 谷口農場) 


 北海道の上川盆地は、全国有数のトマト産地である。降雨量が比較的少なく、昼夜の気温差が大きい気候がトマト栽培に適していることから、生食用や加工用のトマトがつくられている。加工品のトマトジュースは、全国的に知名度が高い。旭川市の株式会社谷口農場は、トマトを軸に農産物の生産から加工、販売を展開してきた法人である。その6次産業化の取り組みは、企業価値を高める試みと重なっている。


農産物加工のはじまりは完熟トマトのジュース
 北海道のトマトのシーズンは、6月から8月の後半。谷口農場の30棟をこえるトマトハウスでは、大玉トマトのりんか、ミニトマトのラブリーなど、さまざまな品種を栽培している。農場はハウスと畑、加工と販売の拠点を備え、農業体験と飲食、買い物まで、農業観光が楽しめるエリアになっている。


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 :トマトハウス /  :トマトの店舗販売


 谷口農場がトマトを生産の主軸にしたきっかけは「1980年代に農場の一部を開放して行った市民農園だった」と谷口農場社長の谷口威裕(たけひろ)さんは話す。「農園は250区画ほどあり、どの区画でもトマトが栽培されているのをみて、トマトに需要があることを感じました」。

201311yokogao_taniguchi_1.jpg 完熟したトマトは日持ちしない。市民農園の利用者は都合がつくときだけ来園するので、収穫期を逃してしまうことが少なくない。せっかくだからジュースにして、収穫した分を契約者に配ることにした。原料は生食用の桃太郎で、「特有の甘みを損なわないように減塩タイプのジュースにしたところ、おいしいと好評でした」。市民農園の利用者や農場関係者が集まる秋の収穫祭で販売すると、たちまち完売した。
右 :谷口農場のトマトジュース。看板商品のトマトには、ジュースをはじめとしてゼリー、ジャムなどの加工品がある


 トマトジュースの評判はビジネスの話を呼び込み、88年に首都圏の大手自然食材宅配会社との取引がはじまった。売れ行きは順調だったが、90年に加工の委託先の1社が不良品をだし、出荷ができなくなってしまう。委託生産のリスクを痛感した谷口さんは、こだわりの高品質ジュースのために、自前の生産体制をつくろうと決断。92年に自社工場を建設した。


困難を乗り越えサービス事業を拡大
201311yokogao_taniguchi_8.jpg ジュースの評判は広がり、マスコミに取り上げられると注文が殺到。見込み増産をした翌96年、大量の在庫を抱えてキャッシュフローがひっ迫したため、確実な現金収入の手段として、トマトのもぎとり園をはじめた。

 それまで「原料トマトにつき小売りしません」と直売は断っていたが、トマトハウスは道路沿いにあり、立地条件がよかった。『まっかな完熟トマト小売りいたします』と立て看板をたてて、収穫期に集客を図った。苦肉の策が当たり、もぎとり園は予想以上の収益を上げる。翌年以降も季節営業として定着し、売り上げをのばした。
左 :道路脇の谷口農場の入り口看板。農場の入り口を入っていくと、直売店「まっかなトマト」。その奥には、収穫したトマトを加工する工場もある


 谷口さんはもぎとり園盛況の背景に「由来のしっかりしたものが欲しい、という消費者のニーズがある」とみて、農場の敷地内に、トマト以外の農産物を集荷した直売店を開設。続いて、来訪者むけにレストランの営業もはじめた。もぎとり園の来園者と直売店はリンクするものの、レストランの客層とは異なることが判明。そこで店舗営業は物販に絞り、直売店に併設するテラスで軽食と飲み物を提供するサービスに切り換えている。


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直売店のテラス()と店内(


 市のコンペに応募して2009年に開設した『ファームZOO』も好調だ。北海道の代表的観光地旭山動物園にある直営店で、地元の農産物を食材にした軽食と土産品を販売している。人気メニューはトマトカレーやトマトソフトクリームだ。「北海道の方向性は、農業と食、そして観光の融合にある」とする谷口さんの構想とつながる。


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混み合う直営店「ファームZOO」()と人気のトマトカレー(


環境調和型の農業で健康な作物を提供する
 谷口農場は、先進的な先代の父・栄武さんが68年に法人化している。70年には減反の代替作物としてエノキダケを導入。ホルスタイン育成牛の飼育にも取り組み、土壌づくりに力をいれてきた。谷口さんは社員として就農し、その後に経営を引き継いだ。


201311yokogao_taniguchi_10.jpg 谷口農場は経営理念に、「健康な土壌と食べる人の健康を育む作物」を掲げている。農場のトマト、米、スイートコーンや黒大豆等には、米糠と大豆粕、菜種粕、籾殻燻炭等でつくられる自家製ぼかし肥料を使用。病害虫の防除は、漢方薬と発酵資材等を調合し散布する。農薬の使用は、やむをえない状況のときだけに限定している。
右 :トマト露地栽培の畑。強い陽射しの下、農場にはチョウやトンボが飛び交う。トマトのハウスと露地の栽培総面積6ha


 北海道の気象条件から冬季の3カ月間は休耕をよぎなくされるが、病害虫防除の面で利点がある。また「休耕と降雪が土壌にもたらす恵みは、はかりしれない。けっしてマイナス要因ではない」と自信をのぞかせる。家族の健康回復のためにはじめた水へのこだわり、地道な土壌づくりの取り組みは、豊かな農地と高い栽培技術を培い、谷口農場の基盤となった。


農産物への信頼は生産現場を知ってもらうことから
 有機栽培の作物の価値を、どのようにアピールするか。生産現場を知ってもらうことが、農産物へ評価や信頼につながる、と谷口さんはいう。「時々『一般に開放するのは煩わしいでしょう』といわれるけれど、農場のありのままをみてもらうことが目に見えない信頼につながる。社外監査役のような存在。体験の口コミはどんな宣伝より力がある」と確信する。取引会社の担当者からも「農場をみれば、詳しい説明を聞かなくても栽培状況が分かる」と言われるという。


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トマト加工品()と新鮮野菜()。
直売店にはトマトジュースのほかにトマトゼリー、トマトラーメン、トマトスープなどトマト加工品が数多く並ぶ。ゆめぴりか、おぼろづき、ななつぼしなど農場産の米も人気商品だ


次世代へ経営を引き継ぐ
経営の転換期に経営者にかかるプレッシャーは深刻だったはずだが、「事業にはリスクがつきもので、経営者は誰もが経験すること。持てるものを活かし、強い意志をもっていれば打開策につながる出会いがある」と谷口さんはふりかえる。

 谷口農場は部門制で運営されている。業務を推進して利益を生み出すのは、各部門のスタッフである。既存の枠組みにとらわれない、多様な取り組みが求められる6次産業化法人では、人材の育成は重要である。谷口農場では、時間的に余裕がある冬季期間はもとより、常時社員の研修やグループミーティング等に多くの時間と費用を投入している。また、安全性の向上、環境保全、労働安全の確保のために導入したGAPは内部統制に役立ち、組織の自律性が高まった。「いまでは各事業部門をまかせられる人材が育っている」という。

 「物事の実現の第一歩は、高い目標を明確に設定すること」という谷口さんは、世代交代を見据えた長期、中期計画を進めている。2015年には第2工場の建設を計画している。自然のサイクルに合わせてメリハリをつけて活動しながら、「よいものでリーズナブル」な商品とサービスを目指す。(君成田智子 平成24年8月28日取材)
●月刊「技術と普及」平成24年11月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


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