提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【70】

2013年02月07日

消費増税と農業・農家への影響

                              ジャーナリスト 村田 泰夫


 買い物をした際や、さまざまなサービスを受けた時に、消費者が負担する消費税。いまは5%である税率が、平成26(2014)年4月から8%に、翌27(15)年10月から10%に引き上げられる。農業者は消費者でもあるうえ、農産物や加工食品の生産者でもあるから、消費税の仕組みとその影響について、改めて知っておく必要がある。


●「食料品には軽減税率を」
 農家の多くは兼業だから、デフレ経済の下で給料が増えないどころか下がり気味のいま、消費税の増税は率直にいって厳しい。
 24年暮れの総選挙でも消費増税の是非が争点の一つとなり、「増税の前にやるべきことがあるのではないか」という説には一定の説得力があった。やることをやったとしても、なお消費増税なくして高齢化社会の安定した財源を確保できない現実もまた真実であろう。
 8%や10%に税率を引き上げる際、「生活必需品である食料品については、できれば非課税に、せめて現行の5%に据え置く軽減税率を適用すべきだ」とする意見が農業界に強い。総選挙でも与野党を問わず、そう主張する候補者が数多くいた。
 農産物や加工食品の生産者の立場からすれば、税率は低い方が売りやすい。高い税率を適用されれば、消費者が買わなくなってしまう。そんな心配が、軽減税率適用を求める背景にある。


●消費税についてまわる逆進性
 もともとは、消費税についてまわる「逆進性」という弱点を補うため、軽減税率という仕組みが考えられた。


murata_colum70_2.jpg 貧しい人もお金持ちも食料品を買わなくては生きていけない。生活必需品の代表である食料品に消費税を課税すると、貧しい人の税負担感を増してしまう。これが逆進性である。
 年収200万円の家庭が年に50万円分の食料品を買うと、負担する消費税は2・5万円だ。年収2000万円のお金持ちがぜいたくして年間100万円分の食料品を買ったとしても、税額は5万円。年収に占める税負担率は、貧しい人よりずっと軽い。税金は納税能力のある人にたくさん納めてもらう「累進性」であるべきなのに、その逆なので「逆進性」というのだ。
 この逆進性を緩和するため、諸外国では食料品などの生活必需品については、本来の標準税率より低い軽減税率を適用しているところが多い。
 英国では標準税率は17・5%なのに食料品は0%、ドイツでは標準税率19%・食料品7%、イタリアでも標準税率20%・基礎的食料品4%といった具合だ。


●軽減税率には課題や問題も
 「それなら、日本でも軽減税率を導入したらいいではないか」といいたくなるところだ。
民主党政権は、逆進性を緩和するため、何らかの対応策を取ることを約束していた。新しい政権もそれをならうであろうが、その手段が軽減税率であるかどうかは、わからない。

 というのは、軽減税率には、公平性を保つうえで、いくつかの問題や課題があるからである。
 食料品すべてに軽減税率を適用すると、お金持ちにも恩典を与えてしまう。「食料品は必需品」とはいうけれど、キャビアやフォアグラはぜいたく品であり、軽減税率を適用する必要はない。そうすれば、ある程度公平さが保てる。
 しかし、一般の食料品とぜいたく品との線引きが難しい。外国でこんなことが実際に起きている。ファストフードのレストランで食べるときは標準税率で、家で食べるために「お持ち帰り用」として買った場合には軽減税率を適用する。同じ品物でも、食べる場所で税率を変えることで公平性が保てるのだろうか。
 おにぎり屋の店内で食べると税率が高く、持ち帰ると低い──なんて、わかりにくい。また、農産物でいえば、一般コシヒカリは必需品で、魚沼コシヒカリはぜいたく品と区分けして税率を変えていいのだろうか。


murata_colum70_3.jpg そこで、軽減税率に代わって、「給付つき税額控除」という制度が検討されている。いわば「戻し税」である。
 軽減税率は適用しないが、所得の少ない人に税金を払い戻す方式である。低所得者だけが対象だから、軽減税率のように高所得者に恩恵を与えることにならない。ただ、この方式にも課題がある。個々人の所得を正しく把握する必要があり、それには「マイナンバー制度」のような仕組みが不可欠になる。


●納税は事業者、負担は消費者
 生産者の立場として、農業者が最低限知っておかなければいけないことがある。それは、消費税の納税義務者は農産物や加工食品をつくり販売する事業者(農業者)だが、税を負担する者は消費者であるということである。
 年間売上高が1千万円以下の事業者には納税義務がない。消費者から所費税を受け取っても国に納めなくてもいいので、その分、得したことになる。
 1千万円以上の事業者には納税義務があるが、国に納める消費税は消費者から受け取ったもの=預かったものであり、事業者が負担しているわけではない。
 しかも、事業者が納める消費税は、消費者から受け取った消費税額すべてではなく、自分が肥料や農薬、種苗など農協やホームセンターから購入した際に支払った消費税額を差し引き、その差額を納めればよい。


murata_colum70_1.jpg たとえば、農業者が自分のつくったお米を消費者に直接販売して、年間2000万円の売上げがあり、100万円の消費税を受け取った(預かった)とする。農業者はお米を育て販売するまでに、苗や農薬、肥料、包装紙、それに農機具の燃料などを購入した時に消費税を支払っている。その消費税の合計が60万円だとすると、消費者から受け取った100万円から、自分が支払った60万円を差し引いた40万円を国に納めることになる。

 自分の支払った消費税の計算が面倒だという人は、「簡易課税方式」を選択することができる。農業の場合、「みなし仕入れ率」を70%と認めてくれるので、消費者から受け取った年間の消費税総額が100万円だとすると、仕入れ時に支払ったと見なしてくれる70万円を引いた30万円を納めればよい。
 消費増税を機会に、事業者としての農業者は、消費税ときちんと向き合う必要がある。

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。