提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【82】

2014年01月30日

学校給食を食農教育の場に

                              ジャーナリスト 村田 泰夫


  学校給食でノロウイルスによる食中毒事件が相次いでいる。静岡県浜松市では、1000人をこえる児童が学校を休むという事態になって、社会に大きな波紋を巻き起こした。浜松市の場合、給食に出された食パンが汚染されていた。学校給食に米飯が普及していると聞いていたが、いまなおパン食が幅をきかせているらしい。


 murata_colum82_1.jpgそこで、学校給食に地場産の食材がどれだけ使われているのか調べたところ、あまりの少なさに愕然とした。文部科学省が調べた「平成24年度学校給食における地場産物の活用状況」によると、全国平均で25.1%に過ぎないのだ。


  調査結果は、1週5日間の学校給食の献立に使った食材のうち、その都道府県で生産、収穫、水揚げされた食材の比率だ。学校のある市町村ではなく、都道府県域で生産されたものを「地場産」とみなしていても、4分の1にしかならないということは、どういうことなのだろうか。


  平成18年に制定された食育基本法に基づいてつくられた食育推進基本計画では、平成16年度に21%だった地場産物の使用割合を、22年度までに30%以上に引き上げる目標を打ち出した。16年度の21%からは少し上昇したが、22年度の実績は25.1%にとどまり、目標に達しなかった。その後も横ばいで、30%の壁を超えるのは至難である。


  なぜ、地場産の食材が使われないのか。理由はさまざまである。衛生管理上、生鮮食材は原則として当日の朝に、給食センターなどの調理室に搬入されなければならない。調理に時間をかけられないので、調理しやすい一定の規格でなければならない。一定の規格の生鮮食材をまとめて、決まった時間に搬入することは、ロットのまとまらない地場産の食材では難しいのだという。


  学校給食に求められている食材の条件は、「安全」で「栄養」があって、なおかつ「おいしいもの」でなければならない。外国産の食材に対する安全面での不安がぬぐえない中、学校給食の担当者は、国産にこだわりたいと思っていることだろう。できれば「地元の市町村産」、でなければ「県産」、それが無理ならせめて「国産」。ところが、けっこう輸入食材が使われている。学校給食の食材選択の条件の一つに「価格」があるからだという。児童、生徒の家庭から集める給食費は、安い水準に抑えなければならない制約がある。


  日本のカロリーベースの食料自給率が40%足らずなのだから、国産100%を望むのは無理なことはわかっている。でも、国産の食材は高いという「価格」を理由に輸入食材を使うというのは、情けないし悲しい。


  国内生産者に、損をしてでも出荷しろと言うつもりはない。創意と工夫次第では、価格の壁を乗り越えることはできるのではないか。週5日、一定のまとまった量の需要先があるということは、生産者にとって、安定した出荷先が保証されていることを意味する。学校給食の食材の需要規模は、全国で5000億円にのぼるという。日本の農水産物の輸出金額に匹敵する市場規模で、この安定した大市場に生産者はもっと目を向けてほしい。


murata_colum82_2.JPGしかも、市場出荷のように小分けして袋詰めにする必要もない。包装資材はいらないし、手間もかからない。そんなことを勘案すれば、市場に出荷するより、ずっと安く供給しても、生産者の手取りは減らないはずだ。

  採算面で市場出荷に劣らない収益が確保できるうえに、生産者にとって、学校給食は地域に暮らす子どもたちに農業への理解を深めてもらう絶好の機会になる。自分の地域でどんな農産物が作られているか知らない子どもも少なくない。学校給食で出た野菜やお米のできる現場を見る機会をつくれば、農作物がどのようにして栽培されているかの学習にもなる。地域の特産物を利用した伝統食があれば、食文化への理解と地域への愛着、郷土愛の醸成にもつながる。

 これらは、学校給食を介した「食農教育」である。その教育効果は、小どもたちだけにとどまらず、親に対しても大きなものがある。


  明治時代の昔、地域に小学校を作るとき、地域の人たちが木材や資材を提供し、労力を出して建てたところがある。今日では、教育は国や地方自治体が担うべき義務だが、貧しかったころの日本では、地域の人たちが「うちの学校」を建てたのだ。学校は地域コミュニティーの中心的施設であるとの信念があったからであろう。


  健やかに地域の子どもたちを育てる学校の給食に、地域の人たちの関心が高まらないことに、苛立ちを覚えるのは私だけだろうか。せめて給食ぐらい、国産や県内産などとハードルを下げず、地元の市町村産の食材を使うことにもっとこだわってほしい。東京や大阪など大都市の学校では、地域内に農産物や水産物の生産者がいないところもあろう。でも、地方はもちろん中小都市の学校では、創意と工夫次第では、地元産の食材を調達することは、そんなに難しくないと思えるのだが、どうだろうか。(2014年1月30日)
 

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。