提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


青虫の足あと【38】

2010年09月06日

豚のおしり

    山田早織


養豚農家さんで雇用に向けての訓練をしているメンバーを支援するため、定期的に農場を訪ねる。
そこでは精神障害の二人が餌の準備をしたり、豚の世話全般の補助をしている。
二人とも訓練のため施設に通っていた頃よりも、ぐんと明るくなった気がする


いつもはお昼すぎとか、作業が落ち着いた頃を見はからっていくのだが、その日はたまたま午前中にお邪魔した。
ちょうど豚の出荷作業のまっただなか。
農場のお兄さん二人の声と、きびきびした動き。メンバー二人もコンパネを持ち、豚が逃げないように参戦! それに負けない豚パワー!!
小屋の中の豚を一頭ずつ通路に出しては、そのまま小さな檻に誘導し、6匹ほどでギュウギュウ詰め(豚だけど)になると、そのままリフトでトラックへ・・・


あまりの迫力と緊張感で、私の顔はこわばっていたはず。
ううう・・・なんか豚が逃げ出しそう! 突進されたらどうしよう・・・邪魔にもなるし、そろそろオイトマしようか。。。
豚よりも先に逃げる体勢に入った私にお兄さんが笑顔で
「すごいらぁ? びっくりするら?! 今から向こうの小屋のヤツをもう少し積むで、見てきない!!」と。思わず「はい」という私。恐るべし、お兄さんの笑顔。


奥の小屋では、豚の大きさを見て、出荷できそうな豚には、スプレーで番号を書いていた。
私は邪魔にならないように、小屋の入り口で事を見守っていた。
作業をしながら、お兄さんが時々説明をしてくれる。
「100kg以上じゃないと出荷できんだよ。とりあえず出荷できそうなヤツを積んで、体重を計るだよ」と。もう、うなづくしかできましぇん(涙)

一頭、また一頭と通路に豚が誘導され、私が立っている目の前にある檻に向かってくるのだが、メンバーの一人が豚の部屋の中に入り、なんと豚のおしりをペチペチとたたきながら誘導をしているではありませんか!!!!

「す、すげぇ。鈴木さん(仮名)、すごいよ!! 施設にいるときとまったく違う! こんなこと、できたんだ。豚の中に入って、しかもペチペチ・・・って! すごい、すごいぞ、鈴木!!」
と感動しているうちに、檻の前の通路に8頭ほどが集められ、お兄さんたちによって檻の中へ・・・豚たちはひしめき合いながら檻におさめられていく。

そこで、私はショッキングな場面に出くわした。


ギュウギュウ詰めにされ、リフトで持ち上げられたとき、豚がいっせいにうんちをし始めたのだ。
豚は本当に恐怖を感じているんだろう。なきながら、うんちをもらしている・・・


動けなかった。
ううう、見なければよかった。つらくなって、一瞬泣きそうになった。
でも、つらそうな顔をするのは失礼だ! と思い、精いっぱい普通の顔をした。


私はスライスされたお肉を買っている。
そこに至るまでの経緯は、見ないふりをしていた。
でも、農場の人たちは、毎日それを目の当たりにしている。仕事に対して誇りを持っていると思う。
見ないふりをしてきた私とここの人たちは、きっと命の捉え方がまったく違う。
彼らは豚を大切にし、その命をいただくことの意味をしっかりと受け止めているんだ。


見なければ見ないですむ。
そんなきれいな世の中で、大切なものが見失われてしまいそう。
ハンバーガーはすぐに食べられるけど、そこに至るまでにどんなことがおきているのか、きちんと子どもに伝えられる親になりたい、いや、ならなくてはいけない! と思った。

子どもが大きくなったら、また見せてもらいに行こうかな。
それでお肉を食べられなくなるんじゃなくて、なにげなくお肉を食べられなくなるように。

私は豚肉が一番好き。豚のおしり、一生忘れない。
(いつかペチペチもしてみる!!)

やまだ さおり

静岡県浜松市出身。フランス料理店に勤務後、23歳で起業した(有)しあわせ家族代表取締役、園芸福祉士。培養土、花苗・野菜苗の販売のほか、庭づくりや商店のディスプレー、野菜の宅配など、関心とニーズのある分野に事業とボランティアを展開中。