提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【66】

2012年10月23日

低価格米の不足が米価上昇のきっかけ

                              ジャーナリスト 村田 泰夫


 新米である平成24年産米の価格が堅調である。JA全農の23年産米の相対取引基準価格(全銘柄平均)は、1俵(60kg)=1万5300円台で取引され、22年産の1万2700円程度と比べ、約2割高い水準で推移した。24年産はその流れを引き継いだかたちである。農協が農家に支払う24年産の概算金(前払い)を、前年産より1割前後高い水準に設定したことも影響した。

 23年産の相対取引基準価格を銘柄別にみると、低価格米の代表的な銘柄である北海道産「きらら397」は1万4102円と、前年産より約2900円(26.0%)高い。一方、良質米として定評のある新潟県産「一般コシヒカリ」は1万8399円で取引され、前年産より約2750円(17.5%)高い。低価格米の値上がり率がきわだっている。


 なぜ米価が上がり続けているのか、「なぞ」である。前年より2割も高い理由について、米の卸業者は「需給がひっ迫しているから」といっている。しかし、供給面では23年産の米の作柄指数は101の「平年並み」、24年産は102(9月15日現在)の「やや良」で、数字の上では供給量は十分ある。米が不足しているわけではなく、むしろ余るはずである。


 一方、需要面はどうだろうか。総務省の家計調査による米の消費量は、月によって若干の変動はあるが、傾向として徐々に減る傾向にある。供給は十分あって、需要は減る傾向にあるのに、なぜ米価は上がるのだろうか。「一時的な現象」だとする説がある。平成23年3月11日の東日本大震災で消費者が買いだめに走ったことが、米価を上げるきっかけになったというのだ。一時的な仮需の発生で価格が高騰することはままあることである。でも、その反動で需要が急減し、価格は元に戻るのが一般的である。

 実際のところ、大震災の発生した23年3月に前年同期比で16.4%も増えた。この急増は、未曽有の災害を目の当たりにして、不安を抱いた消費者が買いだめに走ったことをあらわしている。しかし、翌月以降の23年4月、5月、6月は、それぞれ前年同期比で大きく減っている。反動減である。買いだめでスーパーの棚から一時、米が消えたことは事実だとしても、買いだめ騒ぎはすぐに収まった。このことが、高米価を招いた主な原因とは思えない。


 原因は「流通在庫が少なくなり、卸業者が米の確保に走ったからではないか」との説が有力である。生産数量は十分にあり、末端の消費量も増えていないのに、米の需給がひっ迫しているのは、「手元の在庫が足りなくなった卸業者が買い急いで在庫を積み増したからではないか」というのである。とくに、牛丼やカレーなどファストフード店など外食産業が欲しがる低価格米の不足が、卸業者を走らせたといわれる。


 農水省の資料によると、21年産、22年産の流通在庫(毎年6月末現在)は、それぞれ212万t、216万tだったのに対し、23年産は181万tしかなかった。流通業者には米を手当てしておかなければならない状況にあった。過去の統計をさかのぼってみると、米価が相対的に高かった18年産と20年産の民間流通在庫は、それぞれ182万t、161万tと低い水準にあった。流通在庫と米価との間には、たしかに関連がありそうだ。


 消費者の低価格米志向が米の需給に及ぼした影響も無視できない。北海道産「きらら397」や「ななつぼし」、それに青森県産「つがるロマン」のような低価格米への需要が増えたのだ。低価格米の値上がりが、良質米を含む米全体の価格水準の引き上げにつながった。比較的価格の高い新潟産「コシヒカリ」などの良質米の価格の上げ幅は、低価格米の上げ幅より少なく、低価格米と高価格米との価格差が小さくなったことも、23、24年産米の特徴である。

 低価格米の大幅値上がりは、牛丼やカレー、弁当などお米を大量に使う外食産業を外国産米に向かわせることになった。政府は毎年77万tの外国産米をミニマムアクセス米として輸入し、うち10万tを主食用に販売しているが、今年第1回目の入札では、中国産米など2万2500tの販売予定量に対し、3.6倍にあたる約8万tの申し込みがあった。平均落札価格は1t当たり27万7千円になった。国産米(約29万円)並みの水準である。


 これまでも、一部の飲食業や弁当業者が米国産や中国産の輸入米を使っていたが、大手の外食産業が公然と外国産米の使用を明言するようになったことに関係者は驚いている。牛丼チェーン大手の吉野家は、8月から全店舗の1割の店で米国産米を混ぜて使い始めた。やはり、牛丼チェーン大手の松屋フーズは、2月からオーストラリア産米を一部の店で使っていた。松屋フーズでは、北海道産米や青森県産米を使ってきたが、「国産米の供給が急に減り、量を十分に確保できなくなったため、オーストラリア産米を混ぜて使うようにした」と説明している。


 一般消費者向けにも外国産米の販売が始まった。大手スーパーの西友は3月10日から中国産米を、首都圏を含む関東を中心とした約150店舗で販売を始めた。破格に安いことから、文字通り「飛ぶように」売れ、品切れの店が続出した。販売したのは中国東北部の吉林省産のジャポニカ米。輸入業者と国内の実需者が連名で輸入するSBS(売買同時入札制度)取引で輸入した。価格は5kg袋=1299円と1.5kg袋=449円で、西友の扱っている国産米の最も安い米より2割以上も安い。

 お米の価格が上がることは、生産者にとって朗報である。農業生産者の売上高は、「生産収量×価格」だから、豊作になることや価格が上がることは、当面の手取りが増える要因になる。だが、中長期的には必ずしも喜べない。高米価は消費者の「米離れ」を加速させ、外食産業など大口需要家を外国産米に追いやるからである。(2012年10月22日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。