提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


有機の里づくりにかけた30年、今も熱く伝える理念と哲学

2009年03月26日

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小林芳正さん(福島県喜多方市)


 会津盆地の最北端に位置する喜多方市熱塩加納町(旧熱塩加納村)。薄桃色の可憐な花・ひめさゆりの里であり、有機無・低農薬栽培のさゆり米の産地として知られる地域である。熱塩加納地区で有機農業が営まれるようになったのは、30年前のこと。その立役者が、元農協職員で営農指導に携わっていた小林芳正さん(74)である。


食べ物は命、農業は命の産業
 日本の農業は1960年代から70年代にかけて、農薬や化学肥料の使用や機械化の推進などにより、生産性を飛躍的に向上させた。しかしその一方で、農薬による環境問題や人体への被害も深刻化していった。環境汚染の恐ろしい実態を明らかにした『複合汚染』(有吉佐和子著)が出版されたのは、ちょうどその頃。本を読んだ小林さんは「このままではいけない」と強く思ったという。


kitakata_kobayashi_0134.jpg 農協に勤めていたことから、村で年間に散布される農薬の量を把握していた小林さんは、経済優先で農薬や化学肥料に頼る近代農業に危機感を募らせていた。

 「食べ物は、人間にとって命。農業は命の産業です。では、どんな農業であるべきか。生産者の意識改革をしなければと思いました」
 こうして始まったのが、集落単位での勉強会。点ではなく、面の活動にしていくため、小林さんは38の集落をくまなく回り、有機農業の意義を繰り返し説いた。農家とともに汗を流し、苦しみも喜びもともに味わってきた小林さんの言うことならやってみようじゃないかと、みんなが耳を傾けてくれたという。
右 :農協職員だった小林さん。精力的に営農指導をしていた


 無農薬、低農薬栽培は気候の影響を大きく受けるため、不作に見舞われた年もあった。しかし、地域ぐるみの取り組みは、どんな困難に遭遇しても決して揺らぐことのない意志に支えられていた。熱意が結実して誕生した「さゆり米」は全国から注目されるブランド米となり、実践農家もどんどん増えているという。
 有機農業の最大の課題は、雑草防除。今では実践農家の8割が紙マルチを利用している。また、試行錯誤しながら栽培技術を高めていった結果、天候が悪くない限り、慣行栽培と変わらない収量を得られるようになった。


地域ぐるみで構築した学校給食の取り組み
 平成元年5月から、旧熱塩加納村の小学校(熱塩小・加納小)では、学校給食にさゆり米を採用している。発端は、熱塩小のPTAからの要望だった。小林さんがはたらきかけ、農家の心を動かした有機農業運動は、地域住民にも認知され、村の誇りになっていた。
 この時も、小林さんは県教育委員会との折衝に当たるなど奔走した。その甲斐あって特例が認められ、さゆり米による完全米飯給食がスタート。やがて、野菜も村内で穫れた無農薬有機栽培のものを使いたいと、「まごころ野菜供給者の会」が組織された。

 現在、会員は小林さんを含め31名。それぞれに供給予定表を出してもらい、それをもとに献立を作成する。限られた地区で栽培された野菜となれば、種類も少なくなってしまうのではないかと思いきや、多品目の野菜栽培を手がけている農家が多く、全く支障はないという。小林さんも50種類の野菜を育てている。

 また、子どもたちには誰が提供した野菜なのか分かるように、栄養士が生産者情報を書き込んだカードを作成。食材を通じ、それぞれが心を通わせる工夫もなされている。


次代へ伝える農業の楽しさ、大切さ
 平成19年度から国の構造改革特区で、喜多方市内の小学校に「農業科」が導入された。小林さんは熱塩小で農業を指導する支援員も務めている。


kitakata_kobayashi_0120.jpg 10aの田んぼ、13aの畑で小林さんが子どもたちに実践させているのは、農薬や化学肥料を一切使用しない有機栽培。栽培技術を伝えるだけにとどまらず、命の尊さ、自然の恵みに感謝することなども知ってほしいと小林さんは考えている。


 子どもたちが丹精込めて育てた米や野菜は、市の農産物品評会や、米食味分析鑑定コンクールで高い評価を得た。また、小林さんが育成しているさゆり長カボチャ「かんどう」を子どもたちが育てて家に持ち帰ったところ、家族が食べてみて、ホクホクしているのになめらかな食感だと大反響。子どもたちは自分たちの活動に自信を持ち、家族は農業科の取り組みに関心を寄せる。農業科は子どもたちの学びの場を越え、地域住民それぞれに農業の大切さ、おもしろさを知らせる役割も担っている。
左 :農業科の支援員を務めた小林さんに、子どもたちから御礼の寄せ書き


 小林さんは長年にわたり「兼業でもいいから、みんなが農業を営んでいることが大事」と訴え続けている。小林さんの長男も、平日は勤めに出ているが、土日は農業をしているという。中核農家や集落営農といった受け皿を作らずとも、農業は存続できると確信している。

 有機農業の勉強をする会津万農塾の塾長をはじめ、農業や農産物に関わるさまざまな組織の活動に携わっている小林さん。講演の依頼も多く、各地で有機農業の理念と哲学を説いている。農業に関わり57年、注ぐ情熱は衰えを知らない。(橋本佑子 平成21年3月10日取材)


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 :カメラが趣味の小林さん。腕前はプロ級
 :このチラシの写真撮影も小林さん。モデルはお孫さん


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