提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


アイガモ水稲同時稲作で完全無農薬有機農業を行う

2009年02月26日

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古野隆雄さん(福岡県桂川町・古野農場)


 アイガモを水稲に放ち、雑草を防除したり害虫を駆除したりすることで、無農薬栽培が可能になるアイガモ農法。近年のアイガモ農法を語る上で欠かせない人物が福岡県にいる。「アイガモ水稲同時作」を実践する、古野隆雄さん(58)だ。


"一鳥万宝"の農業
aigamofuruno_01.jpg 古くからアヒルやカモを水田に放す農法はあった。しかし、農薬の開発や効率化によって、近代では、アイガモ農法を実践する農家は少なくなっていた。そうした時代に逆行するかのように、古野さんは約30年前、無農薬有機栽培に踏み切った。農薬全盛の時代になぜ無農薬なのか。


 「1つは学生時代に、新聞で有吉佐和子さんの連載を読み、有機農法を知ったこと。そして、もう1つは大学を卒業するときに恩師が、社会に出る私たちに『仕事の役割を考えなさい』と言われたこと。農薬を使えば、農家も消費者にも影響がある。周りには『できないだろう』と言われたが、一部を無農薬に切り替えた」。

 結果は、惨敗。しかし、土作りを学ぶことで少しずつできるようになった。「無農薬を始めて10年は、手作業で雑草の防除にあたっていた。ただ、朝4時から夜9時まで草取りという日もあり、重労働を極めた。困っていたときに出合ったのがアイガモだった」と当時を振り返る。


aigamofuruno_1306.jpg 富山県のアイガモ農家から話を聞き、すぐにカモを購入。カモを放すと、雑草を防除したり、害虫を食べたりするなどの効果が得られた。それだけではない。アイガモから出る糞が栄養分となる。水田の中を動き回ることにより、その栄養分が満遍なくいきわたる。驚きの効果だった。

 しかし、カモを放したものの、翌朝には、犬によってカモがかみ殺されてしまう。水田の周りの柵を高くしても、その柵に網をかけても、思うようにいかない。毎日見張りをしては、残念な結果を知る現実。どうにもならないと困り果てた末に出合ったのが、電気柵だった。サトイモを栽培していた親戚がイノシシよけに電気柵を設置していたのが、ヒントになった。その効果はてきめん。こうして、「アイガモ水稲同時作」を軌道に乗せていった。


 古野さんは、アイガモ農法をあえて「アイガモ水稲同時作」と言っている。「カモを育てる畜産の部分と、稲を作ることが同時にできる。言ってみれば、同じ土地でご飯とおかずができる。世界の人たちが食べていくための術になると思う」。古野さんは、その意味をこう説明した。畜産と稲作が同時にできる。まさに"一鳥万宝"の農業というわけだ。


有機農業を省力化

 有機農業は、安全でおいしいというメリットとは裏腹に、「手間がかかる」「作業時間が長い」といったイメージがある。しかし、これからは「手間のかからない」有機農業が新しいビジネスマーケットになるのではないかと、古野さんは考えている。


aigamofuruno_1308.jpg 「エコロジカルでエコノミカル」。その省力化のキーワードになるのが、「乾田直播き」による生産だ。水のない田に種を播き、同時に雑草を取り除いていく。4列同時に雑草の芽を除く機械も開発中だ。数日後、水を入れると同時にカモを放す。乾田時の機械による除草と湿水時のカモによる除草の2段階が除草効率を高めてくれる。

 また、アイガモ農法を進めていく中で重要な作業である電気柵の設置。これまでは、田植え後2週間以内に張っていたが、年中張りっぱなしにした。「これまで電気柵を張るのは、期間限定で作業も大変だった。張りっぱなしにすることで手間も省ける」。

 このような省力化があるからこそ、田4.3ha、野菜1haを2人で経営することができる。「農業をやっていく上で、人力、適度な機械化、体系全体を見直す―この三要素が大事だと考えている。現在は、主に体系全体を見直す省力化である」と古野さん。


 省力化をしていくことで、新たなチャレンジもできるようになった。昨年、(株)クボタのクボタeプロジェクトを活用して、30aの大豆を栽培。できた大豆を使って、みそ作りも行った。「耕作放棄田は、先祖が残してくれた宝物。それをクボタが支援してよみがえらせてくれるのはありがたいこと。今後は水田に戻していきたい」。


日本の技術をアジアへ
 失敗は成功のもと。古野さんはこの言葉のように、多くの失敗から現在の形を作っていった。電気柵で囲ったのも、失敗から生まれた産物だ。そして今、こうして得られた技術を、少しでも多くの人に伝えていきたいと考えている。


aigamofuruno_02.jpg なぜ交流をするのか? 「アイガモ水稲同時作は、世界共通でできる技術だと思う。日本だけではなく、中国、フィリピンなどアジア全体でできるかどうか、どの環境でもできるか試したい」。1992年からアジア各地に赴き、この技術を現地の人に伝えている。この2月も中国、ベトナム、韓国に訪問する予定だ。


 こうした数々の取り組みの原点には、「仕事の楽しさ」がある。「アイガモと出合って、心から農業が楽しいと思えた。これからも楽しい『百姓』をしていきたいと思っている」。
 技術だけではなく、農業の楽しさ、面白さも多くの人に伝わっているのだろう。そして、その笑顔が、おいしい米や野菜の味の素になっている。(杉本実季 2009年2月5日取材)

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