提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【57】

2012年02月17日

年2万人の青年就農者

                              ジャーナリスト 村田 泰夫


 農水省は平成24(2012)年度から、若手の新規就農者に手厚い支援策を導入する。現在、年間に定着する若手就農者はざっと1万人なので、これを倍増の2万人にする計画である。

murata_colum57_1.jpg 「倍増なんて可能なの?」と心配する声が出てくるに違いない。しかし、支援策は研修期間を含めて7年間にわたって、年に150万円支給するという厚遇ぶり。23年度第4次補正予算で23億円、24年度予算で136億円を計上しているが、農水省は手ごたえを感じているようで、「不足すれば、予算を追加する」(筒井信隆副大臣)気がまえである。


 これまでも、新規就農者の増加に農水省は腐心してきた。しかし、一向に増えなかった。平成22(2010)年の新規就農者は5万4600人だが、5年前には約8万人いたから、むしろ減り気味である。

 年間8万人とか5万人も新規就農者がいると聞くと「そんなに多いの」と思うことだろう。ところが、その多くが、いわゆる「定年帰農」の中高年なのだ。平成22年の新規就農者のうち、76%の4万1400人が40歳以上の中高年である。その中には、親元が農家で自分は勤めに出ていたが、勤務先が定年になったので農業を始めたという「60歳以上の自営農業就農者」が2万6200人も含まれている。

 新規就農者のうち39歳以下の「青年」は、1万3200人にとどまっている。そのうち、ピッカピカの新規学卒の就農者は1600人しかいない。トヨタやNTTなど大企業1社の新規採用人数にも及ばない。寂しいかぎりだ。「青年」の1万3200人のうち、さらに就農者として定着するのは1万人ぐらいではないかとみられている。これを2万人に倍増する野心的な計画を、農水省は立てたのだ。

murata_colum57_5.jpg 支援策である「青年就農給付金」には、「準備型」と「経営開始型」とがある。「準備型」は、道府県の農業大学校や先進農業法人などで研修を受ける就農者に、最長2年間、年間150万円を支給する。助成の対象となる「青年」は、①就農予定時の年齢が45歳未満であること、②研修終了後、自営農業を始めるか雇われる形で就農すること、③常勤の雇用契約を結んでいないこと、などである。ただし、研修終了後1年以内に就農しなかった場合や、助成金を受けていた期間の1.5倍以上、就農し続けなかった場合には、助成金を返さなければいけない。つまり、2年間支給されたら3年以上就農する義務があるということである。


 「経営開始型」は、新規就農者に、農業を始めてから経営が軌道に乗るまでの間、農業収入は不安定であるだろうから、その間の生活費を助成しようという趣旨で、最長5年間、年間150万円を支給する。この金額は、最低賃金の水準に相当する。助成の対象となる「青年」は、①独立・自営就農時の年齢が45歳未満であること、②独立・自営就農であること、③市町村の作成する「人・農地プラン」(地域農業マスタープラン)で、担い手として位置づけられていること、などである。ただし、支給金を除いた本人の前年の所得の合計が250万円を超えた場合には、支給が停止される。

 夫婦ともに就農する場合には、1.5人分を支給する。また、複数の新規就農者が法人を新設して共同経営する場合には、人数分を支給する。

 農家が知りたいのは、息子が親元で農業を始める場合であろう。助成の条件は、あくまでも「独立・自営」であることにある。独立せずに親元の農業を手伝う形で就農した場合には、支給の対象とならない。しかし、親から経営を譲り受けた場合や、親とは違う作物や部門を経営する場合には、支給の対象として認められる。たとえば、親は水田経営をしているが、息子が野菜やイチゴの施設園芸を新たに始める場合、などである。

 さらに、すでに親元で独立せずに就農していても、5年以内に親から経営を継承するか、独立・自営する場合には、青年就農給付金の対象となる。


murata_colum57_6.jpg 一方、農業大学校などで研修後、独立・自営せずに、農業法人などに雇われる形で就農した場合、給料をもらう本人には助成金を支給しないが、雇う農業法人側に雇用者1人につき1カ月10万円以内(年間120万円以内)を最長2年間助成する制度もスタートさせる。

 いずれも、かなり手厚い助成策であり、これで新規就農者が増えることを期待したい。


 この日本の青年就農交付金の仕組みは、実はフランスの「若手農家のための就農援助金」制度をまねたものである。就農者の高齢化に危機感をいだいたフランス政府は、若者の就農を促すため、1973年から青年就農交付金制度をスタートさせた。研修の実施、就農計画の作成、受給後1年以内の就農、最低5年間の営農を条件に、交付金を支給している。就農する地域によって交付金の金額は変わり、条件不利地域ほど高く、平場ほど低い。

 2009年の実績だと、1農業者当たり平均165万円(1万6500ユーロ)で、日本もこの金額を参考にした。平均年齢は28歳で、約6000人が受給している(うち農家子弟が7割)が、交付金受給者の10年後の定着率は、95%と高い。

 この制度の導入の結果、フランスの専業農家のうち40歳未満の農業者の割合は、大幅に増えた。1970年の15%から、30年あまり後の2003年には29%に増えた。一方、青年就農支援策を導入してこなかった日本では、専業農家のうち40歳未満の農業者の割合は、1985年の16%から、ほぼ25年後の2009年にはわずか5%に激減してしまっている。

 私が以前、フランスの農業を取材した際、農業者の世代交代、つまり若返りがスムースに進んでいることを実感した。その一因に青年就農交付金があった。さらに、自分の息子に限らず若者に経営を譲渡した場合には、離農終身補償交付金(いわば年金)を支給する制度も、代替わりを促すテコになっていると感じた。(2012年2月9日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。