提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


販路求め東京に出店。消費者に直接自園自製のお茶を販売し、伊勢茶の知名度アップもめざす

2013年09月12日

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中森慰(やすし)さん (三重県度会町 (有)中森製茶) 


 古くは南北朝時代ともいわれる長い歴史を持ち、全国指折りの産地である三重県のお茶は「伊勢茶」として知られ、その濃厚な味わいと香りが近年高い評価を得ている。
 日本一の清流「宮川」が流れ、県内の茶産地を支える度会町で代々農業を営む中森家16代目の中森慰さん(63)。昭和48年に自前の茶工場を作り、茶専業経営に転換。近年の消費者のお茶離れを危惧し、お茶摘み体験や伝統的な手もみ製茶の見学を開催。さらに食事処の運営も手掛けるなど、消費者との交流に力を注いでおり、お茶の魅力を伝えている。
 平成22年9月に販売店を東京にオープンし、消費者に直接自園のお茶を販売している。東京出店のきっかけは5、6年前の市場価格低迷だった。


リーフ茶が売れない本当の理由は
 リーフ茶が売れないのはペットボトル茶が伸びているせいと言われ久しい。しかし中森さんは、市場価格の低迷により売り上げを優先し、「小売店がお茶の素晴らしさを消費者へ伝えながら販売するという機能を果たせなくなっている」ことが原因と感じている。だとすれば、お茶を作っている自分が直接、お茶の魅力を伝えながら消費者に売ろうと考えた。
右 :一番茶の新芽


 4年前に銀座のフリーマーケットに初めて参加し、消費者の反応に手応えを感じた。その後、マルシェジャポン(お台場、赤坂、錦糸町、浅草等)や青山フリーマーケット等にも出店(現在も不定期で出店)。すぐに売り上げに結びつくわけではないが「PRと割り切って交通費がでればいい」。週末になると車にお茶を積んで東京へ通った。「東京に常設店を持ちたい」と思うようになったころ、タイミング良く空きスペースがみつかり、平成22年9月1日に「農直茶店なかもり・三重プラザ」をJR山手線有楽町駅前の東京交通会館ビル地下1階にオープンした。


農家直売価格に消費者が驚く
「どうしてこんなに安いの?」とお客さんに不審がられる。そのたびに、「私が作って収穫し、製茶加工したお茶です。飲んでみてください」と味を確かめてもらう。すると「おいしい!」と納得して買っていく。途中のマージンがないので、客が驚くような値段でも儲けは出るという。
 店の間口は狭くとも、工夫がいっぱい。「農家直売」ののぼり。壁には自園茶畑の写真や、献茶している伊勢神宮のポスター。商品横には手書きのポップが添えられている。
 煎茶、ほうじ茶、玄米茶、番茶。リーフ茶だけでなく、緑茶ティーバッグや粉末緑茶も扱う。手頃な値段の急須も数種類置いている。また、自家製の竹炭や木酢液も並ぶ。伊勢うどん、志摩名物のあおさ等、県の特産品やこだわりの米も並べられ、ミカンや栗等の農産物も季節になれば売り場を飾るという。どれも納得できる作り方をしている生産者のもの。「3歩のうちにお客さんが足と目をとめるように」を心がける。


  
 :「農直茶店なかもり・三重プラザ」の店頭
 :地元生産者の商品も並ぶ


 中森さんが在店する日は限られるので、日替わりでパート5人が店番をするが、「農家ではないので中森さんのようにはいきませんが、お客さんが気持ちよく帰られるような接客を心がけています」と話す。


自ら売りに出る
 三重県の茶栽培面積は全国第3位。1位静岡、2位鹿児島に次ぐが、県内で生産されるお茶のブランド名「伊勢茶」で売られる量は面積の割に少なく、静岡や鹿児島ブランドに比べて残念ながら、知名度もいまひとつ。「三重のお茶は中途半端な位置付け。買い手が来ないし、市場は農家を見ないで流通・買い手の方を向いている」と中森さんは歯がゆさを感じている。また、原産地表示に関する法改正(平成16年)以降、「伊勢茶」名が前面に出るようになった一方、売上は下がっているという。
右 :手書きの小売袋が人目をひく


 東京での販売にこだわるのは、「東京で売らないと! 条件が厳しいところで認めてもらえれば、生き残れる」と考えるから。再三、東京のアンテナショップ設置を県に働きかけたが、県の方針は名古屋止まり。自分の店を三重プラザと名付け孤軍奮闘していたが、ようやくこの秋に東京・日本橋に県が出資する店ができる。「一次産業の人のためのアンテナショップとなってほしい」と中森さん。


201309yokogao_nakamori5383.jpg直売に比重を移して適正な経営規模へ
 (有)中森製茶は平成15年7月の設立。中森さんが代表取締役を務め、長男の大さん(36)、次男の顕夫さん(34)が栽培を担当(繁忙期は臨時雇用あり)。東京出身の長男大さんの妻・久美子さんは、IT企業で働いていた腕を生かし、中森製茶のHP『「伊勢茶」の通信販売・農家直送!茶娘どっとこむ』を運営。お茶のネット販売とともに、ブログでイベントや茶農家の日々の暮らし等の情報発信をしている。
左 :新茶の手もみ実演をする中森大さん(左)と顕夫さん(右)


 茶園の栽培面積は一時10haまで増えたが、直売が売上の2割になった現在は、面積を6haに減らし栽培している。「10haでは経費がかかりすぎる。面積を減らした分を直売の売上で補う」経営に移行中だ。直売が5割に高まれば、4haで経営が成り立つとみる。また、製茶工場の近くに茶園を集めて効率化することも考えている。すでに150カ所を70カ所にまとめたが、より集約して効率を上げたいという。


  
 :手作り工房うまのり
 :新茶の手摘み体験に集まった消費者。手摘みに夢中


 中森さんは三重県手もみ茶技術伝承保存会の会長も務めている。「手作工房うまのり」は、清流・宮川のそばに立つお食事処(完全予約制・中森さん自ら腕をふるう)であるが、元々は手もみの実演をする場所として建てた。「静岡の研修所(現・(独)野菜茶業研究所)時代に習った技術ですが、調べると、もともと伊勢から出た技術らしいことが分かった。三重県独自の手もみ茶の手法を保存し伝承したい」。実演の機会を作り、手もみ茶の技術継承にも力を注いでいる。


若者が希望をもてる経営めざす
 地域の茶栽培の再編成にも取り組みたいと考える。地域には後継者がいない茶園や、すでに廃園になった茶園も少なくない。「組織化していかなければ、産地が成り立たない」と危機感をもつ。

 目指すのは、若い人が夢や希望を持てるような経営。「作って市場に出すだけでは、楽しみがないでしょう? 消費者とのやりとりが、やる気につながるんです。忙しくても、これが終われば東京へ行く、お客さんに会えると思えば張り合いがあるというもの」と経営への思いを熱く語ってくれた。
右 :手摘み作業のようす
(松本一成、水越園子 平成25年4月29日取材  取材協力:公益財団法人日本特産農産物協会)


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