提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ヒゲ親父が語る天敵の話 【5】

2008年08月11日

究極の生物的防除

     山中 聡


 少し前の話ですが、私がまだ生物的防除の研究に携わって間もないころ、中国北京で国際昆虫学会が開催されました。

 天安門事件からおよそ3年が過ぎていましたが、国際的な集まりは事件以降初めてということで、治安の良さをアピールするためか、非常にサービスがよかったことを思い出します。特に、移動のチャーターバスがパトカーに先導され、信号で止まることもなく次の会場にいけたことと、全人代が行われる会議場で北京市長の挨拶があったことが印象的でした。


 さて、私のポスター発表の横で、新疆ウィグル自治区の研究者たちが“渡り鳥によるバッタの生物的防除”を発表していました。新疆ウィグル自治区は中国北西部に位置し、砂漠や山岳地帯が大部分を占める一方、牧草地は限られた広さしかありません。その限られた牧草地にバッタが大発生するとのこと。

 この地域がロシアから中国南部へ毎年渡り鳥が飛行する通過点に当たることから、巣箱を設置して渡り鳥の飛行の中継地にし、バッタを捕食してもらう目的で、彼らは研究に取り組んでいました。

 巣箱の設置数、配置密度などを検討し、バッタの密度抑制効果が出ていたと思います。試験は繰り返し行えるものではなく、1年に一度の試験例を数年間継続して積み重ねた研究成果でした。

 ハウスの中の天敵利用などという小さな規模ではなく、中国大陸ではなんとスケールの大きい生物防除に取り組んでいるのかと、驚いた次第です。


 日本では水田の虫や雑草を合鴨に捕食してもらう“アイガモ農法”が知られていますが、鳥たちを人為的にコントロールすることはむつかしいものです。

 それに対し、天敵昆虫等は利用したいときに使用できるという点で、確実な防除方法であり、大陸の人々に比べれば日本人向きではあると思います。


 鳥を利用するにしろ、天敵昆虫、微生物を利用するにしろ、どんな生物的防除であっても、利用する生物の特性を理解することが、一番大切なことだと思います。はるか中国大陸の究極の生物的防除は壮大な作業ですが、私たちのハウス作物栽培でも、基本は一緒ということです。


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やまなか さとし

東京生まれ、横浜育ち。農学博士。
農薬メーカー研究所にて各種生物農薬の研究開発に従事。
現在、アリスタライフサイエンス(株) IPM推進本部 開発部長