提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


牛飼いから米づくりに替わって12年 米づくりの面白さ、奥深さを知る

2007年04月02日

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頼経啓次さん(岡山県津山市)


山地酪農にあこがれて牛飼いに
 岡山県津山市は県北東部に位置し、南部の津山盆地から北部の中国山地南側傾斜地へと続く中山間地にある。夏から秋口にかけて昼夜の温度差が大きく、旨い米づくりには恵まれた地域だ。津山市東田辺で米作り12年の啓次さん(56)は、田5ha(自作地3ha、借地2ha)を作る、地区100戸のうち唯一の専業農家である。


 頼経さんは農業高校に通いながら、16歳で1頭の牛飼いを始めた。当時の稲作は手作業が占める割合が高く、「稲作のきつさから逃げたくて、米作りだけはしたくなくて」選んだ牛飼いだった。高校3年の時には北海道日高で実習を経験。山地酪農にあこがれたが条件が合わず断念し、高校卒業後の昭和43年から少しずつ牛を増やし、牛舎を建て、多いときは搾乳牛50頭、育成牛20頭の一貫経営をしてきた。

 乳牛は効能力に改良されているので病気にかかりやすい。どうしたら健康な牛を育てられるかを考え酪農を続けるうちに、健康な牛を育てるには食べ物が大切なのだと思い至ったという。「身土不二」は頼経さんがいつも心にとめている言葉だ。
 牧草は米づくりをやめた田んぼで作った。山地酪農への思いが、自分の牛が食べるものは自分の手で作りたい、と頼経さんを牧草作りに向かわせたのだろうか。生産調整が始まった昭和45年以降、周辺農家から「牧草を作って」と田を預けられたこともあり、一番多いときは8haにも及んだ。東田辺原方上地区の田んぼの3割が、頼経さんの牧草だったこともある。


牧草を作った田んぼで稲作を再開
 30年続けた酪農をすっぱりやめ、米作りを始めたのは平成7年、44歳のとき。酪農専業であった間に、米や農村を巡る状況は劇的に変化した。機械化、生産調整、耕作放棄・・・。その流れに逆らうかのように米づくりを始めた頼経さんは、酪農の際の経験から、「健康な稲には健康な土が必要」と肝に銘じた。そして、酪農時代30年間の土地への農薬不使用は、大きな経営財産だと考えている。

 無農薬で牧草を作り続けた田からの収量は、初めは一反3~4俵だったが、最近は6俵で安定している。3年前の天候不順で軒並み収量が下がった年も、頼経さんの田からは同じだけとれた。また、回りの田で防除をしたにもかかわらずイモチがでた年でも、頼経さんの田には不思議とイモチがでなかった。


201604IMGP0868.jpg 無農薬ゆえに雑草には悩まされたが、紙マルチで解消した。また、7、8年前にちょうど地力が落ちかけ良い有機肥料を探していた頃、米を売りに行った米屋である米ぬかに出会った。「牧草には肥料がたくさん必要ですが、稲にはあまり要りません。使いすぎると食味を悪くする」という頼経さんが「肥料というより土壌微生物のエサのような感じ」と褒める、「完熟ぬか」。無洗米の副産物で粒状のため、機械で散布することもできる。これが頼経さんの田んぼにすんなりと馴染んだ。できあがった米の味はさらに良く、甘くなったという。

 このぬかとの出会いが、また面白い。酪農の時絞っていた牛乳は、合乳されてどこへ行くか、誰が飲んでいるのかわからなかった。だから、米は「直接消費者に届ける」売り方をしたいと思い、初めから農協に出荷しなかった。親戚や知り合いに売っていたものの、ほとんど余らしてしまい、ある時訪ねた売り込み先の米屋で、偶然このぬかを見つけたのだという。


楽しみなこれからの米づくり
 現在、コシヒカリ2ha、ミルキークイーン1ha、ミルキープリンセス1haを作り、地区内30カ所にちらばる田を回る。田んぼを預けたいと声がかかっても現在の面積での安定経営の確立を優先し、断っている状態だ。生産重視で販売には力をいれないが、全量直売のため、口コミで毎年買ってくれるリピーターの存在は大きい。「おいしいというお客さんの声が何よりの励みです。私の米を気に入ってくれた人に食べてもらえればいい。そんなつつましやかな方法で消費拡大ができれば」と思っている。そのためには農薬と化学肥料の不使用は絶対条件と考える。


 今年は天候に恵まれた。初めて台風による倒伏がなく、機械でスムーズに刈り取りができた。「米を12年作り続けて、農薬に頼らない米づくりの流れやツボがつかめた気がします。これからが面白くなってくるとき」という。
 気がかりなのは最近の天気の変化だ。2年前、地区を風速50mという、これまでにない大風が吹きぬけ、実りを迎えた作物は吹き飛ばされ、神社の大木まで倒れた。温暖化が進むと、今までとは違う発想で米づくりを考えなおす必要があると感じ、これからの米づくりについて考えを巡らせる。(水越園子)
(月刊「日本の農業」2007年1月号(全国農業改良普及支援協会)から転載)