提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【94】

2015年01月29日

温暖化による農業への影響は深刻

                              ジャーナリスト 村田 泰夫


 地球温暖化による農業生産への影響は深刻である。「自分ひとりではどうにもならない」とあきらめているのか、当事者意識の乏しい人が多い。温暖化防止は、地球上の一人ひとりが取り組まなければいけない問題であり、一人ひとりが取り組めば解決へ道が開かれる問題でもある。改めて、温暖化による被害がどれほど深刻なのか、その予測に思いをはせたい。

murata_colum94_4.jpg 地球温暖化がこのまま進めば、私たちの暮らしにどのような影響が出てくるのか、日本国内で予測される影響を調べた報告書が、今年1月下旬、環境省の中央環境審議会で示された。予測した対象は、農業だけでなく自然生態系、災害など私たちの暮らしにかかわる56項目にわたる。とくに、米や果物がつくりにくくなる、洪水や高潮が多発する、熱中症が増えるなど9項目が深刻で、緊急な対策が必要だとしている。


 深刻だという9項目を挙げてみると、私たちが体感していることや見聞きしていることばかりである。①米の収穫量が減り品質も低下する、②ミカンやリンゴなどの生産適地が変化する、③害虫の発生が増え雑草が生えやすくなる、④生態系や個体群の分布域が変動する、⑤河川で洪水を起こす大雨が増える、⑥沿岸で高潮や高波の危険性が増える、⑦気温上昇による死亡リスクが増える、⑧熱中症の発生率がとくに65歳以上の高齢者で増える、⑨都市部での気温上昇が日々の暮らしに悪影響を与える。


 デング熱のウイルスを媒介する蚊の生息域が今世紀末には北海道の一部にまで広がるとか、熱中症による死亡リスクが2090年代には今より最大で3.7倍に増えるというから驚く。今世紀の中ごろには、桜の花見のできる日数が減ってしまうという予測もある。私たちの楽しみが減るだけでなく、サクラを観光の柱としている「桜の名所」では地域経済への打撃も大きい。


murata_colum94_2.jpg ここでは、農業の分野に絞って、温暖化による影響について検証してみよう。まず米である。今世紀半ばまでに気温が3度上昇すると、北海道など北日本で増収になる地域もあるが、その他の地域ではおおむね減収に転じる。とくに品質の劣化が目立ち、いわゆる一等米比率が減る。九州地域の一等米比率は、今世紀末には40%減る。

 すでに、九州では「高温障害」による被害が出ている。登熟期に気温の高い日が続くと米の中心部が白く濁る「乳白粒」が発生する。九州の米どころ・熊本県では、猛暑となった一昨年に収穫された米を調べたところ、乳白粒が多く出た。高温障害の発生を見越していた熊本県では、高温に強い米の品種改良に取り組んでいる。新品種の開発のほかにも、田植えの時期をずらすなど、栽培方法の変更も迫られるようになるかもしれない。


 気温への適応力の弱い果樹は、温暖化によって大きな影響を受ける。温暖な土地を好むウンシュウミカンの産地は現在では西日本だが、温かくなりすぎると栽培適地は北に移動することになる。報告書では「2060年代には現在の主力産地の多くがいまよりつくりにくくなる。一方、九州南部の内陸部、日本海及び南東北の沿岸部など、現在は栽培に不向きな地域で栽培が可能となる」という。

 冷涼地を好むリンゴの産地は、現在日本列島の中部まで比較的広い。それが温暖化で、栽培適地の南限が東北中部の平野部まで北上するかもしれない。「リンゴでは2060年代には、東北中部の平野部までが現在よりも栽培しにくい気候となり、東北北部の平野部など現在のリンゴの主力産地の多くが、暖地リンゴの産地と同等の気温となる」


 また、報告書は「ブドウ、モモ、オウトウについては、主産県において、高温による生育障害の発生が想定される」という。現在、ブドウの大産地といえば、山梨県の甲府盆地である。ここ数年の夏の高温で、いいブドウができにくくなっているという話はよく聞く。山梨県より北の長野県の千曲川沿いでブドウの栽培が盛んになっているなど、ブドウの栽培適地はすでに北上している。


murata_colum94_3.jpg 地球温暖化による農業被害は、さらに広がる。害虫被害も増える。九州では海を渡って飛来するウンカが増え、イネの食害が増えたという報告もある。日本ではこれまであまり見かけなかった南方系の害虫の定着を心配する研究者もいる。イノシシやニホンシカの生息域が北上し、イノシシやシカによる農業被害が東北地方でも聞かれるようになった。


 集中豪雨の多発や、スーパー台風と呼ばれる超大型台風の発生による災害被害も、農業被害を大きくする。地球温暖化は、気温が高くなるという現象だけではない。「極端な天候が増える」という現象を引き起こす。豪雨をひき起こしたかと思うと、極端な干ばつもひき起こす。大雪を降らせたかと思うと、極端に雪の少ない冬となることもある。


 国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)のパチャウリ議長は「地球上のだれ一人として温暖化の影響を受けない人はいない」と警告する。ひとごとではないのである。一日も早く、地球温暖化の進行を止める対応策に取り組む必要が、私たち地球人に課せられている。(2015年1月27日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。