提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


60種類の作物を生産し、消費者との交流を進める若手生産者

2008年10月31日

onikawa_1175.jpg
鬼川直也さん(宮崎県えびの市・鬼が島)


 自らを「百姓」と言う鬼川直也さん(35)。「百姓は、百種類の能力があると考えている。今、60種類作っているから、残りの40は、大工仕事などの技術を入れて100にしたい。何でもできる、作れるというのが『百姓』の定義だと思うから。そんな百姓になりたい」。そう言って名刺を手渡してくれた。

 現在、田2.5ha、畑1.3haで多品目・60種類の作物を生産している。米だけでもヒノヒカリ、赤米など4種類。加えて、ハクサイ、ホウレンソウ、トマト...「思い浮かんだ野菜は、ほとんど作っている」というほどだ。それを家族だけで栽培している。「現代の農家じゃないみたいですよね。でもやっていく中で、自分にどれが合うか分かるんですよ」と笑う。


番組制作の裏方から農業へ
 農業を始めたのは5年前。それまでは、市内の番組制作プロダクションで音声の仕事をしていたという、異色の経歴の持ち主だ。
 番組の制作で県内のある農家を訪ねたときのことだ。「『今から農業を始めても米は30回しか作れない。よか米は作れん』と言われてはっとしました」。


onikawa_1174.jpg 一念発起し、祖父、父らが丹精こめて育てていた圃場に入ることに。当時は、約20種類を栽培。それから年々、品目を増やしていった。「今後は、時代が何を求めているか、自分にどれが合うかを見てしぼっていくのではないか」というが、鬼川さんの頭には、60種類の生産スケジュールが入っている。

 「もちろん、帳面に記録しているのですが、それでも毎年、違った失敗をします。圃場に入りたくても雨で入れないときもある。適期よりも遅く植えた方がよくできることもある。本当によくわからんです。まだまだですけれど、勉強会に参加したり、じいちゃんに教わったりしながら日々勉強しています」。
右 :一家総出で稲刈り


「圃場を見てください」
 鬼川さんが経営する「鬼が島」の主な取引先は、個人、つまり消費者だ。「となりの人に、できた米を食べてもらって。『おいしい』と次には買ってくれた」。その評判が口コミで広がり、現在では多くの消費者が直接、鬼が島にやってくる。

 「自分たちが作った野菜を『おいしい』と食べてくれる。顔が見えるし、その人のために作ろうって思うから、手は抜けない」と話す通り、生産方法にこだわる。農薬、化学肥料は極力使わない。
 豆類を中心に、種を自家採取している。エンドウ、ソラマメは3年目に入る。「気候、地域に合ってくるのか、年々、いい種が取れる」と大きな成果を実感している。乾燥、選抜、保存と、種の管理は非常に手間がいるが、そうは言っていられない。鬼川さんの師匠ともいえる祖父の存在が大きいからだ。「雑草が生えると『見苦しい』といって抜きにいく、大正生まれのじいちゃんの粘りと根性に負ける」。


 病気や害虫が発生し、やむなく農薬を散布したときには、買いに来た客にきちんと説明する。「どうして散布したのか、いつ散布したのかをきちんと説明すれば、お客さんも分かってくれる。お客さんには『野菜だけでなく圃場も見てください』って言うんです」。

 こうした真摯な姿勢が多くのリピーターを生んでいる。ことしの新米は、すべて予約で埋まった。「ありがたいことに、要望をいただいてもお断りせざるをえない状況です。面積を増やして要望に応えていきたい」


生産者と消費者の交流を促進
 消費者とのつながりを大事にしている鬼川さんが今、積極的に進めているのがグリーンツーリズムだ。ことし8月には、隣接する小林市の小学生5人を農業体験に受け入れた。ブロッコリーやカリフラワーの種まきを体験してもらったが、「あまり農業を体験していないようだった」という。「雑草を取るとき、トラクターであぜ際を耕運するときなど、農業には心地よい集中力が必要なんです。勉強とは違う、この集中力を多くの子どもたちに味わってもらいたい」。


onikawa_0799.jpg  onikawa_0820.jpg
小学生の農業体験(ブロッコリー、カリフラワーの種まき)


 10月には、「大人の農業体験」として6人を受け入れ、サトイモ掘りを体験してもらった。遠くは東京からの参加もあったという。「目標を設定して作業してもらったのですが、非常に集中して厳しい目標を達成していた」とうれしそうに話す。「空気がきれいだとか、作業方法など、普段、私が当たり前だと思っていることに感動してもらえる。それが生産者にとっても、いい刺激になる」。また、「来てくれた人たちに伝えたいのは、消費者の手に届くまで『遠い』ということ。何カ月も歳月をかけて、育てている。その『遠さ』を分かってほしい」とグリーンツーリズムの思いにも触れる。


 将来的には、消費者と生産者が交流を深めることのできる場を作りたいと考えている。農家民宿、農家レストラン、アイデアは尽きない。「物を売って『おいしかった』と言ってもらえる。そんな顔の見える関係を、これからも作っていきたい」。鬼川さん家族の作る米や野菜が、消費者との交流の架け橋になっているに違いない。(杉本実季 平成20年10月20日取材)