提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【67】

2012年11月26日

TTPへの賛否は大同小異の選挙公約

                              ジャーナリスト 村田 泰夫


 衆議院選挙は「12月4日公示、16日投開票」の日程で行われる。3年ほど前の総選挙では民主党が大勝し、自民党から民主党へ政権交替した。今回の総選挙では、あれだけ国民の期待を集めた民主党への期待が裏切られたとする有権者が多く、おそらく自民党を中心とする政権が復活するというのが、マスコミ各紙の予想だ。石原慎太郎・前東京都知事と橋下徹・大阪市長らの「第三極」が波乱を巻き起こす可能性もあるが、マスコミ各紙の世論調査をみると「自民復調」の流れは変わりそうもない。


 今回の総選挙に臨む農業界の関心事は、なんといってもTPP(環太平洋経済連携協定)であろう。どの政党が政権を取れば、日本はTPP交渉に参加することになるのか、あるいは「参加拒否」を貫くことになるのか。農協など農業団体ならずとも気になるところである。


 野田佳彦首相は、「TPP交渉への参加」を総選挙の争点にしたいといっている。大きな票田である農村票をあてにしている自民党が表向き「TPP交渉参加に反対」といっているので、「民主党=TPP推進、自民党=TPP反対」という対立軸を鮮明にさせ、産業界や都市票を取り込もうという戦略である。しかし、ことはそんなに単純ではない。


 まず、当の民主党内は複雑である。これまで党内には、TPP交渉への参加に根強い反対、ないし慎重な意見がけっこう目立っていた。ところが、総選挙の公示が近づくにつれ、民主党の「TPPを慎重に考える会」会長であった山田正彦氏が、党のTPP推進路線についていけないとして離党してしまった。鳩山由紀夫・前総理も「TPPへの参加を事実上強要する公認申請書にサインできない」といって、衆議院選の立候補をやめてしまった。


 交渉参加に前向きな野田首相ら執行部の「純化路線」が、結果的に進んだといえる。民主党に残る議員の中に「反対・慎重派」は少なくなった。とはいえ、鹿野道彦・前農水相ら公然と「TPP反対」を口にする人たちが、なお党内に一つの集団として残っている。


 民主党政権の農水大臣は、TPPに賛成なのだろうか、それとも反対なのだろうか。記者会見など公式の席で、農水相がはっきりした立場を明らかにしたという話を聞いたことがない。野田首相がTPP推進であり、その内閣の一員であるから、少なくとも「反対」とは言えない。といって「推進」と言えば、反対派の多い農業界では、へたをすると孤立し、農政の執行に支障が出るかもしれない。いまの郡司彰大臣の言い方は、巧妙である。ずるいという意味ではない。言質を取られないように、上手な言い方をしているのだ。たとえば、農業団体や地方自治体の首長から「TPPに是非反対してほしい」と強く要請されたとき、こう答えるのである。

 「閣内にはTPP推進の方もいらっしゃいます。議論がつくされていないとか慎重に考えるべきだとか、みなさんのような農業の立場や地方の方々のご意見や情報を閣内に伝えるのが私の役目だと思っています」。大臣自身は、TPPに反対だとは言わないのだけれども、陳情に来た人たちは、納得して帰るのである。


 一方の自民党も複雑である。自民党の安倍晋三総裁や石破茂幹事長は、TPPについて「交渉参加に反対」と明言しているが、あくまでも「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り」という条件付きである。自民党が11月21日に発表した政権公約にも、そう明記されている。

 これを逆に読めば「聖域なき関税撤廃を前提としなければ交渉参加に賛成」ということである。事実、安倍総裁は、そのような解釈を認める見解を示している。11月15日、日本商工会議所の岡村正会頭らに対し、TPPについて「大切なのは、関税ゼロを突破する交渉力だ。米国とは同盟関係だから(自民党なら)ふさわしい交渉の仕方ができる」と語った。その後の記者会見で「守るべきものは守っていくという交渉はできる」と述べた。要するに、交渉に参加して、成果を上げみせるという自信を見せたのである。


 もともと、自民党内には、農協出身議員を除けば、自由貿易推進論者が大勢を占めている。自民党が政権を取ったとたん、米国のオバマ政権と対立し、TPP交渉に参加すらしないなんて、まったく考えられないことである。日本の安全保障上の戦略だけでなく、通商上の国際ルールを無視する中国を牽制するためにも、TPP推進へかじを切ることだろう。

 TPPは、関税撤廃を原則としている。しかし、それはあくまでも原則であり、例外があることは、交渉の主導的立場にある米国が認めている。米国自身、砂糖などの関税は例外とし、ゼロにする考えなんてみじんもない。TPP交渉における「聖域なき関税撤廃」というのは、スローガンであり、心意気にすぎない。日本の米についても、おそらく関税が即時に撤廃されることはないであろう。だから、自民党の政権公約の文章は、「TPP交渉参加に反対」なのではなく、「交渉参加に賛成」と読むべきなのである。


 また、「民主党には交渉力がなく、自民党には交渉力がある」という安倍総裁の発言も、うなずけない。通商交渉は通常、政治家がやるのではなく、官僚である外交官が担う。交渉の節目や大詰めになったときの決断はもちろん政治家であり、最終的な条約の批准は国会が決める。問題は日本の官僚の交渉力なのである。わが国の交渉力は決しては強いとはいえないが、それは民主党政権だからではなく、悲しいことながら自民党政権になっても同じことである。それは、長い自民党政権時代の外交交渉の結果を見ればわかる。

 第三極といわれる「日本維新の会」や「みんなの党」は、TPP推進でわかりやすい。一方、社民党や共産党など既存左翼政党はTPP絶対反対で、これもわかりやすい。しかし、民主党と自民党については、それぞれ党内に反対・慎重派を抱えながらも、総選挙でどちらが勝ったとしても、基本的には「交渉参加」に突き進むと覚悟しておいた方がいい。自民党の政権公約に「反対」という言葉があっても、それは条件をクリアすることで「賛成」と読むべきだからだ。TPPについて、民主党と自民党の公約は大同小異で、似たりよったりなのである。(2012年11月26日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。