提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【78】

2013年09月27日

海外展開を加速させる食品産業

                              ジャーナリスト 村田 泰夫


 食品産業といえば、内需産業の代表的存在である。日本の食品産業も、その例外ではなかった。ところが近年、その食品産業に、アジアや米国など海外に展開する動きが目立ってきた。「攻めの農業」の柱として、日本産農産物の海外輸出が農政の大きな課題になっているが、わが国の食品産業はそのつゆ払いをしている形だ。


murata_colum78_1.jpg なぜ、食品産業は内需型産業なのだろうか。国や民族によって食べものの好みが異なるからであろう。そこで、食品産業はもっぱら国内市場の開拓に力を注いできた。コーヒーのネスレやコーラ飲料のコカコーラなど、食品産業の中にも国際展開している企業があるが、工業製品をつくる他の産業と比べれば少ない。日本の食品企業で海外展開している著名な企業といえば、しょうゆのキッコーマンと調味料の味の素、それに乳酸菌飲料のヤクルトぐらいである。


 ところが、全国の食品関係企業のうち、輸出や海外展開に意欲を持つ企業が5割弱もあることが、日本政策金融公庫の調査でわかった(9月11日公表)。調査対象には中小企業も含まれており、内需型といわれてきた食品産業の経営者にとって、海外展開は特別なことではなく、日常の経営戦略のターゲットの一つになってきたということである。

 調査結果をもう少し詳しくみると、輸出や海外展開について「すでに取り組んでいる」企業が19.6%あった。「検討または計画している」企業も6.4%あったから、合わせて26.0%の食品関係企業が、すでに海外市場に進出しているか具体的に検討している。「検討していないが関心がある」という19.2%を加えると、45.2%が海外展開に意欲を持っている結果になった。調査に当たった日本公庫の担当者は「予想を上回る数値」と驚いている。


 すでに進出しているか具体的に検討している企業に、輸出や海外展開に取り組む理由を聞くと、「海外市場の開拓、販路の拡大」が76.9%と最も多く、ついで「商社や海外企業からの引き合い」が30.8%だった。


murata_colum78_2.jpg 「販路の拡大」というのは、人口の減少と超高齢化の進む国内市場は縮小するばかりなので、国内市場だけを相手にしていると、食品企業もじり貧が避けられない。一方、海外市場は人口が急増しているうえ、経済成長で食料品市場が急拡大している。この急拡大する海外市場を放っておく手はないと、食品産業は判断しているのである。「海外企業からの引き合い」があったというのは、海外で日本食や日本産農産物に対する人気が高くなっているあらわれである。


 拡大する市場を求める「プッシュ」の動きと、海外市場から日本産食品を求める「プル」の動きがあいまって、わが国の食品産業が海外展開を加速させている姿が浮かぶ。日本企業側だけの一方的な動きにとどまっているのではなく、進出先である現地に日本産農産物への需要があるということは、先行きに明るい展望を描くことができる。


 海外展開しているか、しようとしている対象国・地域はどこか聞いたところ、「中国」が最も多く43.9%、次いで「香港」41.6%、「台湾」40.4%、「米国」40.3%の順で、東アジアと米国が進出先として人気がある。シンガポール、タイ、韓国にも進出している。業種では「製造業」と「飲食業」に意欲的な企業が多かった。「製造業」の中には、中国や東南アジアで生産し日本国内に輸入するところもあろうが、「飲食業」は進出先の消費者(顧客)に日本食や日本式サービスを提供するもので、日本の食文化を広める先兵としての役割を果たすものと期待される。


 わが国の食品産業の大手は、すでに海外市場でおおいに稼いでいる。製造業では海外進出の歴史の古いキッコーマン、味の素、ヤクルト各社の営業利益に占める海外事業の割合が、キッコーマンで71%、味の素で59%、ヤクルトで53%と、すでに海外事業の利益が国内事業を上回っている(8月28日、日本経済新聞)。キッコーマンは主力の米国が好調なほか、ロシアや東欧で伸びている。味の素はタイやブラジルで調味料が好調、ヤクルトは中国やインドネシアで乳酸菌飲料が伸びているという。


murata_colum78_3.jpg 飲食業界も負けてはいない。牛丼の吉野家の海外出店数のテンポは国内の3倍だし、コンビニ大手のファミリーマートの海外出店数の伸びは国内を上回る勢いである。いずれの食品関連企業も、人口が減少し続ける国内市場に成長余地が少なくなる半面、若年層が多く経済成長の続くアジアを中心とした海外市場に経営資源を投入せざるを得ないと判断しているのだ。


 農業生産者は、輸出など海外展開はまだ難しいと考えているところが大半であろう。TPP(環太平洋経済連携協定)の妥結内容と日本政府のTPP対策によっては、海外から安い農産物が日本市場に流入し、輸出どころか日本の国内市場すら海外勢に奪われる恐れもある。しかしながら、まだ少数の事例にとどまっているが、わが国の先進的な農業法人の中には、輸出に取り組んでいるところが出ている。TPPが妥結しようがしまいが、どの産業にとっても、これからはアジアを中心とした海外市場に目を向けざるを得なくなっている時代であることを、農業生産者は自覚する必要がある。(2013年9月26日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。