提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


黒大豆は遺産! 作り伝えたい地域の宝

2009年07月07日

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北川喜代治さん(兵庫県篠山市)


 尼崎から福知山線に乗り、山間を進むこと小一時間、篠山市の玄関、篠山口駅に着く。「丹波の黒大豆」をはじめ栗、山の芋、イノシシ(ぼたん鍋)などで有名なこの地域は、山に囲まれた豊かな盆地である。

 北川喜代治さん(75)は、黒大豆発祥の地といわれる兵庫県篠山市川北で、黒大豆を作って約50年。定年後に専業農家となり、水稲2ha、黒大豆1.2haと自家野菜を栽培し、川北生産組合の組合長を平成6年の設立以来、務めている。


黒大豆は先祖からの遺産

 今でこそ黒大豆は日本各地で作られるが、「丹波の黒大豆」といえば、名実ともに日本一。篠山の地では、昼夜の温度差と粘土質の土壌が、質の良い黒大豆をつくりだすと言われる。その中でも川北産の「川北黒大豆」は3~400年前から作られ、抜きんでた品質を誇っている。


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 :黒大豆の苗 /  :ハウス内で育苗され、移植を待つ黒大豆の苗


 「もともと干ばつが激しい土地で、水利用の調整のため、田を減らして二割はやむなく畑にしていた。江戸時代、年貢は米なのに、その米を作ることができない。では畑で何を作る? その苦しみの中から出てきたのが、黒大豆。だから、我々にとって、黒大豆は特産品ではなく、ご先祖様からの「遺産」と言うべきもの」と北川さん。川北には、発祥の地であることを示す民話「川北の黒豆」が伝わっている。

 その後の黒大豆生産は、時代の波に揺れた。昭和初期、農村不況のころ、県立農業学校を出た地区出身の青年が、「地域の特産にしよう」と声をかけ、川北黒大豆生産組合を組織したが、戦争中は米作りが優先され、組合は自然消滅。昭和45年から減反が始まったことで、転換作物として、黒大豆は復活した。


手作業が中心の栽培

 稲は100日なのに対し、黒大豆は定植(6月末~7月初)から収穫(11月下旬)までが140日かかるという。この間、北川さんが機械を使うのは、定植(半自動移植機)、土寄せ(小型トラクタ+培土機)と、乾燥の最終日(8~12時間の最終水分調節)のみ。「黒大豆は機械化にはなじまない作物。300kgとれていた頃もあったけれど、今の輪作体系では、売り物になるのは反収150~200kgがいいところ」。作り手が満足できる黒大豆作りは、技術が進んだはずの今、逆にむつかしくなっているのだろうか。


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 :黒大豆の種子。発芽率が安定しないため、川北さんは必要量の2倍を確保する
 :播種前に畦立てされた、篠山特有の畦


 黒大豆の発芽率は7~8割と低いので、予備の種を用意して、育苗(6月中旬)も多めにおこなう。そして水田転換畑(3年に一回の輪作)を利用し、定植前にすでに畦立てを施した畦に苗を定植するのが、篠山の特徴だ。地域全体では直播が増えているが、発芽率の悪さや鳥害のため、2割ほどの普及という。
 土作りも念入りにおこなう。白大豆に比べ、黒大豆は肥料を多く必要とする。地域に畜産農家がないため、北川さんは、12kmほど離れた今田(こんだ)の畜産農家から堆肥を手に入れている。


 追肥(6月末と7月末~8月初の2回)、土入れ(培土)(7月末までに2~3回)、防除(お盆~9月中旬)のあと迎える収穫(11月下旬)は手作業、乾燥は稲木干しの天日乾燥というこだわりだ。


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収穫に用いる長さ80cmの太枝切りハサミ


 収穫は、30aを3、4人で一日がかりのペース。1m20cmもの高さに育った苗を、ハサミで一本一本切っていく。手間のかかる収穫を汎用コンバインでおこなう地区もあるが、川北では基本的に手作業が中心だ。ハサミで切って束ね、稲木に干していく。晴天10日、盆地特有の霧が朝夕にかかり、実に味がのっていく。その後脱粒、選粒(12月中旬)を経て消費者の手に渡り、ふっくらと煮上がった黒大豆が、正月の食卓に並ぶのである。


耕作放棄地がない町
 川北ブランドを支えていく担い手は、どのような状況なのだろうか。「基本的に、栽培は農家ごとにおこなうので、共同作業はありません。たとえば防除に無人ヘリを導入して、共同作業ができればいいけれど、残留農薬やドリフトの問題があってむつかしい。また、地区には若い後継者がいません。川北生産組合員の平均年齢は70歳、栽培面積は15haで横ばいです。次の世代に伝統を引き継いでいきたいが、今が境目でしょう」と北川さんは語る。


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 :3日前に定植した黒大豆の苗。畝間は160cm 
 :発芽の様子を確認する北川さん


 川北黒大豆の明日は、どうやら楽観できない。だが、車窓からみた篠山の地には、耕作放棄地がなかなか見あたらない。作れなくなった圃場があると誰かが代わって作付けするので、放棄地は少ないのだという。

 黒大豆の枝豆も、相変わらず人気が高い。なによりブランドは強いものだ。家業がおざなりとなり、個人の気ままが通る時代を嘆く北川さんに返す言葉はみつからないが、これからは個人の努力だけではなく、地域の力をうまく活かしていく時代だ。先人の努力によって伝えられてきた黒大豆を、新しい知恵と力で次の世代へ、と切に願う。(水越園子 平成21年6月25日取材 協力 :(株)北近畿クボタ、北近畿クボタ篠山営業所)


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