提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【74】

2013年05月27日

F・B・Iで農産物輸出を倍増

                              ジャーナリスト 村田 泰夫


 「FBIで国産農産物の輸出を倍増する」――農林水産省が、こんなキャッチを使って農産物輸出の倍増計画を公表した。FBIといっても、米国の連邦捜査局ではない。Made From(フロム)Japan、Made Bay(バイ)Japan、Made In(イン)Japanの頭文字をとった、輸出戦略のことである。


murata_colum74_1.jpg これまで、海外に輸出される日本製品や農産物は「メイド・イン・ジャパン」と呼ばれるのが普通だった。日本国内(イン)で製造された農産物という意味である。ところが、「フロム」には、日本から(フロム)運ばれてきた農産物という意味が、また「バイ」には、日本様式で調理された農産物という意味が込められている。


 農林水産物・食品の輸出額は、「倍増」の掛け声とは裏腹に、実は伸び悩んでいる。5年前の平成19(2007)年に5160億円と5000億円の大台に乗ったが、その後はほぼ横ばいを続けている。平成24(2013)年は4497億円にとどまり、5000億円の壁を越せないでいる。この間、世界的に経済の落ち込んだ2008年秋のリーマンショック、2011年3月の東日本大震災と原発事故による放射能風評被害があったのが響いた。


 この低迷している輸出額を、2020年までに1兆円に増やそうというのが「輸出倍増戦略」である。安倍晋三首相が5月17日に発表した「成長戦略第2弾」には、輸出先の国別、品目別のイメージも示している。


 たとえば、米や米の加工品については、2012年の輸出実績は130億円しかないが、これを2020年までに5倍近い600億円に増やす。なかでも重点品目は「米、米菓、パックご飯、日本酒」とし、「現地での精米や炊飯ロボットと組み合わせた外食販売、日本酒など米加工品の重点化」を戦略として取り組む。また、重点国・地域は「香港、シンガポール、豪州、EU、米国、インド、ブラジル」とする。


murata_colum74_2.jpg これまで、農産物の輸出というと、農協などの役員・担当者が台湾や香港、シンガポールに出向き、日系デパートの店頭で展示即売会を開いて日本産農産物の販売促進をすることが多かった。東京都内のデパートでも地方の農協が展示即売会に出くわすことがあるが、それと似たイベントである。


 通りかかった消費者は、試食してみて「おいしい」といってくれる。ためしに買ってくれることもあり、イベントは好評裏に終わる。だが、それが新規市場でのその後の市場開拓につながるとは、必ずしもいえない。


 これまで、日本産の農産物の輸出といえば、米やリンゴなど一部の日本ブランドものに限られていた。超高価格なので、富裕層や贈答向けとして売れていたが、大量に増やすのには限界がある。まして、日本産農産物の輸出促進イベントが、農協役員らの観光を兼ねた海外出張のチャンスと受け止められている現状では、輸出の増大は望むべくもない。


 イタリアやフランスなどは、農産物輸出をもっぱら担当する専門職員を、主要な海外市場に常駐させている。日本でいうジェトロのような機関の職員が、イベントに特化するのではなく、その市場の有力なバイヤーに恒常的に働きかける体制をとっている。


 日本もイタリアやフランスに学んで、持続的な農産物輸出体制の構築を急ぐべきだ。しかし、そうした物品の輸出促進一本やりでは展望が開けないというのが、FBIによる輸出戦略の考え方である。最終的にはメイドインの日本産農産物の輸出増大が目標であっても、メイドバイやメイドフロムという手法を活用した方が、効果が高いと見込まれるからである。


murata_colum74_3.jpg 「メイド・バイ・ジャパン」の2つの事例を農水省は示している。ひとつは、日本食文化である和食店のタイへの進出である。日本国内でおしゃれだが安い和食店チェーンを経営する「大戸屋」がタイのバンコクに出店した。現地での人気メニューは北海道産の「ホッケ定食」だそうだ。ホッケ定食の人気など和食文化の浸透につながり、バンコクの日系デパートでホッケや味噌などの日本食材がたくさん売れるようになった。


 もうひとつの事例は、インドネシアに進出した日本のコンビニ「ローソン」。現地で日本式のおでんを販売したところ、大人気となった。味の決め手は「だし」にあることが知られ、日本からカツオブシやコンブが輸出されるようになった。さらに、コンビニで売られている日本製の高品質なお菓子が人気となり、日本からの輸出が増えた。


 これからは、日本の和食文化やコンビニ文化を海外展開することで、日本産の食材の魅力をアピールし、結果的に「メイド・イン・ジャパン」の食材の輸出増大に結びつけていくことが肝要であろう。当面は原発事故による日本産農産物に対する風評被害や、諸外国の輸入規制の撤廃を働きかけることからスタートしなければならないが、やる気を出せば輸出倍増も夢ではない。(2013年5月23日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。