提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


戦略的経営で、大規模土地利用型農業の可能性を拓く

2011年01月26日


川田慶さん(秋田県大館市 有限会社アグリ川田 代表取締役)


 秋田県北部に位置する大館市。この地で大規模水田農業経営を実践する(有)アグリ川田は、第59回全国農業コンクール全国大会で名誉賞とクボタ賞を受賞した。代表取締役の川田慶さん(53歳)は、「工夫と言っても、自分がやっているのは、みんなが考えるようなことですよ」と控えめに語るが、戦略的な農業を展開し、地域を先導する役割を担っている。


工場管理手法を農業に活用する

 川田さんは、専業農家の3代目。少年時代から機械いじりが好きで、工業高校進学をひそかに望みつつも、長男の使命で農業系の高校へ進み、卒業後は愛知県の花き栽培農家のもとで2年間、住み込みで研修を受けた。昭和54年に帰郷し、就農。ところが翌昭和55年が記録的な冷夏となり、苦しい時代が数年続いた。

 思うような収益を上げることができなかった花き栽培をやめ、稲作の傍ら、川田さんは農閑期には建設会社の作業員や、自動車組立工場の期間工としても働いた。農業経営の面では楽ではなかったが、この時期の経験が、その後に役立つこととなる。
「徹底して効率化を図る自動車組立工場のやり方は、農業にも活用できると思いました。ものをつくるという意味では、農業も工業も同じですから」


信念を貫き、健全経営を実現

 平成3年、専業農家として農業経営に取り組み始めた川田さんは、利用権設定により規模拡大を進めた。「経営を安定させるためには、規模拡大しかないと思い、地域の情報を集めて、借地を増やしていきました。母さん(妻の千雅子さん)と2人で、どうやったら作業が効率よく進められるかと、いつも考えながらやっていました」と、急激な経営面積の拡大に、二人三脚で取り組んでいた当時を振り返る。
右 :作業を大幅に軽労化するエダマメ収穫機


 平成14年には経営面積が30haに達し、転作対応として大豆栽培に取り組み始めた。
 平成18年には、農業生産法人「有限会社アグリ川田」を設立。家族経営から企業的経営へと転換し、地域への貢献も理念に掲げた。
 現在は、水稲32ha、転作大豆33ha(平成21年実績)のほか、平成20年から枝豆、平成21年から飼料用米とネギ、平成22年からセリ、ウド、小玉スイカも栽培し、周年就業・周年雇用を目指している。


yokogao1101_kawada_3.jpg 特に枝豆は、大豆の7倍強の単価となり、経営を大きく支えている。初年から約8haと大規模作付けを行なったが、省力化・効率化を図るため、作業者の動線を考慮したライン配置を考えたり、機械をうまく活用したりするなど、独自の工夫を重ねている。その一例が、オリジナル台車による収穫・脱莢。自動脱莢機と自作の運搬車を組み合わせ、通常は作業場で行なわれる脱莢作業を圃場で行なえるようにした。栽培している枝豆は、収量性、作業性、食味を考慮して選択した8品種。「収穫期には、各品種の味比べを楽しみながら飲むビールが、一日の疲れを何よりも癒してくれます」と笑顔をこぼす川田さん。なかでも県オリジナル品種の「あきた香り五葉」は、「本当においしいから、一度食べてみてほしい」と太鼓判を押す。

 さまざまな企業努力を行なってきたことにより、借金ゼロの経営を実現していることは、注目すべき点である。
「とにかく自分の体を動かすこと、そして、古い機械でも使えるものは使うようにしてきました」
 就農時からの一貫した姿勢が、こうした健全経営に結びついている。


さらなる発展を目指して挑戦は続く
yokogao1101_kawada_4.jpg 従業員は代表取締役の川田さん、取締役の千雅子さん、同じく取締役の長男(29歳)、社員の次男(25歳)の家族4人に加え、3人の男性社員、さらに臨時雇用が約20名である。
 長男は10年ほど前から農作業を手伝っていたが、「法人化を機に、意識が大きく変わった」と、川田さんはいう。無人ヘリによる農薬散布作業は、今では全面的に長男に任せている。防除作業の実施面積はJAの委託で年々増加し、平成21年実績で延べ580ha。高齢化による担い手不足が深刻な地域で、大きな役目を果たしている。
右 :川田さんと構成員のみなさん。後ろは枝豆の脱莢作業を圃場で行うために考案した自作台車


 また、これまで川田さん一人でやってきた田の水管理を、去年は長男と分担して行なった。「今までは朝4時から田んぼを見て回っていました。田植えの時期には、辺りがまだ暗い3時から動かないと間に合わなかった。でも、それが2分の1になって、楽になりました」とうれしそうに語る表情から、息子の成長を頼もしく思う様子がうかがえる。
 「従業員には厳しいですよ。『足を動かすのも、手を動かすのも、考えてからやれ!』って、いつも言っています」と経営者の表情をのぞかせるが、幼い頃から農作業を経験してきた長男と次男も、3人の従業員たちも、川田さんの考え方を理解して作業にあたっている。


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 :工程の単純化を徹底することで、田植機1台で32haを2週間足らずでこなす
 :無人ヘリによる農薬散布作業


 「今後は、自信を持って生産した安心・安全で高品質な農産物を、積極的に売り込んでいきたい。そのために、技術や生産物の良さが説明できる人材を、営業マンとして採用することも検討しています」と、さらなる意欲を燃やすとともに、「農地を貸してくれた人の気持ちに応えるため、そして、法人経営の役割と責任を果たすためにも、地域農業を維持・発展させていきたい」と、決意を語る川田さん。時代を読みながら経営の舵取りをし、事業発展と地域共生を目指す。(橋本佑子 平成22年12月15日取材  協力:秋田県農林水産部 農畜産振興課)