提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


いま、郷土食が面白い! (3)

2013年05月21日

最近気になる、ブレイクしそうな郷土食文化たちIII


農産物流通コンサルタント 山本謙治   


つづき
■厳しい環境で伝えられてきた"まめぶ"の豊かさに驚く
 NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」観てますか? 私は毎日観ています。あの中で「まめぶ」という料理が出てきますね。「しょっぱくて、甘い」不思議な汁物という位置づけですが、実はこのまめぶ、こんな風に有名になるなんて考えられないほど、ごく一部でしか食べられていなかった郷土料理なのです。というか、あのドラマをみると、あたかも三陸全域でまめぶが食べられているイメージですが、まめぶを食べる文化は山の中にしかなかったし、いまもほぼそうなのです。


yamaken_201305_4.jpg 岩手県の北部、ほとんど青森側に位置する久慈市に山形町という、昔話に出てきそうな絵のような山村があります。平地が少なく、とにかくうっそうと樹の茂る斜面と、それを斜めにつっきる清流。山には、岩手県名産のあかべこである短角和牛が放牧されています。日本国内で、最後の方にやっと電気が引かれたという逸話も素直に呑むことができる風景。「まめぶ」は、そんな山間部にしかない、素晴らしい郷土食なのです。

 見た目はいたって地味。写真のように根菜類をベースにした汁に、湯気の上がる団子が入っています。ところがなんともぜいたくなことに、この汁のベースは、超高級食材である天然のホンシメジを干したもの! 市販のブナシメジとは次元が違うその味は、どんな高級コンソメでもかなわない芳醇な旨味をたたえています。


■存在感ある団子の正体
 けれども、まめぶをまめぶたらしめているのは汁ではなく、存在感のある団子なのですね。東北では、よく小麦を練って麺や団子に仕立てた汁が食べられるので、まあその一種だろうと思って団子を口にした人は、例外なく驚くことになるわけです。

 しっかりした食感の小麦の層を噛みきった瞬間、口中に芳ばしいナッツの薫りが弾ける! その香ばしさと共にジュッと染み出てきたのは甘い甘い汁! この団子には、山中でお母ちゃん達が拾った鬼グルミと黒砂糖が仕込まれているのです。出汁のきいたしょっぱい汁に甘い団子という強烈な組み合わせ。これが、ドラマ「あまちゃん」の中で語られる「不思議なおいしさ」の正体です。


 なぜこんな味があるのか。それは、昔のことを考えてみると理解できるのです。
 まだ電気もろくに引かれていない山村で、厳しい冬に食べるのは保存食。中でも山から穫ったオニグルミは油脂たっぷりで、素晴らしいカロリー源。この地域では「おいしい」ということを「クルミ味がする」というのです(これホント)。それほどにごちそうなのですね。

 そして次に、まめぶを不思議な味にしている張本人の黒砂糖。砂糖こそ、大ごちそうでありカロリー源の最たるもの。くるみと砂糖が一緒に入っているなんて、最高のごちそうです。そして、天然シメジの汁には身体に必要なアミノ酸がたっぷり! つまり、まめぶのベース食材は、すべてがごちそう食材だということなんです。山形町でももちろん、まめぶはハレの日の汁物という位置づけです。このように、郷土料理はその風土がもつ特性と密接に関わりを持っているのです。


■"まめぶ"には決まったレシピがない!
 郷土料理によくあることですが、このまめぶ、山形町でも一軒一軒レシピが違うそうです。ある家ではまめぶ団子にクルミしか入れなかったり、汁の味付けが違ったりして、どこへいっても違うまめぶが出てくるのだそうです。

 料理を広く伝えようとすると、「レシピ」の名の下に材料や分量をきっちり決めて統一することが多いです。それは、つくりてによるブレをなくすためですが、山形町のまめぶは、人が変われば味も変わります。それをきいて感動しました。

 この山形町の食に魅せられて、3年間棲みついて働いていた梅田さんという料理人がいます。彼は山形町の豊かな自然とそこから穫れる食材に惚れ込んで仕事をしていたのですが、当然まめぶを食べるわけです。その味に驚き感動して、いろんな家を行脚するのですが、味がまったく違うまめぶ汁が出てくる。だから彼は「これが本当のまめぶ」などというものは存在しないのだ、といいます。いま梅田さんは東京の広尾にある『山藤』という店の板長ですが、おそらく東京で唯一、まめぶを食べられるお店です。梅田さんが作るまめぶは、この料理を教えてくれたお母さん方の集大成の味だそうです。


 ところで本稿でまめぶを作っている写真は、山形町内で知らぬ者のいない世話好き、新井谷(にいや)正子(まさこ)おばちゃんが作っているところを撮影させてもらったものです。このまめぶ団子も当然、十人十色です。正子おばちゃんのは、真円形のものと楕円形のものがあるのが、ちょっと他と違う。


 どうでしょう、この「まめぶ」食べたくなりませんか? あまり華やかさのない郷土料理でも、背景の物語を理解するとキラキラとして見えてきます。
 実はこのまめぶ、最近では地域興しの祭典などに積極的に出場しています。天然シメジは高価で貴重なものですから、汁は昆布や煮干しでとっていますが、これもとてもおいしい。まめぶ団子にはもちろんクルミと黒砂糖入り! 「あまちゃん」の舞台にもなっている久慈の駅前には、「まめぶの家」という直営店もできました。みなさんも、もし三陸に足を向けることがあれば、ぜひ食べてみてくださいね。(つづく


写真上から
●山形村の風景
●まめぶ
●まめぶ団子を作るところ
●まめぶ団子つくり名人 

やまもと けんじ

株式会社グッドテーブルズ代表取締役・農産物流通コンサルタント。
一次産品の商品開発のアドバイザーをする傍ら、全国の郷土食を食べ歩いている。「週刊フライデー」、「きょうの料理」、「やさい畑」などに連載を持ち、著書に「日本の食は安すぎる」(講談社)、「実践農産物トレーサビリティ」(誠文堂新光社)などがある。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」も人気が高い。