提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


牛乳、素材にこだわるアイスクリームづくりで循環型農業を支援したい

2009年07月29日

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藤原傳枝(つたえ)さん(宮崎県都城市 農業生産法人有限会社シーアンドジ)


 都城市は宮崎県の南西部、鹿児島との県境の町。酪農、畜産が盛んで、宮崎の太陽に育まれたフルーツや野菜も豊富だ。
 農業が盛んなこの町で、地元の牧場の絞りたての牛乳や、宮崎、鹿児島をはじめとする九州各地の様々な農産物をアイスクリーム、ソフトクリームなどの乳製品に加工しているのが「有限会社シーアンドジ」である。


ありとあらゆる農産物をアイスクリームに加工
 真夏の太陽が照りつける暑い日、国道に面した小さな工場を訪ねると、4名のスタッフと代表の藤原傳枝さん(62)が、さっそく数々のアイスクリームを出してもてなしてくれた。


C&G007.jpg 「プレーン」のアイスクリームを口にした瞬間「わー、コクがあるのにさっぱりしていますね」と驚きの声が出た。ポンカンや柚子など、柑橘系のアイスクリームも、クリームの甘さがじゃまをせず、素材のさわやかな風味がそのまま活かされている。特筆すべきは後口の良さ。

 「アイスクリームは飲み物がないとたくさん食べられないけれど、これはお茶なしで食べられますね」と感想を述べると「よくそういわれます」と藤原さんは嬉しそうにうなずいた。
右 :プレーン、ポンカン、柚子、古代米など。自社ブランド「Clean&Green」のアイスクリームは20種類


 藤原さんの工場では、オリジナルのアイスクリームを20種類つくっているほか、農家や加工グループ、道の駅などの直売所や行政などからの委託加工を請け負う。現在作っているアイスクリーム、ソフトクリームの数は40種類以上。ベースとなる生乳をはじめ、果物や野菜などアイス、ソフトクリームに混ぜ込む素材のひとつひとつを、農場に出向いて自分の目で確かめる。素材の味を確かめ、産地の気候や風土、土質などを検証し、どんな商品を作りたいかを委託先と話し合いながら、そこにしかないアイスクリームを作るのだ。藤原さんが言った。「このアイスクリームに使っている生乳を絞る牧場を見に行きましょう」


健康な牛の乳だからこそ
 都城市の郊外で40頭の乳牛を飼う新村慶一さんの牧場を訪ねた。新村さんと藤原さんとは、二日に一度、夏場は土日を除く毎日絞りたての生乳をとりにいきながら、牛の状態や乳質のことなど、なんでも話し合う関係だ。木造の牛舎は、夏だというのに吹き抜ける風が心地よく、牛たちは気持ちよさそうに草をはんでいる。

 「新村さんの牛はエサの80%が牧草。そのほとんどを、堆肥を使って、牧場のまわりで作っているんです。循環型の理想的な形です」と藤原さん。「穀物の配合飼料より、牧草を中心に食べている方が牛が健康なんです」と新村さんも続ける。


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 :美味しいアイスクリームは、健康な牛の健康な生乳から
 :生乳をとりに行く際に、新村さんからアイスクリームの注文をもらうことも多い


子ども時代からずっと農業をやってきた
 藤原さんが、かたくななほど素材にこだわり、農業にこだわるのはなぜか?それは自らが農家で生まれ、父親の背中を見て育ったからだ。


 「勉強より仕事をせい」と言われて育った藤原さんは、子どもの頃から、朝3時に起きて牛乳配達をし、乳牛と豚の世話をしてから学校へいった。「後を継ぐつもりで農業高校へ進んだんですが、父親はひとこと、これからは農業では食えない。勤めに出ろと。オレンジ自由化の頃で、父親と一緒にみかんの木を1000本は切り倒しましたから。それで仕方なく、乳業メーカーに就職したのです」

 そうして九州でも有数の乳業メーカーで、藤原さんは23年間、乳製品の製造に携わることとなる。「勤めに出ても、父親とともに働いた経験は、私の体に深く刻まれていました。自分は本物の乳製品を作ることで、農業に関わるのだとずっと思って働いていたんです」


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 :宮崎県産の古代米を使ったアイスクリーム。栄養価も高く、和菓子のような風味でおいしい
 :小さな工場だが、4名のスタッフのチームワークは抜群。手作りの良さが味に出る


乳製品を知り尽くしているからこそ
「食品化学の知識もなく、工場の機械のこともわからない。質問されてもその意味がわからないから、5分の合間があれば、その5分で勉強した」と、メーカー入社当時を振り返る藤原さん。その努力が認められ、30歳の時には全国初のロングライフ牛乳の開発にも関わった。

C&G008.jpg 20年前にメーカーを退職した後は、乳製品の製造指導など様々な仕事をしながら、全国各地を歩き、あらゆる乳製品の製造現場を見て回った。
 その結果わかったのは、どんなにいいフルーツや野菜を使ったアイスクリーム、ソフトクリームも、90%以上は大手メーカーのアイスクリームベースを使っているということだった。
さらには、効率とコストが重視され、香料や着色料が使われていないものを見つけるのも困難だった。


 日向夏、ニガウリ、黒酢、カボチャ、柚子にトマト、藤原さんのアイスクリームは素材に合わせて、アイスクリームベースの配合を変える。そして、香料や着色料も一切使わない。
「安価でおいしいと感じさせる方法はいくらでも知っている。しかしだからこそ、本物をつくるのだ」と藤原さんは言う。糖分には三温糖と乳化オリゴ糖、キトサンオリゴ糖などを使い、ローカロリーで、体にもやさしいアイスクリームを開発した。

 宮崎県椎葉村の山茶、川南町のぶどう、いちご、スイートコーン、鹿児島県福山町の黒酢など、原材料はすべて、産地や生産者のわかるもので、できるだけ有機や無農薬の素材を用いる。製造委託も「有機農産物は特に歓迎」だ。価格のつかないB級品をアイスクリームにして活かす取り組みを、農業者と行ったり、一緒に野菜を育てることもある。


 「まだまだ正直な農業、正直なものづくりでは生計を立てるのは難しいからこそ、生産者を支援し、昔父親とやっていたような、自然や環境に寄り添った循環型の農業を取り戻したい」藤原さんのつくる製品には、そんなメッセージも込められている。


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 :生キャラメルのカットも包装も、手作業で心を込めて
 :新製品の生キャラメル。その味わいは有名ブランドをはるかにしのぐものだった


米の活用にも挑戦。いずれは農業生産も
 新製品の生キャラメルは、スタッフが手作業で2時間をかけて作っている。道の駅都城での売り上げも好調だ。今後はどんな製品を作りたいか尋ねると、「農家だから、やっぱり米は気になる」と藤原さん。古代米のアイスクリームなどを開発してきたが、次は、米を酵素で分解し、液状や粉末にして栄養を高めたものを開発して、新しい加工品をつくりたいと考えている。まずはアイスクリームやソフトクリームのコーンをこの技術で作ろうと開発中だ。


 商品を理解して売ってもらいたいとの思いが強く、販路の開拓も少しずつ地道に行ってきたが、ようやく宮崎県内のほとんどの道の駅で商品展開ができるまでになった。
 「心ある農家の良質な農産物を活かす加工を続けながら、ゆくゆくは自分でも酪農や野菜づくりに取り組みたい。チーズやヨーグルトづくりにも...」藤原さんの挑戦はまだまだ続く。(森千鶴子 平成21年7月14日取材)


農業生産法人 有限会社シーアンドジ
〒885-0012
都城市上川東2丁目13-3-2
TEL: 0986-45-2727


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