提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ゼロからの出発、新しい発想で 「新規就農」「これからの農業」を切り開く

2007年04月02日

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木之内均さん(熊本県南阿蘇村 (有)木之内農園)


動物好きの子供から新規就農へ
 熊本県南阿蘇村で(有)木之内農園を経営する木之内均さん(45)。木之内農園グループの総耕作面積は16haで、イチゴ狩りをはじめとする観光農園(イチゴ180a)、米4.3ha、施設・露地野菜、ジャムやフルーツワイン、餅等の農産物加工・流通、たまご拾い牧場、田植え等の体験農園のほか、新規参入者を対象に研修もおこなっている。


 神奈川県で生まれ東京郊外のサラリーマン家庭に育った木之内さんは、幼い頃から動物や動物のエサ作りのための畑作りが好きな、大都市には珍しいタイプの子供だった。農業を志して熊本県内の大学農学部に進学、親元を離れて農業漬けの生活を送った。在学中のいろいろな出会いや体験、南米留学をへて昭和60年3月、大学卒業とともに県内、旧長陽村で就農を志した。


いくつも超えた立ちはだかる壁
 学生時代は農家とよい関係だったが、職業として農業を始めようと思ったとたん、後継者との違いを思い知らされた。土地も住む家もない。技術も、資本も、信用もない。一年目の売上はわずか80万円だったという。三年目に村内初の施設メロンに取り組んだときは、制度資金を借りるのにたいへん苦労した。当時、農業の後継者不足が声高に言われ始めていたが、木之内さんには「農業を始めたい者に門戸を閉ざしておいて、なにが後継者不足だ」。それでも、励ましてくれる人々に助けられた。松田喜一氏の流れを汲む「泗水塾」で、農業に取り組む姿勢、農家の経営や市場について、農家として知るべき、考えるべき多くのことを学んだ。当時の農業では珍しかった企画やマーケティングの必要性も知った。


 平成元年にはメロンから当時阿蘇では珍しかったイチゴに転換。順調に売上を伸ばした。ある時収穫調製時の人手不足から「イチゴ狩り」の看板を出してみたところ、徐々に顧客がつくようになった。大粒、小粒それぞれにニーズがあること、そしてイチゴの実としての価値のほかに、イチゴ摘み体験という価値もある、ということに目が開かされた。観光をなりわいにできないか・・・こうして観光イチゴ狩り園がスタートした。また、通常春先からの開園を12月からはじめる等、「ほかと違ったことをする」ことでマスコミにも取りあげられる、というようにお金をかけない宣伝も上手だ。


 熊本県農業コンクール新人王農林大臣賞を平成3年に受賞したことで、農業者として周囲に認められるようになった。本格的に観光農園「阿蘇いちご畑」を経営し、ジャムや菓子などの加工販売も開始した。新規参入者の受入も本格的にはじめた。そして、まさかの闘病生活も乗りこえた。「自分と向き合わざるを得なかった。自分のやりたいこと、すべきことをしているか考えた」。その後平成9年1月に、資本金500万円、社員5名で法人化をはたした。


丸ごとブランド構想で農場、地域を活性化
re-2RIMG0007.jpg 木之内さんの経営の特色は、生産にとどまらず加工、流通、観光、教育、福祉、環境などの広い視野に立って農園を経営している点だ。農場に来る人が何を望んでいるかをみていると、次に何をするべきかが見えて来るという。「今までお金にならなかったものを工夫します」。それが田植え体験であり、たまご拾い牧場だ。「人と同じことをすると価格競争に陥ってしまう。人と同じことはだめ。今までお金にならなかったものを工夫することが大事。そしてニーズには素早く対応すること」。田植え体験は子供の立場に立って考えた結果、年間70万円をあげる立派な経営の柱となってきた。たまご拾い牧場では、意外なことに一番多いリピーター層は中高年女性だそうだ。

 農園のファンになってもらうことでまた来てもらえ、農産物も売れるようになる。観光や教育を農業にマッチさせることで、経営の幅も広がるということだ。


農業を担う人材を育てる
 木之内さんの元には、農業を始めたい人が若者を中心に多く相談をよせる。実際には、年間希望者60名が農業体験を経ると20名に減り、二年間の「プロ農家育成研修」にこぎつけるのは4,5名という。今まで300名以上を受け入れ、独立したのは31名。平成15年には研修制度を会社から分離して、NPO法人阿蘇エコファーマーズセンターを設立した。

 新規就農者の育成にも木之内さんは力を注ぐ。スタート時点で後継者に比べハンディがある彼らには、自らの強い思いとしばられない自由な考えや発想、消費者の視点を持っている等の強みがある。「技術論だけでこれからの農業はやっていけない。人づくり、経営に力を入れ、ビジネス感覚を磨くことが、これから農業をしていく人に必要なことではないでしょうか」壁さえ乗りこえれば強みが生きてくる、と農業を志す人にエールを送る。(水越園子)
(月刊「日本の農業」2007年2月号(全国農業改良普及支援協会)から転載)