提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【80】

2013年11月26日

食のブランド信仰を逆手に取った偽装表示

                              ジャーナリスト 村田 泰夫


 食の偽装表示が後を絶たない。阪急阪神ホテルズがメニューと異なる食材を使っていたことが明らかになって以来、有名ホテルのレストランや老舗デパートでも食の偽装表示が発覚している。一連のニュースの中で開いた口がふさがらなかったのは、最初に明らかになった阪急阪神ホテルズ(本社・大阪市)の出崎弘社長の記者会見である。


murata_colum80_4.jpg 出崎社長はこう釈明した。表示と異なる食材を使っていたことについて、「客を欺こうという故意は認められない。偽装ではなく誤表示だった」と言ってのけたのである。

 「九条ネギ」に一般的な青ネギや白ネギを、「芝エビ」に輸入もののバナメイエビを使っていた。このことが、故意か過失かと問われれば、部外者でも、それは故意だと思うのが自然である。関西で有名なこのレストランでは、どのようなシェフ(調理人)を雇っているのだろうか。九条ネギと一般のネギの違いがわからないシェフなのだろうか。芝エビと輸入エビの違いがわからないシェフなのだろうか。


 イモづる式に明らかになった偽装表示には、こんなものもある。「クルマエビ」にブラックタイガーを、「ステーキ」に牛脂を注入した「加工肉」を使っていた。素人の私にも、しま模様の入ったクルマエビと色の黒いブラックタイガーの違いは一目でわかる。シェフは明らかに「偽装表示」であることを知っていたはずだ。調理する現場を見ていないウエイターの中には、わからなかった者もいたかもしれない。しかし、レストランのマネージャー、仕入れ担当者は、お客をだましていることを明らかに認識していたはずである。


 「そのように表示するのが長年の慣習だった」と開き直る関係者のコメントをテレビで聞いた。勘違いで誤って表示したのではなく、うそをついていたことを告白しているようなコメントである。安い食材を高い食材に偽装することが当たり前で、罪の認識はなかったというのは、商道徳に反するのはもちろん、消費者を愚弄するものである。


murata_colum80_2.jpg なぜ、このような偽装表示が内部告発や同業が公表するまで、堂々と横行していたのだろうか。高い食材を使っているかのように装うことで高い飲食代を請求し、もうけを増やすため、であろう。あるいは、メニューの料金を抑えるには、表示より安い食材を使わざるを得なかったという事情もあったのかもしれない。


 「偽装」や「客をだまそう」とするレストラン側の下心は、そのメニューの料理名に表れているように思える。「誤表示だった」と言い募る阪急阪神ホテルズが客に出していたオムライスは、こう表示されていた。「ビーフオムライス 自然卵の半熟オムライスに黒毛和牛ロース肉が入った デミグラスソースを」。ところが、卵には加工卵が混ぜられていた。オムライスという表示より、やたら長いオムライスらしき食べ物の方が、なにやらおいしそうに思える。


 レストラン側は、長い表示についてこう説明する。「お客さんに食材の魅力を最大限、わかりやすく説明するために長くなってしまった」。わかりやすくなったどころか、私にはわかりにくくなった。「芝エビとイカのクリスタル炒め」という料理もあったそうだ。「クリスタル炒め」とは、はて? 料理の仕上げに塩を振ると、塩の結晶が光るのでクリスタルなのだそうだ。その芝エビはニセものだった。


murata_colum80_1.jpg メニューの表示に、レストラン側の意図が透けて見えやしないか。高級ブランド産地の名称を使ったり、「○○農園の野菜」、「手ごねハンバーグ」、「自家製クッキー」、「朝摘みイチゴ」などと表示されたりしているメニューは、それが本当なら、とやかくいうつもりはない。それがまやかしだとすれば、安心、安全できる食材を仕入れ、ていねいにおいしく調理された料理だと、消費者に誤認させようとする意図が隠されているのではないか。

 高く売るために、「お取り寄せ感」を高め、高級ブランドを表示しているとすれば、消費者のブランド信仰を逆手にとった悪質な商法と言わざるを得ない。


 「九条ネギ」が一般のネギだったり、「芝エビ」が輸入エビだったりすると、景品表示法や食の表示にかかわる規定に違反するおそれがあるそうだ。しかし、「手ごね」や「自家製」が、実は既製品であった場合には、摘発する法律や規定がないそうだ。

 法律で罰せられるものは罰すべきだろう。そのことより今回の偽装は、消費者の有名レストランや老舗デパートに対する信頼の失墜の方が大きな問題である。消費者の抱くブランド信仰とは、ブランド産地や食材に対する絶対的な信頼であり、老舗のレストランやデパートは決して嘘はつかないだろうという信頼である。今回の「事件」で、レストランやでデパート側の支払った代償は、とてつもなく大きかったはずである。


 食材を提供する側と、それを口にする消費者との間は、信頼関係だけでつながっているといっても過言ではない。信頼関係が切れてしまえば、すべてが失われる。関係者はこのことを肝に銘じてほしい。(2013年11月26日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。