提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【63】

2012年08月03日

青年就農給付金に2倍の応募

                              ジャーナリスト 村田 泰夫


 新規就農者を増やすねらいで平成24(2012)年度に創設した「青年就農給付金」制度に、農業者から強い関心が寄せられている。まだ成果が出ていないし、運用次第では予算のむだづかいに終わる可能性も残っているから、評価を下すのは早いけれど、農政で久しぶりのヒットといえるかもしれない。


 青年就農給付金制度は、45歳未満の「青年」を対象に、新規に就農すれば最長5年間、年間150万円の給付金を支給するもの。これが「経営開始型」で、農業大学校や先進的な農業法人で学ぶ研修生を対象とした「準備型」でも、研修生に2年間にわたり年間150万円を支給する。通算すれば、合わせて7年間、当座の生活資金は国が面倒を見てくれるというわけだ。なお、研修を終えた者が、みずから農業経営を始めるのではなく、農業法人などに雇われる形で就農する場合には、そうした若者を雇い入れた農業経営体に対し、国が1人につき月間10万円(年間120万円)の助成金を支給する(「農の雇用」事業」)。

 これは、フランスの「若手農家のための就農援助金」をまねた制度だが、フランスではこの制度を実施した1973年以降、農業就労者の世代交代が劇的に進んだ。農業者の所得を政府が直接補てんする戸別所得補償制度と同じように、青年就農給付金のような「直接給付型」の支援策は、国会審議を経た財政支出なので、政策目的がわかりやすく、国民のチェックが効くのがいい。

 息子が親の農業を引き継ぐのはもちろん、親が農業をやり続けても息子が親とは違う作物や部門経営を始めるなら「独立・自営の新規就農者」とみなしてくれること、しかも以前から就農していても、5年以内に親から経営を引き継げば「新規就農」とみなしてくれることから、農業者の間で早くから関心を集めていた。


 案の定、国の農政事務所や県、市町村などに問い合わせが殺到。農水省が7月下旬の段階で集計したところ、青年就農給付金の支給希望者の数は、準備型が3597人、経営開始型が1万1856人にのぼった。合計1万5453人。このための予算を農水省は、24年度に104億円用意している。準備型で約2200人、経営開始型で約6000人に支給する腹づもりだったから、ざっと2倍の応募者がいる計算になる。

 「うれしい悲鳴」なのだが、農水省は対象者を絞ろうとしている。「妻子を抱えるなど、みずから生計を確保しなければならない者」や「高齢者ばかりで一刻も早く青年就農者が必要な地域に就農する者」に優先的に支給する考えだという。希望者全員に交付するだけの予算がないというのが理由だが、「金がない」ことを理由に対象者を絞るのは、制度創設の趣旨からすれば本末転倒である。かつて、筒井信隆農水副大臣は「足りなければ補正予算を組む」と明言していた。新規就農希望者の抱く不安の芽を、早く摘まなければならない。

 補正予算を組むには、時間もかかるし国会審議を経なければならない。だから、優先順位をつけざるを得ないかもしれないが、「絞る」のはおかしい。後回しの者が出てきたとしても、有資格者には全員支給すべきである。

 経営開始型の就農給付金の支給を希望する1万1856人のうち、6割以上の7281人は「2008年度から11年度に就農している者」であり、12年度から新たに就農する者は4割弱の4575人にとどまる。制度をスタートさせた初年度は過去5年分の新規就農者が希望者に加わり「水ぶくれ」しているのである。その分を差し引き、単年度とすれば、それほど多いわけではない。ともかく、「希望者のうち有資格者には全員支給する」ということを政策責任者は明言すべきであろう。


 農業の現場には高齢化の波が押し寄せている。農村集落ではまさに「限界集落」が現実のものとなっている。農水省が「年間2万人の新規就農者を確保する」という新規就農者倍増計画をつくった背景には、ほうっておけば農村が消えてなくなるという、強い危機感があったからである。

 「毎年2万人」という新規就農者の数は、「マスト」で確保しなければならない数のなのである。現在、39歳以下の新規就農者は年間1万3200人だが、途中で3分の1ぐらいがやめてしまうので、定着するのは、年間ざっと1万人ぐらいしかいない。


 一方、毎年必要な人数は、約2万人である。その根拠は──。水田など土地利用型農業の農地面積は全国で約300万haある。1人で10ha耕すとすると約30万人が必要だ。その他の営農類型でも、ざっと30万経営体が必要で、1経営体に2人の基幹労働者が欠かせないとすると、60万人いなければならない。合わせて90万人。農業者の場合、20歳ぐらいで就農し、65歳まで45年間働くとすると、リタイアする一方で新規参入者が毎年2万人いて、入れ替わらなければ、農業の担い手は足りなくなってしまう計算なのだ。


 それなのに、実際は半分の1万人しか確保できていない。そんな現状をみれば、「予算が足りないから」などといわず、補正予算を組んででも、新規就農者を呼び込むことに全力を挙げなければならない。これまで、さまざまな対策を打っても若い担い手を確保することはできなかった。当初予算の105億円の2倍の予算で、新規就農者が確保されるのであれば、これほど安上がりな事業はない。ということは、効率のよい担い手確保対策だということだ。(2012年7月31日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。