提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


知的財産権を活用し江刺りんごでオンリーワン産地をめざす

2010年02月05日

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高野卓郎さん(岩手県奥州市 紅果園)


 岩手県の中南部、北上川流域に位置する奥州市江刺区は、高品質のわい化りんご産地として知られている。平成21年度産「江刺りんご」の初競りでは、1箱10キロが過去最高額の80万円で落札され、大きな話題となった。

 稲作が中心だったこの地域で、わい化りんご栽培(※)の導入普及に尽力し、「江刺りんご」のブランド確立に貢献してきたのが、高野卓郎(たかお)さん(69)である。高野さんとりんごの物語は、就農した翌年の昭和35年、新品種「ふじ」を導入したことから始まる。


201002_takano_02.jpg 高校時代から農業の専門雑誌を愛読し、「ふじ」が食味に優れたりんごだと知っていた高野さんは、苗木を10本買い、紅玉と国光を一挙に更新した。「うまいものを増やそうとするのは当然のことでしょ。ところが、当時は高接ぎ病が出るということで、りんごに詳しい人は増殖しなかった。知らなかったからできたんだね」と、若き日を思い起こして笑う。
 やがて結実した「ふじ」は、思いがけず高値が付いた。このことからりんご栽培への興味がいっそう増した高野さんは、知識と技術の習得に力を入れていった。
右 :江刺りんご(ふじ) (提供 :岩手県改良普及職員OB会)


 わい性台木(接ぎ木した穂木の生長を押さえる性質を持つ)を利用して樹高を低くし、植え付け密度を上げる栽培方法


全国初のわい化りんご産地をけん引
 昭和46年には、りんご栽培に意欲的な仲間30人ほどで「江刺市りんご同好会」を設立し、初代会長を務める。わい化栽培用の苗木生産に着手し、昭和48年には国の「りんごわい化栽培モデル園設置事業」を全国に先駆けて導入、小倉沢りんご生産組合の初代組合長に就任し、わい化りんご生産団地14.5haを造成した。「苗木を種苗業者ではなく生産者が作ったのは、おそらく全国で初めての例ではないか」と高野さん。「りんご栽培にのめり込んだ第2段階は、わい化の産地づくりだった」と振り返る。


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 :造成中のりんご園(江刺市小倉沢。昭和48年11月)
 :小倉沢りんご団地のメンバー(昭和52年)
(提供 :右左ともに 岩手県改良普及職員OB会)


 また、昭和47年にはジョナゴールドを導入し、日本で初めての経済栽培を始めた。ふじの育ての親といわれる青森の斎藤昌美氏を高野さんが訪ねた際、穂木を提供してもらったのがきっかけで、今では「ふじ」とともにこの地を代表する品種となっている。


独自栽培技術の追求と普及で実績
 わい化栽培の低樹高剪定技術や、マメコバチの増殖技術、JM台木の簡易挿し木技術、廃タイヤを活用したネズミの防除法など、高野さんが独自に開発した技術は枚挙にいとまがないが、これは指導機関から得た情報や先進事例をいくつも集めた上で、自らが実践してたどり着いた成果。失敗を何度も繰り返し、多くの時間を費やしながら導いた答えだという。

201002_takano_06.jpg 「農業は1年に1度しか経験できないから、作物にとって何がいいのか見つけるのに、すごく時間がかかる。だから、優秀な生産者がいたら訪ねていくし、技術を教えてほしいという人にはどんどん教える。みんなで覚えれば、早く前に進めるでしょ」
 そんな考えから、高野さんは自身が開発・確立した栽培技術について執筆するなど、すべて公開している。また、平成2年から15年間にわたり農水省落葉果樹研修所の非常勤講師を務めたり、国内外から研修生を受け入れたりするなど、担い手育成にも取り組んでいる。
右 :アメリカ・ミシガン大学カールソン教授の視察団が小倉沢りんご園を視察(昭和52年7月22日) (提供 :岩手県改良普及職員OB会)


 数々の実績から、全国りんご(ふじ)コンクールで全国第1位(平成12年)、全国果樹技術・経営コンクール農林水産大臣賞(平成19年)、全国農林水産祭日本農林漁業振興会会長賞(平成19年)、農事功績表彰の果樹部門で緑白綬友功章(平成21年)など、高野さんにはこれまで多くの褒賞が贈られている。


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 :日本一のジョナゴールド(昭和52年10月) (提供:岩手県改良普及職員OB会)
 :受賞の表彰状。先進的な取り組みが称えられている 


育種した「ロマンシリーズ」で新しい農業手法にとりくむ
 昭和54年に稲作・野菜・りんごの複合経営からりんご専作経営に転換し、現在の作付面積は、りんご919a、苗木90a、育種50a。「紅果園」の経営はすでに長男へ譲り、自身は育種に力を注ぐ。


 15年ほど前からオリジナル品種の育成を手がけ、これまでに取得した商標は10以上になる。その中で「江刺りんごがもう一度伸びる最高のチャンス」と高野さんが期待を込めているのが、「ロマンシリーズ」と名付けた4品種。「紅ロマン」「ゴールドロマン」「藤原ロマン」は商標登録済み、「みちのくロマン」は登録申請中だ。


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左から上から 紅ロマン、ゴールドロマン、みちのくロマン、藤原ロマン
(提供 :岩手県奥州農業改良普及センター) 


 この4品種は8月から11月にかけ、ひと月ごとに収穫期を迎えるので、江刺にしかないりんごを長期にわたって販売できる。昨年は産直や市場、指導機関などさまざまな場所で試食会を行ない、膨大なデータを集めた。いずれの品種も高く評価され、なかには高野さんも驚くほど高評価を得たものもあった。
 私は「藤原ロマン」を試食させていただいたが、皮を剥いている時は軟らかい印象なのに、食べてみると歯ごたえはパリッとしている。もちろん味は申し分なく、果汁が多くて甘かった。


 「ここだけのりんごで、しかもいつでもおいしいものが食べられるとなれば、ほかでは真似のできない産地づくりが可能になる」と、意欲を燃やす高野さん。知的財産権(商標登録)を利用した、新しい農業を確立するという夢を掲げ、「江刺りんご」の次なる伝説を紡ぎ出そうとしている。(橋本佑子 平成22年1月18日取材 協力:岩手県農業改良普及会)