提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


理想の畜産経営をめざして、地域の条件と資源を生かす

2009年11月26日

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冨永実秀さん(沖縄県石垣市 冨永牧場)


 沖縄本島からさらに西へ400kmの東シナ海に浮かぶ亜熱帯の島、石垣島。石垣市は年平均気温は約24度、人口4万5千人の、観光と農業が基幹産業の八重山地域最大の市だ。沖縄県は全国4位の子牛生産頭数を誇り、全国主要産地への供給拠点であるが、中でも八重山地域では、県内の半数近い母牛が飼養されている。


 冨永実秀さん(37)は、沖縄県石垣市バラビドーで母牛45頭、未経産牛6頭を飼養し、子牛31頭を育成する。採草地は3.5ha、家族経営(本人と妻絹枝さん、雇用1名)で、地域の条件を生かした経営を行っている。平成20年度からは、石垣島和牛改良組合の副組合長を務めている。


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 :採草地が広がる /  :実秀さんと絹枝さん  


「やけくそ」でゼロから経営をスタート
 沖縄本島中部出身の冨永さんは「農業には将来性がある」と21歳で渡米、4年間でさまざまな農業経営を見てきた。日系人の野菜農場や花きの農家で働いたが、沖縄ではやはり畜産だと感じ、メガファームからごく小規模家族経営まで、規模が異なる牧場で経験を重ねた。
 帰国後は沖縄本島での就農を模索したがむつかしく、祖父が土地を所有していた現在の場所に牛舎を建て、平成11年、27歳で牛飼いをスタートした。


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 :自分で作った牛舎 /  :ラップした牧草 

 
 畜産経営には初期投資が必要だが、新規就農の冨永さんは、後継者育成資金も近代化資金も借りることができなかった。「どこもお金を貸してくれない。自分でやるしかなかった。牛舎は、資材を買って自分で建てました。機械も中古しか買えないし、壊れれば自分で修理する。何でも自分でやるしかなくて、今では『全部自分でやる』が僕の信条です」。
 こうして母牛1頭からスタートし、アルバイトをしながら牛を増やしていった。


条件に合った経営を模索
 アメリカで見た大規模経営をめざしたが、どうもうまくいかない。そのうち、欧米型の画一的で規模や効率を追求する経営は、沖縄には向かないのではないかと思い始めた。経営分析をすると、「ある程度の頭数までは利益が増えるが、それ以上になると儲からなくなる」ことがわかった。自分はどんな畜産経営をしたいのかを考えた末に方針転換、目標母牛頭数を100頭に定め、地域資源を生かし、家族労働でできる範囲の経営をめざすことにした。


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 :青空パドックのスタンチョン /  :スタンチョンで採食する母牛 


 母牛はスタンチョン(※)で管理。夏には寒冷紗を広げることで、八重山の強い日射しを遮る。冨永さんは、つなぎ飼いとパドックのいいところを組み合わせた管理体系を模索している。

ふだんはパドックで自由にさせ、給餌の際は、牛の頚部を留め具で挟んで固定する


牧草と収穫調製機械へのこだわり

 沖縄で畜産が盛んな理由のひとつに、豊富な牧草があげられる。年5~6回収穫できるなんて、本土の畜産関係者には夢のような話である。その牧草を冨永さんは最大限に利用する。子牛用の牧草は、できるだけ適期に刈り取るよう心がけ、母牛用の適期を過ぎた牧草は、機械で刈り取り後、反転・集草し、ラップで巻いて保管する。空いた土地に積み上げておくため、倉庫はいらない。

 冨永さんは最初、収量や栄養価が高いとされるトランスバーラー(パンゴラグラス)を中心に作ったが、そのうちに牧草には土地に合う、合わないがあることに気づき、品種にこだわらなくなった。3.5haある採草地では、パラグラス、トランスバーラーを中心に、ローズグラス、ギニアグラス等、数種類の牧草を作っている。 


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 :「スーパカー」  /  :牧草の様子をみる冨永さんと大野亜希子普及指導員 


 品種以上に大切なのは、栄養価が一番高いときに収穫し、適期を逃さないことだ。牧草のタンパク含有量は16%にもなるので、買ってくる仔牛のエサ(平均14%)にくらべても、適期に刈れば、むしろタンパク含有量は牧草の方が高い。

 ただし、ロールベーラ等による作業は天候を選ぶ。雨の日が続くと作業ができないうちに適期が過ぎてしまい、資源のロスになる。そこで、冨永さんは「スーパカー」と呼ぶ青刈牧草収穫機を3年前に購入した。天候に係わらず適期に刈り取りができるため、「ロスを少なくすることが経費節減の根本」と考える冨永さんの経営に、欠かせない相棒だ。もちろん、ちょっとした刈り取りや畦畔などではビーバーを使うこともある。「最新の機械が一番良いということでもない。古いもの、古いやり方でも、良い部分は拾うべきです。」
 天候によって作業日程を大幅に変更することも減って、「日常作業も楽になりました」。


規模拡大だけが経営の目標ではない
 大規模化をめざす畜産経営に距離を置く冨永さんは、全国一律な畜産経営の諸事業に疑問を感じている。それぞれ地域に合った経営の仕方があるはずなのに、画一的なモデルしかないのはおかしい。「破綻しない、地域にあったメニューを行政は提示してほしいし、大規模経営に限らず、中小規模の畜産経営にもプラスになる支援をしていただきたい」と思っている。

 経営の最終目標は「自分の技術の追求であり、利益の追求です」と言い切る冨永さん。10年後、20年後にまた冨永牧場を訪ねたらどんな経営に会えるだろうか。
(水越園子 平成21年11月4日取材 協力:沖縄県農林水産部八重山農林水産振興センター農業改良普及課)