提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


農業機械よもやま話 【6】

2008年05月19日

夢の田植機

    津賀 幸之介 

 
 先日、テレビの時代劇ドラマを観ていると、農村風景の一コマで、田植え後の水田のクローズアップシーンが、深刻な音楽とともに映し出されました。なんとなく妙な感じがしました。水稲の植え付け株の配列が並木植(片正常植)で、何条かの植付条数ごとに蛇行していたのです。


写真1


日本では、明治25年に水田内の除草機が発明されたことにより正常植が奨励され、それまでは田植え定規を使わない乱雑植が多かったそうです。つまり、時代劇の背景に田植機を想像してしまったわけです。


 現在の日本の水田は、(図1・写真2のように)条間Lは30cmで、株間Hが標準で15~20cmの並木植(片正常植)がほとんどです。 

 農業機械よもやま話【5】で述べましたように、水稲マット苗の幅が30cmであり、それを植える田植機によって、日本全国、栽植様式(条間)が統一された結果となっています。成育中の水田に入る管理作業もスムーズで、機械化による栽植様式標準化の良い事例となっています。


図1 従来の田植機による苗栽植様式  写真2
左 :図1 従来の田植機による苗栽植様式 / 右 :写真2


 栽培上の観点からは、地域により、気象・土壌条件や栽培品種等は様々で、各地域に適した栽植様式もあるように思われます。

 現在の田植機は、条間Lが一定ですので、株間Hを長くしたり短くしたりして、栽植密度を調節できますが、条間を変化させたり、並木植以外の栽植様式の田植えはできません。

     
 十数年前のことですが、研究室で、様々な栽植様式の植付が可能な「シャトル型田植機」※1を考えたことがあります。図2はその全景です。


一組の植付機構(7)がシャトルのように左右に移動し、現在の田植機のように進行方向に植えるのではなく、進行方向と直角方向に植えながら、本体は前進していきます。現行の30cm幅のマット苗を植え付けることができ、植付方向は図3のようにジグザグになりますが、結果的には図4のように片正常植となります。

 植付と走行のタイミングを変化させることによって、条間Lと株間Hが自由自在となり、栽植密度も調節できます。つまり、毛糸の編み機で自由な模様を編むように、採光・風通し・肥料の吸収などが最適となる株と株の配列を繰り返して植え付けることができます。 


図2 シャトル型田植機
図2 シャトル型田植機
 1 乗用車体 6 シャトルレール 7 苗植付け部(シャトル) 8 苗タンク 
 9 苗供給機構 11 苗植付け部往復移動機構 12 苗植付け部駆動軸 
 22 苗載せ台 23 苗支持板  26,27 苗植付け爪 
 28 苗縦送りベルト 29 高さセンサ 31 苗供給台


図3 シャトル型田植機による苗植付け方式  図4 シャトル型田植機による苗栽植様式
左 :図3 シャトル型田植機による苗植付け方式 / 右 :図4 シャトル型田植機による苗栽植様式


 実現のために、まず従来の田植機の植付爪の動きが平面軌跡であるのに対して、立体軌跡が可能な機構を考え試作し、植付け性能を試験しました。

 現行の田植機は、4~8条の多条植です。能率を同じにするには、前進速度がゆっくりな分、植付機構の速度は数倍以上の速さが要求されます。


 そこで、特別の試験装置を試作し、植付爪がどのくらい速くまで、マット苗を掻き取ることができるか、田面に植付ができるかを、山形県農業試験場の協力を得て、基礎試験と収量調査など、慣行速度と対比して行いました。


 その後、このアイデアの一部は田植機の研究開発テーマに適用されましたが※2、シャトル形田植機の構想は未だ実現せず、「夢の田植機」ではなく、「夢のままの田植機」となっています。


※1 特許出願№ 特願平4-343227
※2 農業機械学会誌 第61巻1号 「田植機用千鳥植え植付機構の開発研究(第1~2報)」 小西達也他


(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)

つが こうのすけ

大阪府出身。農学博士。昭和43年農業機械化研究所(現:農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター)入所。農業機械の開発研究に従事。同センター所長を経て、現在:同センター新技術開発部プロジェクトリーダー