提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


耕作放棄地対策に、ブドウ丸ごと ~6次産業化で地域活性化し、次世代に継ぐ~

2013年08月20日

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三森 斉(ひとし)さん、かおりさん夫妻
(山梨県甲州市勝沼町 農業生産法人(有)ぶどうばたけ)


 山梨県を東西に貫く甲州街道の宿場町として栄えた甲州市勝沼町は、街道を行き交う人々が集う情報交換の場だった。それが今は、日本一のブドウとワインの郷として知られ、全国から訪れる観光客も多い。

 現代の"情報発信基地"ともいうべき当地で、50品種近いブドウを有効活用した多彩な6次産業化を進めるのが、農業生産法人(有)ぶどうばたけ代表取締役の三森斉(ひとし)さん(48歳)、かおりさん(47歳)夫妻だ。生食の市場出荷、観光ブドウ狩り、ワイン醸造から直売店・喫茶室(カフェ)での加工品の販売・提供、食堂、農業体験、農家民宿、畑のオーナー制、インターンシップの受け入れに至るまでの夫婦二人三脚経営の根底にあるのは、耕作放棄地を解消し、地場産品の産直で地域を活性化したい、という熱意だ。


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(株)ぶどうばたけ()と全景(


遊休農地解消に新商品開発
 「6次産業化に取り組むのは、周辺の耕作放棄地を増やしたくないから。農地は未来の担い手に渡すために、今は自分たちが管理しているだけ。法人化したのも、農地を次世代につなげていくため、高齢化などで維持できなくなった農地を引き継ぎ、果樹産地を守るためです」――直売店での接客、収穫直前の園管理作業に追われるかたわらで、三森さん夫妻が開口いちばん、そろって語ったのは、この思いだった。


201308yokogao_budoubatake2.jpg その象徴の一つが、早めに収穫し、まだ熟していない青い種ありのデラウェアを使った新商品、スパークリングワインの開発だ。三森さんのデラ園の多くは、主に耕作放棄地を引き受けたもので、放棄地の解消に一役買う商品といえる。種ありのまま加工すれば、ジベレリン処理の手間も省ける。2010年12月から直売店で売り出した。さわやかな味に仕上げた商品(青デラウェア発泡ワイン「勝沼ヴァンムスー」)で、人気商品となっている。販売価格は、1本(500ml入り)1050円。
右 :人気商品のスパークリングワイン「勝沼ヴァンムスー」


多品種で、ブドウ狩りと直売に対応
 (有)ぶどうばたけのある菱山地区は、甲州市勝沼町の最北、標高500m前後の南西斜面に位置する。ブドウ栽培にとって欠かせない条件、水はけ・日当たり・風通しに最適の地域で、古くから高品質ブドウのブランド産地として県内外に知られる。着色の良さ、完熟、味の濃さが売りだ。


201308yokogao_budoubatake4.jpg 三森家は江戸時代中期から続く古い農家で、斉さんは18代目の後継者。1989年、同じブドウ農家のかおりさんと結婚。2004年には家族経営協定を結び、2006年に法人化した。斉さんが代表取締役、かおりさんは取締役を務める。社員は6人、パート3人の体制だ。現在は、5haの圃場で48種類ものブドウを栽培する。三森家の敷地内には、集落の人が共同出資する菱山中央醸造という、手絞りのワインを醸造する会社もある。
左 :(有)ぶどうばたけのスタッフ


 観光と直売を進めるには、まず栽培品種を多くすることだった。ブドウの大規模経営農家に多い、巨峰、ピオーネ、藤稔などの大粒品種中心だと、大粒に育てるための摘粒や袋かけ、収穫作業が集中しがちだ。そこで、三森さん夫妻は、ブドウ狩り、直売など経営の多角化を進める上から、作業時期をずらし、労力の分散を図るため、栽培品種を増やした。「特に加工用は、生食向けと違って栽培管理にあまり手間をかけなくてもいい」(斉さん)。かおりさんも「法人化した会社組織で年間雇用するには、生食だけの経営では雇用期間が短いし、品種を増やし、加工品の販売によって雇用の安定化を進めた」と強調する。


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左から上から ピオーネ、シャインマスカット、リザマート


 ブドウの栽培品種は、主力のデラウェア、ピオーネ、巨峰、藤稔はじめ、甲州、ベリーA、安芸クイーン、甲斐乙女、ロザリオビアンコ、リザマート、キングデラウェア、甲斐路、ロザリオ、シャインマスカット、瀬戸ジャイアンツ、多摩豊、アーリースチューベン、ネオマスカット、ルビーオクヤマ、ナイヤガラなど。収穫は、施設栽培で最も早いのが6月から7月上旬のデラウェアから始まり(露地は7月下旬から8月末)、7月中は、種なし巨峰、ピオーネ、藤稔の大粒種が収穫期だ。8月からは、露地栽培物が一斉に本格化し、11月上旬に収穫する品種まで長期に続く。


多彩な加工品を販売
201308yokogao_budoubatake13.jpg 直売店の近くの約2haのブドウ狩り園は、8月から11月中旬まで長期間開園する。品種が豊富なので、何種類か一度に食べられることが魅力だ。入園料・試食料は無料。収穫したブドウは買い取りで、かごに入れ、直売店で計量して持ち帰るか配送依頼する。
右 :人気のブドウ狩り


 直売店は、8月から11月までは無休で営業し、12月から7月までは、土、日、祝日に開店している。夏は食堂も開業し、畑でとれたナスやトマトなどの野菜でカレーライスなどを振舞う。喫茶室・食堂は予約が必要だ。


 「勝沼菜果」とネーミングした多彩な加工品も魅力だ。完熟ブドウを手で摘み、加工する。保存料、着色料、香料などは一切使用しない。甲州、デラウェア、ピオーネ、ベリーAのジュース(180ml、720ml)、デラウェア、巨峰、ピオーネ、藤稔、ベリーAのジャム、それに干しぶどうのデラウェアレーズン、大粒レーズンと、種類も多い。一昨年の夏には、直売店を改造し、しぼりたてのフレッシュジュースを提供する喫茶室も開店した。熟し過ぎたり、果形がよくない規格外品のブドウや桃をジュースにして、ブドウ狩りや直売所に来るお客さんに一杯500円で提供する。かおりさんは、食品衛生責任者の資格を取得した。


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 :直売所にはバラエティに富む加工品が陳列されている
 :直売店併設の喫茶室(カフェ)


「男女共同参画」実践が、経営戦略の柱
 三森さん夫妻が取り組むブドウの6次産業化経営の特色は、「男女共同参画」を地でいっていることだ。2012年6月には、斉さんが全国女性農業経営者会議による2012年度農家のベストパートナー賞を受賞した。ベストパートナー賞は、夫婦が対等な関係で農業経営をしている同会議会員に贈られるもの。かおりさんは「夫や家族全体の協力があるから、農業経営以外の活動もがんばれる」と感謝し、斉さんは「仕事は性別に関係なく能力を発揮できることが大事。妻は良きビジネスパートナーだ」とエールを贈る。かおりさんは家を不在にすることも多いが、斉さんは、家事、洗濯もこなす。


201308yokogao_budoubatake15.jpg 行動派でアイデア豊富なかおりさんの提案に対し、柔軟な考えの斉さんが、夫の目で厳しい意見を出し、アドバイスする。お互いが車の両輪のような関係だ。かおりさんは、日本農業法人協会の理事を務めるほか、2010年から農水省の食料・農業・農村政策審議会の生産者委員でもある。県農業指導士としても活躍する。「会合などでは、人から聞いたことを言うのではなく、自分で実際に体験したことを伝える」のがモットーだ。
右 :接客中のかおりさん


顧客のニーズから生まれたレーズン
 農業者としてお客さん(消費者)にはいいものを、直接届けたい。市場出荷には、出荷規格サイズはあるが、〝味〟が反映されない。「直売を始めたのはお客さんの声を直接聞きたかったから」とかおりさん。果樹王国といわれる山梨県だが、意外にお土産品が少ないことにも気がついた。

 レーズンは「小さいものが食べたい」という顧客のニーズで生まれた。「ワインのお客さんには、手絞りにこだわる人も少なくない」と、ワインアドバイザーの資格もとった。ほか、食の検定士、チーズ検定士、野菜ソムリエなども取得した。これは「農業者同士の交流のほか、顧客との接点を増やすため」と、かおりさんは強調する。


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顧客のニーズから生まれたレーズン()と袋詰め作業(


 「自分も農家から農家の嫁に来たが、農家は普段、人との接触が少なく、人を受け入れることも苦手だ。外に出ないことには、気がつかないこと、分からないことがある」。このため、かおりさんは、さまざまな展示会に加工品を出品するなど、積極的な情報収集にも努めた。ただ、会社のスタッフ全員は行けないので、得た情報は全員で共有し、相乗効果を高めていかないと経営は伸びていかない、とも言う。


新商品の新規開拓も
 今後は、県内産米の米粉(梨北米米粉)を使った洋菓子(レーズンシフォンケーキ、レーズンサンド)、ドライフルーツ、スパークリングジュースの商品開発を行い、販売拡大を目指す。さらに、果実ピューレなどブドウ菓子類の製造販売にも着手する計画だ。

 「伝統の伝承」―――これが、三森さん夫妻が築いた会社理念だ。引き続き、耕作放棄地の解消に向けた取り組みにも力を注ぎ、これからも、山梨の魅力を農業の6次産業化を通じて発信していく。
(竹村 晃 平成24年7月20日取材)
●月刊「技術と普及」平成24年9月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


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