提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【36】

2010年06月17日

変身した食料・農業・農村白書

                      ジャーナリスト 村田 泰夫


 平成21度版の食料・農業・農村白書が公表された。最初に白書を手にして感じることは、その嵩(かさ)だ。ずしりと重い。前年度版は203ページだったのに、21年度版は342ページと1.7倍に増えた。ぱらぱらとめくった印象では、内容が充実していそうなことだ。量が増えたということもあろうが、新しいデータや分析も加えられている。


 「白書」とは年次報告書である。1年間にどのようなことが起きたか、データを示すとともに、若干の分析を加えた政府文書である。一般国民向けの文書でありながら、年々ページ数が増える傾向にあった。もっとわかりやすく、読みやすくするために、何年か前に大幅にページ数が削られた経緯がある。その結果、内容に深みがなくなったように、私には思えた。白書は最初からすべて読み通すものではなく、拾い読みするものだろう。必要とする分野のデータがたくさん盛り込まれていたほうが、使い勝手がいい。


 21年度版白書の特集は「新たな農政への大転換」である。白書はこういう──新しい農業基本法が制定されて10年。この間、食料自給率の低下、食に対する消費者の信頼の低下、農業所得・農業者・農地の減少、農村の活力の低下など厳しい状況にある。これは、これまでの農政に問題があったからで、その「反省」にたって、大幅な政策転換を盛り込んだ、新しい「食料・農業・農村基本計画」を制定したとしている。


 今年の白書は、民主党政権に代わって農政の基軸に「戸別所得補償制度」を据えたことを高らかにうたいあげている。これまでの白書では、自民党政権が長く続いていたこともあって、過去の政策を批判的に記述することはなかったように思う。それが、今年の白書では、いかにいまの農業、農村が疲弊しているか率直に述べたうえで、それを解決する政策として、民主党農政の目玉である「戸別所得補償制度」を挙げているのである。その意味では、「政治主導色」の濃い白書ということもできよう。


 民主党農政の目玉政策の「正当性」を誇示したいためだろうか、農業補助金の中で「直接支払」の位置づけをきっちり示したデータが、白書に盛り込まれた。農業所得に占める政府からの直接支払額の割合をみると、EU(欧州連合)25カ国では78%にのぼっているのに対し、わが国では23%にとどまっている。日本の場合、農業所得総額が3兆803億円なのに、直接支払額は6943億円。その内訳は、産地づくり交付金(転作奨励金)1700億円、麦作振興助成金1000億円、中山間地域直接支払200億円、稲作基盤整備助成金700億円、農業者年金1500億円などだ。


 戸別所得補償制度による、国から農家への交付金の支給は、典型的な直接支払制度である。戸別所得補償制度の導入は、農業所得に占める直接支払額の割合を高めることになり、わが国の農政が欧米先進国の採用している農政の「国際標準」に近づいたことを意味する。(2010年6月16日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。