提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


探検! 食の最前線 【5】

2007年07月23日

●味覚の不思議    
                     鈴木建夫(宮城大学食産業学部教授)


味覚を感じる特定領域がある、は、嘘

 1900年頃から、舌先では甘味を感じ、塩味や酸味は舌の両側で、そして苦味は舌の奥で感じると考えられてきました。味覚として「新参者」の旨味は舌全体で感じることになっています。

 ところがこれが全て嘘であるとわかってきました。味覚には特定の領域のないことがわかったのです。


1000人以上に味覚試験を実施

 我が親愛なる学生は、閾値(感じ取れるギリギリの濃度)での味覚試験を行ってきました。甘味(砂糖)、苦味(薬として使われるキニーネ)、塩味(食塩)、酸味(酢酸)、そして旨味(グルタミン酸ナトリウム)の溶液を、1000人をはるかに超える被験者に味わってもらいました。

味覚研究会(クリックすると大きく表示されます)

その結果、

 中学生以下の児童生徒では、甘味に対する感度の低下が認められました。甘味はエネルギーの源となりますし、精神的な満足感を与える味でもあります。これが鈍くなっているのです。

 実はおやつの与えすぎで糖分を多く摂取することから、生活習慣病の予備軍となることが懸念されます。


 高校生以上の壮年層では、苦味と酸味に対する感度が予想以上に鋭敏であることがわかりました。

 苦味は植物の毒を識別する能力です。
 たとえば、トリカブトにはアコニチンという猛毒成分が含まれています。この毒(ブスとも読みます)に「あたる」と、顔は無表情になることから、女性を蔑視する「ブス」の由来となったほどです。
 ブスにはなりたくありませんよね。


 一方の酸味は、腐ったことを識別する能力です。ハイエナや禿鷹が酸味に対して鈍いかどうかわかりませんが、腹を壊さないために必要な感覚でしょう。


 しかしながら、酢の物は美味しいですし、ビールやコーヒーの苦味に快感を感じる方は多いと思います。これらは後天的に獲得した味覚と考えられます。つまり、家庭での食教育が行き届いていないと獲得できない味なのです。

 私どもの学生に聞いてみると、「ビールやコーヒーは苦くて飲めない! 何が美味しいのか分からない!」と首をかしげる輩(やから)が多いのには驚かされます。
「一生ジュースで乾杯していろっ!」と、「教育的指導」をしながら飲むビールは最高です。


 熟年期になると、旨味と塩味の区別がつきにくくなります。

 旨味は食べ物を摂取する意欲を生み出す味覚と考えられ、多くの農産物はアスパラギン酸やグルタミン酸など旨味のもととなるアミノ酸を含んでいます。この味を「美味しいと考えるように選抜された」のが現代の人類とも考えられます。


 一方の塩味をもたらす食塩は、身体の浸透圧を調節し体調維持に必須ですが、過剰になると、血圧症を引き金とする心臓疾患や脳血管障害など、生活習慣病の原因となります。熟年期で旨味と塩味の判別が鈍くなるのは、まさに生活習慣病への第一歩とも考えられます。

 純粋なグルタミン酸は、その名の通り酸っぱい味を持っていますが、口の中で暫く味わっていると、唾液中のナトリウムと一緒になり、グルタミン酸ナトリウム(昆布から発見された旨味物質)に変化します。


 「良く噛んで食べなさい!」とは小さい頃から言われたことですが、良く噛んで食べることによってこそ、美味しい食事が味わえる原理が、ここにあるのかもしれません。

 味覚が極めて大切であることは異論のないところですが、わからないこともまだまだ多いのです。

すずき たてお

昭和18年仙台生まれ。東北大学大学院農学研究科修了。同大学農学部勤務、農学博士。昭和51~53年米国立衛生研究所(心肺血液研究所)客員研究員。農林水産省・食品総合研究所、農林水産省研究開発課長等を経て、食品総合研究所長(第20代)。独立行政法人化により同・理事長。平成16年、宮城大学教授、現職。