提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


日本の「食」は安すぎる 【5】

2009年12月11日

取引から取組へ

                農産物流通・ITコンサルタント 山本謙治


 相変わらずスーパーなどの小売業界は、「消費者のために」という錦の御旗を掲げながら、第一次産業の産品を安く叩きまくっている。でも、産地の高齢化が進み耕作放棄が進む中で、そうした状況は変わっていくかもしれない。現に、スーパーのバイヤーも「いままでつきあってきた契約産地が、高齢化でもう出荷できないと伝えてきた」と慌てているという話は、半年前に掲載したコラムでも書いたとおりだ。


 その状況は全く好転していない。ちまたでは農業ビジネスなどという、実体のないブームが取りざたされているけれども、既存農家が儲かっていないのに、農業のプロでもない彼らが何を持って成功できるというのか、皆目見当もつかない。ブームが去ると、「ん、こりゃどうやっても儲からんな」ということに気づいた新規参入組も、波が引くように撤退していくだろう。そうなると今後、レベルの高い農産物をある程度まとまった数量で供給できる産地は、発言力が上がっていくはずだ。


 先日、とある生産者組織の総会におじゃました。有機・特栽農産物を中心に宅配するグループの生産者の会で、その会長が壇上からこんな話をされていた。
「われわれは、もう「取引」はしない。「取組」をしてくれるところとしか付き合わない!」
おお!と身体が震えた。

 「取引」は、モノとカネの等価交換にすぎない。これこれこういうスペックの米を何トンでいくら、はい引き渡しましょうというものだ。でも、これだと、現物がないことにはモノもカネも動かない。

 しかし、だ。無農薬や有機といったものは、高温多湿の日本においては生産者に大きなリスクがかかる。最悪、全滅のおそれもあるわけだ。そのリスクをとるためには、「もし収穫量が減っても買う、最悪全滅したら補償する」という約束がなければ作ることができない。これは等価交換ではない。リスクをも持ち合うということであり、これこそ「がっぷり四つの取り組み」である。この生産者組織の会長はそういうことを言っているのだな、と感じたのだ。


 そう、バブル後の日本は、不況を理由にして、取引一辺倒の世の中になっていた。でも「取引」中心の世界では、佳いものなんて生まれようがない。生産者だってリスクを冒せないから、スペックを満たすものをギリギリのコストで作るということしかできるわけがない。そこに追い打ちのように、さらなる価格引き下げの圧力がかかる。そりゃあ、ミートホープのように偽装しなきゃやっていけないと思う業者だって出てくるはずだ。そう、偽装を生み出しているのは、安いモノを求める消費者であり、小売をはじめとする販売業者なのだ。


 じゃあどうすればいいのか。販売業者の意向を変えることが出来るのは消費者だけだ。消費者が「うーん、少々高くても佳いものが欲しい」と意思表示しなければ、彼らだっておいそれと変わるわけにはいかないのだ。だから、やはり消費者の意識を変えていかなければならない。ま、これがいちばんの難物だ。しかし、流れはちょっとずつ変わってきていると思う。


 「エシカル・ソーシング」という言葉をご存じだろうか。エシカル(倫理的な)・ソーシング(調達・仕入)というのは、簡単に言ってしまえば、相手先を叩かない購買活動のことだ。開発途上国に森林伐採を強いるような買い方をしたり、枯渇しそうな水産資源を乱獲させるような購買をしてはいけない、などさまざまなエシカルソーシング議論がある。日本ではフェア・トレードという言葉の方が先行しているが、その文脈だといえばわかりやすいだろう。このエシカル・ソーシングという考え方が欧米では浸透してきているという。

 たとえば、アメリカではいま、安売りスーパーの王者であるウォルマートの企業行動を監視し、相手国を叩きまくるような購買行動や、従業員の労働環境が劣悪なことを告発するようなNPOの活動があるという。告発されると企業としての信頼を損なうため、ウォルマートも企業方針などを変えるなど、効果が上がっているようだ。スターバックスのコーヒー豆調達に関しても、エシカルソーシングの文脈で批判された経緯があり、その後、調達方針が変わったという話もきく。


 この話は、しばらく前の環境問題に通じている。日本で15年ほど前に環境問題が語られる時、ビジネスの中で真剣に議論される日が来ると思った人がどれほどいただろうか。今、CO2排出量に敏感でない一流企業は存在しないといっていい。エシカルソーシングの波も、浸透までに時間がかかるかもしれないが、きっと理解が拡がるだろう。現に消費者の動きは変わりつつある。(つづく)

やまもと けんじ

株式会社グッドテーブルズ代表取締役・農産物流通コンサルタント。
一次産品の商品開発のアドバイザーをする傍ら、全国の郷土食を食べ歩いている。「週刊フライデー」、「きょうの料理」、「やさい畑」などに連載を持ち、著書に「日本の食は安すぎる」(講談社)、「実践農産物トレーサビリティ」(誠文堂新光社)などがある。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」も人気が高い。