提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


伝統のしめ縄作りを地域活性化に生かそう

2008年12月15日

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高橋文雄さん(千葉県香取市)


 新しい年を迎えるにあたって神社や神棚に備える、しめ縄。農家の手仕事として引き継がれてきた伝統文化だが、農業人口の減少や農村環境の変化とともに、作り手が減っている。

 毎年10月から12月いっぱい、「しめ縄作り」に追われる高橋文雄さん(56)を、千葉県香取市貝塚地区に訪ねた。


しめ縄作りのカギは下準備にあり
 「しめ縄は、下準備に手間がかかる」と高橋さん。

 しめ縄の材料は、出穂前の青々とした稲を刈り取った「わら」である。貝塚地区では、お米を収穫しないことから「実とらず」と呼んでいる。田植えは通常通り連休の頃だが、穂がでる前、7月20日過ぎから遅くても8月10日までに、刈り取りを済ませる。丈は1m20~30cmになる。高橋さんは、この「実とらず」を20a作っている。本業はコシヒカリ、フサコガネを3ha作る稲作農家である。


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 :1週間分の「実とらず」が山積みになっている/  :「実とらず」をプレスする
  

 しめ縄用の稲作りは、わらの長さ、固さ(しなやかさ)、色が命だ。当然、食用の稲づくりに求められる品質とは違う。「密植しないと丈がでない、でも(密植)しすぎると病気が発生したり色が悪くなる。また、疎植だとわらが固くなってしまう。兼ね合いがむつかしい」と高橋さん。

 「実とらず」は、刈り取り後すぐに乾燥することで、美しい色となる。夏の暑い盛りは特に、刈り取ってそのまま置くと、蒸れて退色してしまう。高橋さんは、イグサ用の平型乾燥機(3坪用)を使って「実とらず」を乾かす。真夏の暑いとき、灯油を焚いての屋内作業は、「全身汗びっしょり」になる、過酷な重労働だ。
 乾燥に続いて色の悪いわらを除き、湿けないように保管する。


 芯わらの確保も大切だ。芯わらの材料になるのは、お米を収穫した後の稲わらである。太さが必要なしめ縄には、この芯わらを多く利用する。

 完全に乾かす必要があるので、コンバインで稲刈りをした後の圃場に広げ、裏返して水分を飛ばす。好天が続けばよいが、天気が悪くなると、ハウスに運んで立てて乾かす手間が増える。また、作業の機械化はむつかしく、ほぼ手作業で行うので、今後も量を増やすのはむつかしいということだ。


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 :芯わら/  :芯わらに「実とらず」を巻き付ける、妻・貴美子さん


しめ縄を作り出す魔法の手
 しめ縄のサイズは普通1~2種類だが、高橋さんは、「並」「中」「太」の太さに長さ3尺~6尺もの等があり、9種類のしめ縄や神社用しめ縄を作り分けている。

 作業の様子を見せていただく。
 「実とらず」に水分を与えながら、繰り返しプレスして、しなやかにする。根元を足で押さえて、芯を隠すように「実とらず」を巻き付け、2本を撚って(よって)いく。続いて残りの1本を撚ったものに入れていく。長さが足りなくなると、途中で「実とらず」を足していくが、見た目には全くわからない。完成品を見ると2本だけでよっているようにも見えるが、実は3本を編んでいる。

 見とれている間に、しめ縄ができていく。リズミカルに動く両手と手の甲から縄が紡ぎ出される様子は、簡単そうにみえる。「やってごらん」と言われ、挑戦してみたが、全くなうことができない。改めて、高橋さんの確かな技術に感心した。
 年末まで3カ月にわたり、ご夫婦二人で毎日、夜遅くまで作業が続くそうだ。

 高橋さんがしめ縄作りを始めたのは、18歳の時だったという。直後に米の生産調整が始まった。昭和46、7年頃のことで、青刈りが行われ、集落の半分にあたる40戸ほどが、内職としてしめ縄作りをしていたという。


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 :しめ縄を作る /  :しめ縄(左:中太・21cm 中央:中太20cm 右:並21cm)"


 時は移り、現在、貝塚地区でしめ縄を作るのは、80歳超の高齢者を除くと、高橋さんを含めてわずか3戸になった。「(しめ縄作りを)始めたのは、稲作をしながらできるから。教わるといっても、見て覚えるしかなかった」。口数の少ない高橋さんが、ポツリ、ポツリとつぶやく。しめ縄作りは、全く職人の世界である。


集落活性化のために
 貝塚地区には、交流施設「まほろばの里」がある。この地区は谷津合いの集落で、湿田が多いため機械作業がむつかしく、農地の遊休化が進んでいる。「農地・水・環境保全向上対策」に取り組む「貝塚地域資源環境を守る会」が今年、 (株)クボタのクボタeプロジェクトを活用して、57aを復田化した(※)。来年は、一部を使って隣接する南小学校の児童が田植え体験をする予定だ。


 この復田で「実とらず」を栽培し、交流施設内に「しめなわ工房」を作ってしめ縄作り体験教室を開いたらどうか、隣接地域にある県の青少年施設で行われている体験学習のプログラムとしても良いのでは、22年度に近隣に開業予定の道の駅での販売はどうか、などの声もある。「いいですね、その話」と水を向けると、高橋さんは黙って微笑んでいた。高橋さんの技が、地域のためにも生きると良いなと思った。(水越園子 2008年11月27日取材 協力:千葉県香取農林振興センター振興普及部改良普及課)


クボタeプロジェクトによる復田化の様子はこちらから


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