提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


田んぼは琵琶湖のさかなを育てるゆりかご ~環境に配慮しながら大規模な米作りを実践~

2007年06月14日

前田和宏さん(滋賀県長浜市)


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 滋賀県長浜市(旧びわ町)上八木町で水稲30ha、麦10ha、麦あと大豆10haを作る前田和宏さん(40)。この地域は琵琶湖の東岸に広がる平野部で、風通しが良く、いもち病がでにくい稲作の適地だ。和宏さんは、数少ない若手専業農家として、地域の期待と信頼が厚い。


 県立短大農業部を卒業後の2年間、アメリカ・アイダホ州のじゃがいも農家で農業研修を受けた。1区画が64haという規模の大きさに圧倒された。「帰国したら日本の圃場サイズがあまりに小さくてね。なかなか慣れませんでした」と和宏さん。

 平成元年、22歳で帰国後就農。以来、父豊松さん、母公子さん、妻玲子さんとともに、家族経営で経営面積を広げてきた。


maeda_026.jpg 就農当時は約12ha(うち自作地2.4ha)だったが、「ずっと米を作ってくれる人にやってもらいたい」と次々に声がかかった。現在の耕作地は、近隣の10集落にわたって半径約2kmに収まる。「増やしたいと思ったときに声がかかったので、タイミングが良かったんです。比較的近いところに圃場が集まりましたね。」と、和宏さんは運の良さを強調するが、それは、豊松さんが地域で築いてきた信頼関係と、農業に打ち込む和宏さんの真摯な姿勢の賜物だろう。

 米の品種はコシヒカリが主力で、転作あとにはキヌヒカリ、一部日本晴。滋賀県の新品種アキノウタ(秋の詩)、シガハブタエモチ(滋賀羽二重糯)なども作る。和宏さんは、経営面積の約半分で、滋賀県から「環境こだわり米」の認証をうけている。
右 :環境こだわり農産物栽培ほ場の表示


 滋賀県では、平成15年3月に「環境こだわり農業推進条例」(※)を制定している。この条例下で、化学合成農薬と化学肥料の使用量を通常の5割以下に削減し、琵琶湖と周辺環境への負荷を削減する技術で栽培された農産物が、「環境こだわり農産物」だ。


より安全で安心な農産物を消費者に供給するとともに、環境と調和のとれた農業生産の確保を図り、滋賀県農業の健全な発展と琵琶湖等の環境保全を進めることを謳っている

 
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 :さかなのゆりかご田。左手前はさかなを保護する屋根代わりのよしず
 :「ゆりかご水田圃場」の表示


 和宏さんは、さらに「ゆりかご米」「有機JAS認証米」を、それぞれ60a、約86a作っている。
 「ゆりかご米」は、さかなの「ゆりかご」として利用した田んぼからとれた米だ。


 琵琶湖では、ブラックバスなどが増えて、在来種のさかなが劇的に減ってしまった。そこで、琵琶湖周辺の田んぼにフナの親魚を放して卵を産ませ、大きく育った稚魚を、排水路から琵琶湖にもどす試みが行われている。

 湖に比べると、田んぼには天敵が少なく、栄養状態も良いので、稚魚の生存率が高い。和宏さんたちは、集落の子供たちに声をかけて、「さかなをつかまえさせ、バケツですくって湖にもどす」イベントをおこなっている。子供たちは大喜びで田んぼに入り、さかなを追いかけるのだそうだ。


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 :環境こだわり農産物栽培ほ場の表示 /  :琵琶湖近くにある産直「びわ」


 付加価値のついたお米だから、直接販売で大人気では? と尋ねると、「家族経営では、そこまでなかなか手が回りません。(出荷先は)JAに7割、商系が1割、その他が地主さんと直売所「びわ」での一般売りです」。もっとも、直売所では好評で、昨年度産は早々に売り切れてしまったとか。

 今年も1カ月ほどかけて田植えをした。苗は全量自家育苗だ。一部圃場では昨年から疎植を試みている。「収量が落ちなければ(省コスト、省力になるので)興味がありますね。普及センターが調査やデータ分析をしてくれるので心強いです」。


 「今は先の展望は描きにくい時代。20年前には20ha規模を目標にしていたんですが、米価が下がって面積を増やさざるを得なかった面もあります。でも、現状では今の規模が限度かな。」


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産直「びわ」店内()と、産直「びわ」の米売り場(


 小学生の息子さん3人の下に、待望のお嬢さんが昨年生まれ、お子さんは4人。次代を担う子供たちには、良い環境を残してあげたいと思っている。「環境に配慮した米作りと、経営としてなりたつ農業との両立を目ざします。今は後継者が育ちにくい状況だけれども、子供たちが魅力と思える農業をやっていきたいですね。」と語ってくれた和宏さんは、もはや後継者ではなく、地域の明日を担うたのもしい農業経営者である。
(水越園子 2007年6月4日取材 協力:滋賀県湖北地域振興局環境農政部農産普及課)

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