提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


地域の資源と人材を活用し、産直ビジネスを盛り上げる

2008年11月19日

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小野知子さん(左)、三浦静子さん(岩手県二戸市・キッチンガーデン利用組合)


 岩手県北部に位置する二戸市浄法寺町は、人口約5800人の小さな町。この町に、特色ある取り組みで実績を伸ばしている産直施設がある。町の中心部から3kmほど離れた県道沿いにある「キッチンガーデン」。ここで経営手腕を発揮しているのは、農作業の担い手であり、家庭を切り盛りする女性たちだ。


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 :キッチンガーデン外観 /  :目の前を走る県道二戸安代線


 岩手県の産直は、いまや100億円産業に成長し、販売競争が激化している。安全・安心な農産物を並べるだけでは生き残れない厳しい状況の中、どのようにして事業を成功させるか。副組合長の小野知子さん(58)、理事の三浦静子さん(58)の話から、秘策を探ってみた。


オリジナルの加工品で差別化
 売場を埋め尽くしているのは、とれたての農産物に加え、「きゃばもち」「豆しとぎ」「かますもち」など、この地域で昔から食べられてきた郷土菓子や、「雑穀入りクッキー」「ワッフル」など、組合員自らが商品化した加工品の数々。キッチンガーデンでは他の産直施設との差別化を図るため、オリジナル商品の開発に力を入れている。


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 :きゃばもちなどの加工品 /  :特産の雑穀を使ったせんべい


 オープンは平成8年5月。店舗を建設するにあたり、組合員たちが強く要望したのは、菓子と麺が製造できる加工室の併設だった。「私たちは、地域の食文化を次の世代へ伝えていく役割も担っていますから」と、三浦さんはその理由を説明する。


 浄法寺町には岩手県知事が認定する「食の匠」が4人いて、全員がここの組合員だ。小野さんは「かますもち」、三浦さんは「手打ちそば」で「食の匠」に認定されている。キッチンガーデンでは、導入した設備と、経験豊富な人材をうまく活用し、商品開発や実演販売、伝統食づくりなどの体験受け入れ、組合員を対象とした技術研修など、積極的に行なっている。また、加工室を利用して商品づくりの技術を身につけた組合員が、個人で加工工房を建設し、起業活動を始める事例も誕生。現在までに2工房、1レストランが事業をスタートさせている。

 経営と地域の人材育成。ともに順調に進んでいるが、「私たちだけの力では、ここまでできないと思います。二戸農業改良普及センターが全面的に協力してくれているおかげです」と、小野さんと三浦さんは口を揃える。


自信がついて、家族も円満に
 かつて、農村で暮らし、農作業の中心となって働いていた女性たちのほとんどが、自分名義の預金口座を持っていなかった。この地域の女性たちも長い間、「自分の労働を評価してもらいたい」という思いを抱えていたという。産直施設の運営は、その願いを叶えてくれた。

 キッチンガーデンの組合員は、40人中37人が女性。各自の売上から手数料として10%を差し引いた金額を、毎週口座に振り込んでいる。これは、組合員自身の意欲向上のみならず、家族からもその働きが認められたり、旅行や趣味など余暇の過ごし方に変化をもたらしたりと、家庭内の円満という思いがけない効果も生み出している。


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 :店舗に併設されている加工室 /  :POSレジ


 さらなる売上アップを目指し、平成14年にはPOSシステムを導入。品目別・組合員別の販売状況がわかるようにしたほか、年間の売上上位組合員や、前年度からの売上が大きく増えた組合員を表彰するなど、一人ひとりの意識を高める工夫もしている。


ビジネスの緊張感をいつも胸に
 オープン以来、売上は伸び続けているが、場所柄、来店客を待ち構えるだけでは限界があるため、地域外販売にも力を注いでいる。「キッチンおまかせ宅配」は年会費1万円で、年4回宅配発送。関東方面を中心とした取引は、浄法寺町の農産物の新鮮さや安さ、郷土食の豊かさを印象づける絶好の機会でもある。

 また、町に地産地消給食を呼びかけ、保育所や学校に食材供給したり、隣接する一戸町の産直とともに「二戸地方フレッシュ漬け物研究会」を結成して研修を行なったりと、新たな展開にも挑んでいる。「二戸地方のおみやげとして推奨されるような新商品をつくりたい」と、小野さんは期待を込めて語る。


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 :店内に貼られた手書きの表示 /  :キッチンガーデン店内


 組合員の年齢層は40代前半から70代までと幅広く、それぞれにさまざまな考え方を持っているが、全員参加の定例会を毎月行ない、提案や要望を出し合いながら、一番いいと思われるやり方を模索している。そこに、甘えや妥協は一切ない。「農家の母ちゃんだからっていう言いわけは、ビジネスの世界には通用しません。商品の取り扱いや表示方法など、売るためには守らなければならない義務がある。たった一人が約束を破れば、それが40人全員に降りかかりますから、自然と厳しくなりますよね」と三浦さん。この緊張感こそが、新たな発想を生み、行動を起こす源になっている。(橋本佑子 平成20年11月4日取材  協力:岩手県二戸農業改良普及センター)