提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


農業機械よもやま話 【8】

2008年08月04日

“百足形”野菜用全自動移植機 (”Centipede” transplanters)

    津賀 幸之介 

 
 野菜作の機械化が現在ほど進んでいない頃、アメリカのサラダボールと云われているサリナス※1、※2で見た野菜移植機の話です。


 サリナスでは、レタスは、種子を直接土壌に播く直播栽培がほとんどですが、ブロッコリー、カリフラワー、セロリーなどは移植栽培が主流でした。

 大規模な育苗施設から大型トラックで運び込まれた苗を広大な畑に一斉に植え、トラクタが畝間を整地したあと、大型の移動スプリンクラーにより灌水していく景色は、壮大でした。

 このように野菜生産に利用されている大型機械や施設を見て回るのはたいへん楽しく、日本からの見学者も多いようです。

写真1:半自動移植機   写真2:半自動移植機
左 写真1:半自動移植機/右 写真2:半自動移植機


 移植作業は、写真1、2のように、作業者が苗を一株ずつ植え付け機構に供給する方式の半自動移植機が一般的でしたが、ある農場では、省力化をはかるため自動で苗を供給する方式の全自動移植が開発・利用されており、何度か見学に行きました。


 百足形移植機"Centipede" transplantersは、その一つで、大型遊覧バスのような走行台車にメカニズムの塊を搭載したものでした。

写真3 Centipede transplanters (   写真4 Centipede transplanters (
左 写真3 /右 写真4 ともにCentipede transplanters ("Centie"は百、"pede"は・・・の足を持つとの意味)


 この移植機構は、マガジンに育苗トレイを垂直に装填するだけで、植付は自動で高速に行われます(図1・写真5)。

 回転するチェーンに苗を掴む多数の植付フィンガーが配列され(この形が百足に似ている)、このフィンガーに同調して動くトレイから、フィンガーが苗の茎部を掴み、そのまま植付ける方式です。

 植付けは、作溝爪により土表面に溝を切り、その溝内でフィンガーが開き苗を垂直に配置し、その後鎮圧輪で覆土します。


図1 :植付け機構  写真5 :植付け機構
左 図1:植付け機構 / 右 写真5:植付け機構


 Bud of California※2 において、1987年に4株/秒の植付け速度が実証され、1989年には、8条型と4条型が開発されました。

 1日10時間の作業で、セロリの場合、8条型とフォークリフト1台で、14人の作業者によって6ha/日、カリフラワーの場合、4条型とフォークリフト1台で、8人の作業者によって9.3ha/日の移植を行うことができます。慣行の半自動移植機に比べて、3~4倍の能率とされていました。

 生産農場の専従エンジニアが、このような大型で複雑な機械を開発し、自家用として各機種とも数台が利用されていました。広大な土地に見合った高能率な移植機の後を何人もが追いかけて、苗を補植していきます。果てしなく広い畑の末端で機械が回行する枕地にも、隅々までていねいに人力で捕植をしている作業が印象的でした。


 その後、日本でも新しいプロジェクトが進み、キャベツ・白菜・レタスの乗用型全自動移植機が開発され、企業3社が商品化しました。植付部は百足形ではなく、両手形(2条植)でした。


※1 サリナス(Salinas)
アメリカ合衆国カリフォルニア州にあり、肥沃で豊かな農業に向いた土壌で世界最大の野菜産地、レタス、ブロッコリー、苺、カリフラワー、セロリなど多くの農産物が日本など世界に向けて輸出されている。

※2 サリナスバレーにおける野菜栽培とサラダ加工会社の広域的展開:斎藤功・矢ヶ﨑典隆、Journal of Geography 114 4) 525-548 2005


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つが こうのすけ

大阪府出身。農学博士。昭和43年農業機械化研究所(現:農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター)入所。農業機械の開発研究に従事。同センター所長を経て、現在:同センター新技術開発部プロジェクトリーダー