提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


弁当持って家族でおいで。癒やしの観光いちご園

2010年02月25日

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松本茂さん(佐賀県吉野ヶ里町 松本農園)


 佐賀県東部、弥生時代の大規模遺跡があることで有名な吉野ヶ里町に、松本農園はある。高速道路のインターから、車で3分の立地。とはいえ、2月の平日に、入れ替わり立ち替わり、家族連れ、老夫婦、若いカップルと次々にお客さんがやってくる。「えっ?時間制限なしの食べ放題なんですか?」「そうよ。さあさあ、入りなさい。採り方を教えるよ」農場主の松本茂さん(56)が、ニコニコ笑顔で迎えてくれた。


時間無制限。食べ放題で1600円
 農場主の松本茂さんが、観光いちご狩りをはじめたのは14年前。20歳で父親の後を継いで就農し、米、野菜、みかん、イチゴと、さまざまな作物を作ってきた。市場への出荷をやめて、観光農園をはじめたのは、14年前。
 イチゴ栽培は年中忙しく、中腰で作業するきつい仕事だ。自分たちがどうしたら楽になれるか、この先ずっとイチゴ作りができるかと、考えて『お客さんに収穫してもらおう』と思ったのだという。


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 :農村集落の一角にある松本農園。看板を目印に皆やってくる
 :イチゴ狩りのシーズンは、12月上旬~5月上旬。この間は無休で営業


 開園時から守り続けているのが、時間無制限の食べ放題スタイルだ。30分でいくら、という時間制限を設けるイチゴ農園が多い中で、イチゴ好きのお客さんに、とても喜ばれている。料金は、3歳~6歳が1300円(3歳未満は無料)、7歳以上は1600円(税込)。持ち帰りは別途量り売りで、100g230円にしている。12月上旬から5月上旬まで、無休で営業する。


「イチゴが好きな人は、一回来て、一人でいくつ食べて帰ると思う? 300個ですよ。ヮハハハ」

もちろんこれは極端な例だが、一度料金を払えば、何度でもハウスを出たり入ったりできるし、「お弁当持ってきて、ここで食べてもよかよ」と茂さんが言うように、ハウスのそばには、イスとテーブルまで用意されている。採算は合うのだろうか?

「おいしいイチゴを作ることができれば大丈夫。観光イチゴ園を始めるときから、市場に出荷していた頃の、平均値くらいの収益が上がればいいって思って、やってるから。おいしいイチゴを作れば、お客さんはまた来てくれるけんね」


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 :栽培しているのは「とよのか」。香りが良く味が濃い 
 : 「甘ーい、おいしーい」イチゴ狩りデート


 イチゴハウスは、3連棟が3カ所。約3000㎡の面積。ハウスの脇には野菜畑も広がる。かわいい2匹の子犬が畑を飛び跳ね、子どもたちと戯れている。

「イチゴ狩りに来る人は、ほとんどが街の人でしょ。たまの休日に、福岡、熊本、大分いろんなところから来てくれる。私はここを癒やしの農園にしたいんだよ。好きなだけイチゴを食べて、お弁当も持ってきて、家族みんなで一日遊んでいってほしいんです。自分も一緒にお客さんと遊びながらやっています」


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 :休憩スペースの横には、だるまストーブ。その脇にはご近所さんが軽トラックを止めて立ち話。お客さんも一緒に和気あいあい
 :こちらは、量り売りの持ち帰り用。オリジナルの箱がかわいらしい


EM農法の減農薬栽培。肥料設計も自分で
 次男なので、家を継ぐことになるとは思っていなかった。茂さんが中学3年の時、大学に進学する兄さんが、茂さんに言った。「オレは、百姓には向かん。茂、お前せんか?」

 小さい頃から、外で遊ぶのが好きだったという茂さんは、勉強より土いじりもいいかなと農業高校へ。「農業高校でも、やんちゃばっかりしよりました」という茂さんだが、卒業後は、先生の薦めで、滋賀県の農業専門学校へ。種苗会社の経営する学校で、みっちり2年間、野菜づくり、花作りと実践的な農業を学んだ。


20100128_matsumoto_2499.jpg 「学校の農場のある場所は、台地で、もともとは痩せた土地でしたが、中央競馬会から肥料として馬糞をとっていたんです。そこで、しっかり土を作れば、もとの土が悪くても、こんなにいい作物がとれるんだと実感しました」
右 :松本さん夫妻。2匹の犬もお出迎え


 そんな茂さんだから、イチゴ栽培でも土には徹底的にこだわる。栽培している品種は「とよのか」。ここの土地に一番適しており、味が乗るからと選び、とよのか一本で栽培し続けている。子どもたちが大好きなイチゴだからこそ、化学肥料は一切使わず、農薬も極力使わない。病気の予防に不可欠な土壌消毒も、薬剤は使わず、夏場にハウスに水を入れて代かきをしたあと、密閉してハウス内を高温にし、イチゴの大敵であるフザリウム菌を殺す方法をとっている。


 肥料設計も自分で行っている。「自分の畑の土は、自分にしかわからない。ハウスの中でも、手前、右、左と違うんですよ」根が深く入るイチゴは、高設栽培だと土が足りない。土が足りないと、イチゴの味を良くするマグネシウム、カルシウムなどの微量要素が足りなくなるからと、土耕栽培にこだわる。
「市場出荷では、売るためには規格や見た目を重視しなくてはなりませんが、観光農園のイチゴは、まず安全なこと。安心して食べられること、そしておいしいことがいちばん大事。何より、お客さんの喜ぶ顔が見たかですもんね」


お客さんとの会話が大切
 農園での茂さんは忙しい。入園料の会計に、持ち帰りイチゴの箱詰め。ご近所さんのみかんなども直売し、携帯電話で、お客さんに道を教える。そして、自らお客さんをハウスに案内し、イチゴ狩りの注意事項や、摘み方をレクチャーする。


20100128_matsumoto_2404.jpg 「大人でも子どもでも、畝に乗ったり、約束事を守らない人は『コラ!』と叱ります」と茂さん。そのあと、なぜ、そうしてはいけないのか、しっかり説明する。お客様扱いではなく、人間同士、しっかり向かい合うことが大事なんです」
 「それでも気にいらんかったら来んでよか!」という茂さんだが、農園にはお客さんへの気配りもあちこちに。特にこだわったのは、農園のすぐ近くに、水洗のきれいなトイレを設けることだ。「これから観光農園をやる人は、絶対これをしたほうがいいですよ」とアドバイスする。
左 :減農薬栽培だから、子どもたちにも安心


10のうち7が遊びゴコロ。3きちんとしたらいい
 イチゴ農園の料金表の脇に、ダイコン1本80円、ニンジン1本50円と値札が下がっている。しかし、野菜は並べていない。「ダイコンあるんですか?」と、親子連れのお客さんに聞かれた茂さんは、3歳の女の子の傍らにしゃがんでいった。「おじちゃんと、ダイコン抜きに行こうか?」目を丸くする女の子。
 松本農園では、イチゴ狩りのシーズン、自家製野菜狩りも同時開催中なのだ。街の親子連れをはじめ、常連客にも好評で、シーズンを問わず、2週間に一度は、野菜を買いに来る人まで現れた。


20100128_matsumoto_2472.jpg 「このダイコンが美味しいから、これを抜いてごらん。」畑に子どもたちを案内して収穫体験。庭のキンカンをちぎって食べさせたり、春の山菜の時期には軽トラックで山へ案内し、ワラビ狩り、タケノコ狩りをしてもらうことも。「お母さん、帰りとうなかー」と、子どもたちがはしゃぐのだという。「小さい時に収穫をする楽しみを知っている子は、野菜嫌いにはならんよ」「泥付きのほうが長く持つから、多ければ、そのまま新聞紙に包んでおきなさい」と、茂さんに教わり、若いお母さんも真剣に頷いている。
「毎日、来た人をどうやって喜ばせようかな、と考えるとがまた、面白か」と茂さん。
右 :「お母さん、ニンジンとったよーー」家族連れと一緒に収穫体験


 自分自身の楽しみは、趣味のイノシシ狩り。猟期には12、3カ所に罠をしかけ、朝一番で山に見回りに行く。獲ったイノシシは、常連客やご近所に分けたり、みんなで食べたり。販売はしないので、解体も自分で行う。「猟期の間は、1日のうちにイチゴのことを考えるより、イノシシのこと考えている時間のほうが長いかもな」と笑う。「昔からだけど、10のうち7が遊びゴコロ。3きちんとしたらいい。それくらいでないと続けられないし、人も喜ばせられないよ」

 26年前から栽培していた、ジャンボニンニクを「吉野ガーリック」として、地元の特産品に育てようと、ガーリック部会の副部会長も務める茂さん。昨年12月には、クボタeプロジェクトとして耕作放棄地を畑に戻し、新たに植え付けを行った。(取り組みの様子はこちら

 これまでに共同圃場で40アールほど作付けし、有機JASの認可を受けている。
「最初は、大きくて面白いのと、モグラ除けにと植えたニンニクでしたが、最高齢83歳のガーリック部会も張り切っています。3月3日に吉野ヶ里遺跡の前の物産館がオープンするので、そこでも売っていきたい。」
 人を喜ばせるのが好き、みんなで汗を流せば楽しい。そんな茂さんの農園には、いつも人々の笑顔があふれている。(森千鶴子 平成22年1月28日取材)


松本農園
 佐賀県神埼郡吉野ヶ里町三津1915 
 TEL 0952-53-2083