提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


有機農業で地域が変わり、若者が農業に希望を抱く

2009年10月05日

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三上新一さん(青森県北津軽郡中泊町 有限会社瑞宝 代表取締役)


 津軽半島のほぼ中央に位置する青森県中泊町。水田が広がるこの地に、第58回全国農業コンクールのグランプリ受賞者、三上新一さん(63)が暮らしている。

 三上さんが、化学肥料や化学農薬を全く使わない「自然農法」による米づくりに初めて挑んだのは、今から45年ほど前。農薬散布により、自身が体調を崩したことがきっかけだった。


5アールの水田から始めた試み

 農家の長男だった三上さんは、中学卒業後の昭和37年に就農。家を継いで農業に携わるのは当然のことだと思っていたが、農薬を使うたびに具合が悪くなるのだけは、どうにかしなければと悩んでいた。「あの時代は、今では使用禁止の農薬も使っていたから、散布した次の日は苦しくなって、3日ぐらい寝込んでいたんです」と、三上さんは明かす。


 そこで、就農した翌年から、農薬を使わない稲作を試みることにした。最初はわずか5aほどの面積だったが、当時は農薬を使わない農業など考えられず、周囲の目は冷ややかだったという。


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 :こうした雑草を1本1本手で抜いていく
 :抜いた雑草は種をこぼさないよう袋の中へ


 除草機を改造したり、堆肥作りに工夫を凝らしたりと、試行錯誤を繰り返すうちに、技術は少しずつ向上。昭和60年には10a当たり480kgの収量を得るまでになり、三上さんの自然農法はやっと軌道に乗り始める。平成2年以降は、水稲の全面積で自然農法を実践している。


大冷害で明らかになった自然農法の真価
200909_mikami_236.jpg 三上さんは、自身の自然農法のポイントは、土づくり、苗づくり、除草の3点だと語る。なかでも土づくりは重要で、収穫後に稲わらと籾殻堆肥をすき込み、春の耕起を3回実施。「畑のような土の状態にして、土壌の力を最大限に引き出します」と説明する。
右 :中央が三上さん。妻の百合子さん(右)は加工と野菜、長女の裕恵さんは経理と発送を担当


 三上さんが取り組む自然農法が、地域の農家から注目されるようになったのは、未曾有の大冷害に見舞われた平成5年。三上さんの水田は、なんと平年並みの収量を確保したのである。「肥料を入れれば、いくらでも太れる。でも、自然農法は自分の力で育つから、冷害にも強かったんですね。人間もそうでしょう?」と三上さんは笑うが、このことを機に、自然農法に関心を持った地域の若手農業者たちが、三上さんのもとへ集まり始める。平成6年には、農家32戸で「中里町自然農法研究会」を設立。三上さんは代表を務め、技術の向上と普及に取り組んでいる。


さらなる夢に向かって走る
 平成16年には法人化した。有限会社瑞宝では現在、水稲23ha、大豆60ha、にんにく2.5haで有機JAS認定を受けている(一部転換期間中含む)。また、農産物加工施設も建設し、有機大豆を使った味噌や豆腐を作っている。冬場に向けて、アネコモチの切り餅や干し餅を作ることも計画中という。


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 :有機大豆と有機米で作った味噌。800g630円
 :酒造会社にも有機米を提供している


 味噌を試食させていただいた。塩気がやわらかく、深みのある味で、野菜につけてそのまま食べるのにぴったりのまろやかさ。「自分が食べたいものを作っています」と三上さんはいうが、安全・安心、しかもおいしいとなれば、消費者は高い関心を寄せるだろう。それを証明するように、三上さんら中里町自然農法研究会で販売する「自然純米」は、5キロで玄米2500円、白米2750円で一般の米と比べると割高ではあるが、多くの固定ファンがいる。


 有機農業による経営の安定化は、地域に雇用の場を提供するだけでなく、若者に、農業への希望を抱かせることにもつながるはずだ。三上さんは「誰もが取り組みやすい有機農業の技術を確立する 」「有機栽培技術をオープンにして、研修希望者を受け入れる」「有機農業を経営の柱とする若手農業者を育てる」ことを実現したいと思っている。


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 :手作業による除草は、地域の高齢者が活躍
 :町内の小学校の副読本にも取り組みが紹介されている


 三上家にも、期待の星がすでにいる。「6年生の孫がよく農業を手伝ってくれるのですが、じいちゃんの後を継ぐって言っています」と笑みをこぼす三上さん。小学校の副読本に三上さんが取り上げられたこともあり、お孫さんにとって三上さんは尊敬する存在だ。
 子どもたちが大人になった時、農業で充分に生計の立つ社会が実現していることを望みつつ、三上さんはそれが叶うような企業経営を目指している。(橋本佑子 平成21年9月10日取材 協力:青森県農林水産部農林水産政策課)


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